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「こんばんは猫ちゃん」
糸目さんは夢に出てきた。
「猫ちゃん、僕はとうとう猫語を習得したんだ!と言うことで、さっそく話してみてよ。そうだな、例えば名前とか教えてくれない?」
「私は美雪です。実は私がもう一人の人間なんです!私を戻すことは出来ないですか?」
え?と言いたげな顔をしている。閉じられていた目が、カッと開かれて私がびっくりする。
「君が?」
かくかくしかじか
「えっとつまり、車という乗り物に、はねられそうになっていた猫を助けようとした時に、こちらの世界へと引っ張られたと言うことで良い?」
頷くと、糸目さんは苦笑いをした。
「ミユキはこちらに来る途中で、その助けた白猫と混ざったという事かな……なんせ僕も人を転移させたのは初めてだから、まさかこんな事が起きるなんて、全く予想してなかったよ」
「そういえば、本は見つかりましたか?」
首を横に降られ、ガックリしてしまう。このままでは、本当に猫のままで一生を終えなければならないかもしれないのだ。しかも全然知らないこの世界で。
「先輩はお元気ですか?」
「ああ、ミツキだね。あの子は今、この国の王子の許嫁として頑張ってくれてるよ」
さらっと、とんでもないことを聞いてしまった。確かにあの先輩は、昔水泳を習ってたから地毛が茶色くなってるという話を、本人が言っていたし、瞳の色が焦げ茶色だから黒はダメという国に相応しい。私は黒髪に黒い瞳だからまずいけど。
「まあ、この国の王子は、ちょっとややこしい人だから、頑張ってもらわないとね」
それを知ってて、先輩をその家の娘にしたのは意地悪だ。
「最初から恵まれた人生は楽しくないよ」
「性格悪いですね……ところで、お名前は何呼べば良いですか?」
目を細めて「秘密」と言われた。ふてくされていると、何処かから声が聞こえてきた。キョロキョロとしていると、糸目さんがため息をついた。
「誰かが僕を起こそうとしている。じゃあ失礼するよ。明日も良い日になるように」
私の頭を一撫ですると、跡形もなく消えた。その瞬間、私の目の前も真っ暗になった。