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その日の夕方、エメリヒにシワシワになっていたシャツとスーツを綺麗にしてもらった。新品のようになった服を見て喜んでいると、先日してもらっていた美月先輩ももう一度してもらっていた。カバンと中身は既に私の部屋に戻してくれているらしい。久しぶりに帰る部屋の埃がどれだけになっているか心配だ。スーツを着た私が新鮮だったのか、ライナルトはじっと見てくる。恥ずかしくなってテオさんの後ろに隠れた。


「この前私が帰った時に、あっちからこっちに来れなくなったんだけどその問題は解決した?」


美月先輩の素朴な疑問を忘れていたのかエメリヒはあからさまに「しまった」という顔をした。


「大丈夫!僕が試したときには普通に帰ることができたからいつでも来れるようになってるよ」


本当に~?本当ですよ~!という二人のやり取りを見て私とライナルト、テオさんはクスクス笑ってしまう。けれどもこれを今度いつ見れるかわからないのは少し寂しく感じてしまう。


「じゃあそろそろ帰ろうか!明日から普通に仕事が待っているから頑張ろうね」


一度帰ったことのある美月先輩は鏡に躊躇なく入ってしまった。全部消えてしまったが、もう一回顔だけ出すとこちらに向けて話した。


「私、こっちに来てから柴くんの事どうでも良くなったの!だから笑顔でフッてくる!テオ君とエメリヒ、一緒に考えてくれてありがとう」


それだけ報告すると再び消えてしまった。名前を出された二人は残念そうな顔をしている。本当に何するつもりだったのだろうかと心配になった。私も鏡の前に立つと試しに鏡に触れてみた。すると私の手はするすると中に入っていく。慌てて引っこ抜くと皆の顔を見た。ライナルトは近づいてくると、私のことを後ろから支えるように抱きしめてくれた。


「きっとまた会えるから。その指輪を君が持ってくれている限り」


耳元でささやいてから離れると、私の背中をそっと押してくれた。頭の中で家に帰りたいと全力で念じつつ、勇気を出して鏡の中に入る。入ってみると、不思議な空間にいた。エメリヒと夢の中で話していた頃に近い空間にいる。そして目の前に私の部屋にある鏡が立っていた。


『にゃーお』


驚いて足元を見ると真っ白な猫がすり寄ってきていた。撫でてみると嬉しそうな顔をしてくる。この子は私と一緒に元の世界に帰ることができないのだろう。足元から離れるともう一度鳴いてくれた。


『にゃおん』


消えた。私たちを連れてくるために生まれた存在だったから、完了したから消えてしまったとわかっていても私は涙がこぼれた。


「ありがとうね!」


大きな声で私は言うと目の前にある鏡の中に飛び込んだ。疲れて明日が憂鬱になりつつ帰る部屋がそこに待っていた。思っていたよりも綺麗な状態の部屋を見て安心する。最初にスマートフォンを充電にさしたまま電源を付けてみると数件の連絡が来ていた。お母さんから心配の連絡がたくさん来ている。私はそれに返信をすると電源を落とした。地面に置いているクッションに座ると、左手を上に伸ばした。


その薬指には相変わらず美しく輝く指輪があったのだった。


ーーー


「おはよう美雪」


「おはようございます美月先輩」


偶然入り口で会った私たちは話しながら部屋に入った。いつも怒られていた私が美月先輩と普通に話している事に驚いた顔をしている人が多い。


「あれ?美月先輩そのネックレスどうしたのですか?」


「ネックレスを美雪にプレゼントした話をテオ君に話したら、このネックレスをプレゼントしてくれたの。本当に物好きな人」


宝石の部分を指で持ち上げながら愛しい人を見つめるような表情で宝石を見つめている。美月先輩がテオさんに傾いているのが一瞬でわかる。


「今日ね、柴くんをフッてくるから。美雪もその指輪を他の皆に見せつけてやりなさい!じゃあ化粧直してくる」


急に曲がってトイレへ入ってしまった。私は自分のデスクがある部屋に入ると皆に見られた。いつもなら恥ずかしくなってそそくさと移動していたが、もう昔の自分ではない。堂々と歩くとデスクに向かう。椅子に座ってパソコンを起動していると女の先輩に話しかけられた。


「ねえ、この書類を印刷してくれないかしら」


パシられる気配を察した私は丁重にお断りをした。ほぼ全員が私の変わりように動揺していた。

お茶をこぼさない、嫌なことは断る、美月先輩と話している、指輪をしている、そして何より身だしなみを整えている。昔の自分のダメさを知って恥ずかしくなってきた…。


「美雪、お昼食べるよ~!」


他の人からの誘いを全部断って私のところにお弁当を持って美月先輩が来た。私も頷くと外にある休憩スペースのベンチに座って食べる。


「さっき柴くんと別れてきたよ。浮気してるの知ってるよと言ったら開き直ったから、テオ君直伝のグーパンチしてやった」


美月先輩は持っていたお弁当をベンチに置くとシャドーボクシングをした。それを見て笑ってしまう。


「だから今度ね、私からテオ君に告白しようと思う。応援してね」


「わかりました!お手伝いできることあったらいつでも言ってくださいね」


食べ終わって美月先輩は再びトイレに行ってしまった。ベンチでのんびり太陽の光を浴びながら考え事をする。これまでは結婚もせず独り死んでいくと思っていたが、ライナルトと出会うことで人生は大きく変わった。


「これからどうなるか楽しみだな」


そう言って私は頬を緩ませたのだった。


≪END≫

一度挫折してしまいましたが、無事に完結して良かったです!

番外編を時々投げると思いますので、良ければ読んでくださいね!

本当にありがとうございました!

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