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何故かこの日はパッと目が覚めた。
「うーん……まだ夜か」
思っていたよりも早くから寝てしまっていたのだろう。カーテンを閉じ忘れていたので、月の光が部屋に入ってきている。
ソファに座ると、両手を上げてのばす。
〈あれ?何か音が聞こえる?〉
夜になったにも関わらず、賑やかな音が外から聞こえてくる。何か催し物でもあるのだろうか。立ち上がると、もう一度大きく伸びをする。
「ふ~気持ち……ってええ!」
確かに自分の手と足がある。胸辺りまである真っ黒の髪が伸びている。それにスーツを着ている。完全に全身真っ黒状態で人に戻った。
「嬉しいけど複雑だわ……とりあえず、クローゼットの中の服をお借りしよう」
お昼に見た、恐らく私服であろう格好をする。その近くにあった布で雑に髪の毛を隠すと、早速家から出た。なお、不器用は復活したらしく、だいたい五回くらい躓いたけど慣れっこだ。
この時間でも、お昼ほどではないが、それなりに人が歩いている。それにあの時開いていなかった店が代わりに開いているようだ。黒猫が足下を駆け抜けていく。
〈あれ?さっきの猫、黒かった?〉
横を通った人を見て驚く。髪の毛の色が黒だ。他の人も見てみると、黒い瞳の人もいれば身に付けている物が黒い人もいる。
〈どういう事?……とりあえず人に戻った以上は自分でお金を稼いで生きていかなくちゃいけないのね!私にはこの国の言葉が読めるのかしら〉
近くにあった店の前にあるメニューをじっと見るが、読める字ではない。全くわからない。メニューに近づいたとき、ちょっとした段差に引っかかる。そして体全部を使って、その店の扉を全力で開いてしまった。顔から転けたけれど、どう考えても視線を浴びているはずだ。恥ずかしくて顔が全く上げられない。
「なんか……女の子倒れてるよ」
「嘘!?……ほんとだ。大丈夫?」
女の人が私に尋ねてくる。
「アンタ煤けた格好をしてるね」
そう言われたとき、自分的に今世紀最大の良い案を思い付いた。嘘をつくのは申し訳ないが、緊急事態ゆえに、と思って罪悪感を退散させる。
「ここは……どこですか?何も思い出せなくて」
「まさかアンタ記憶がないの?」
必殺、記憶失った作戦だ。これなら字が読めなかったり、何処から来たかを聞かれても答えなくて済むだろう。我ながら良いアイディアだ。
「とりあえず、私の部屋に行きましょ?あなた暫く一人で店番頼んで良い?」
「ああ、任せてくれ」
顔を上げると、奥さんと目が合う。お互いに目があって、二人とも瞳が黒だと気づく。店にいるお客さんもどこかに黒を持っている人ばかりだ。ただ何故か旦那さんには黒が無いように見える。
「さ、歩くの手伝うから、私の部屋に行くよ」
「ありがとうございます……」
嘘ついてごめんなさいと、心の中で謝った。