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遅くなってほんまに申し訳ないです…
手を引かれるようにして連れていかれたのは城内にある庭だった。様々な花が咲き乱れるこの場所は本来なら立ち入り禁止で、猫になっている時でも入らせてもらえなかった場所である。辺りは暗いにもかかわらず、色とりどりの花は美しく月の光を浴びて輝いていた。
「どう?凄く良いでしょ?ここは俺が自分の趣味で育てている庭なんだ。意外だった?」
「そうなの!?本当にすごいと思う!私は家で育てても枯らしちゃうことが多くて植物買うのをやめたんだ」
辺りを見回していると、ライナルトは私の名前を呼んだ。彼の方を見ると真剣な表情をして私のことを見つめていた。何か大事な話をしてくれると察した私は、彼の方に体を向ける。すると今までずっと繋いでいた手を離してライナルトはポケットの中に手を突っ込むと小さな箱を取り出した。そしてその箱を開けると、中にはキラキラ光る指輪が入っていた。真っ黒の大きな石が飾られていた。
「単刀直入に言います。ミユキ、俺と結婚してください。君がこの世界の人間ではないともちろんわかっている。でも俺は君とこれからの未来、共に歩いて行きたいと思っているんだ。これが重いと思うのならばこの指輪は受け取らなくて良いよ。帰って君の世界の人と結婚するというのならば俺は…努力して忘れようと思う。でも、いや後はミユキが決めることだね」
言葉を中途半端に止めると、箱の中から指輪を出した。そして私の指を待つかのように持って、私の顔をじっと見た。その指輪の黒い宝石は花に負けないほど美しく輝いていた。
私は本当に必要のない人間だと思って日々生きていた。でもこの世界でたくさんの人に出会って、成長できた。そして何よりライナルトは一人で不安だった私を一番近くで見てくれていた。話し相手になってくれて、最初は不審者だと思っていたことも懐かしく感じる。これまでの経験から導き出される結論は一つだった。
「私もライナルトと一緒の時間を過ごしたいと思っています」
左手の薬指を、指輪の前に差し出した。ライナルトは静かに指へはめてくれる。ピッタリサイズの指輪は今度は私の指で美しく光っている。そのまま力強く抱きしめられた。私も恐る恐る背中に手を回すと、抱きしめ返した。
「愛してる」
簡素だけど気持ちのこもった言葉に自然と涙が出てきた。
ようやく離れると、ライナルトは熱の帯びた瞳で私の目を射抜いた。動くことができなくて、彼が次に行く言葉をただ待っていた。
「キスしても良いですか?」
いきなりハードル上がりすぎでは!?と思いつつ、私は真っ赤になりながら頷いた。ライナルトは再び抱き合うようにして距離を急激に近づけてきた。それはまるで溺れるように、私はただ彼の想いを受け入れ続けたのだった。
ーーー
『ふわ~あ』
私は目を覚ますと大きく伸びをした。昨日寝る前に外した指輪をぼんやりと眺めている。黒い宝石の名前がわからない。
「それ、ブラックダイヤモンドっていう宝石なんだよ」
隣で寝ていたはずのライナルトがいつの間にか起きて私のことを見ていた。そのまま起き上がると私のおでこにキスを落とす。そしてベッドから出ると、ラフな服に着替えた。私は猫になってしまっているため、そのままベッドから降りてもう一度伸びをした。ライナルトは部屋にあるコーヒーメーカーで珈琲を淹れると、飲みながらこれからのことをたくさん話した。
「ミユキが抱き枕になってくれたおかげで今までで一番眠れた気がする。…今回はミユキが恥ずかしいと言ったから我慢したけど次は無いからね」
『だって恥ずかしかったから!』
流され流され気づいたらここまで来ていた。そこで私は突然羞恥心が復活して思わず逃げてしまったのだ。何となく察してくれたライナルトは私を抱き枕にするという条件で今回は見逃してもらった。次に入る時は覚悟が必要だ。
「とりあえずお祖父様にミユキのことを話すところからだな。それにミユキも一度帰らないといけないからな」
『そうだね、この猫の体ともお別れになっちゃうのか。なんだか寂しいなぁ』
ひょいとライナルトの膝の上に乗ると私はくつろいだ。
「意外と大胆だよね」
背中を撫でられてゴロゴロ言ってしまう。しばらく猫でしかできないことを満喫した。
「たまにはゆっくりする日も必要かな」
私たちは幸せをかみしめるように、部屋の中で午前中はのんびりと過ごした。そして午後からは部屋に散らかっていた書類を片付けつつ過ごしたのだった。
一方その頃、街は歓声で溢れていた。ある者は楽器を演奏して、ある者は踊っていた。老若男女問わず、そして黒を持つ者も外に出ていた。掲示板には一枚の紙が貼られている。≪本日、昼の民、夜の民制度の廃止を決定した≫サインのついたその紙に書かれている字は、紛れもなく王様の字であった。
次回最終回……かも?




