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遅れました
もうすぐ完結ですが、番外編を入れたいとも思っています
「あ、あれ?」
突然の珍客に一番動揺が隠せてなかったのはクラウスだった。震える声で言った。
「どうしてノーラが」
「あらアナタ、久しぶりね。あ、今はアナタって言う資格がないんだったわ」
エメリヒに体を支えられながらゆっくりと歩き出す。青白い顔が病弱さを醸し出していた。そのまま王様の正面まで進むと机に手をついて話しをした。
「実はクラウスを逃がしたのは私なの。お父様が彼を望んでいないのに連れてきたのを知ってるんだから。だって王族内に男の後継者がいないから。そんな古臭い考え方やめてしまえばいいのに」
グサグサと刺さりそうな言葉を投げまくるノーラの方が王様の顔よりも怖かった。
「私は自分の体の弱さを呪ったわ。もしできたなら手を繋いで城から連れ出してあげたかった。
でも当時の私はすぐに調子を悪くしていたから、それを逆手に取ったの。エメリヒをただのへなちょこと思っていたの?」
今度をこちらに振り返りつつ話してくれた。私の隣に来ていたエメリヒを見上げてみるとドヤ顔をしていた。
「彼の力で私の肌の色を不健康な時と同じようにしてもらったの。しんどいのは私の演技、なかなか上手かったでしょう?……で話は戻すけど、正直お父様がこの様なことをすると思わなかった。でも連絡が取れない以上、今さら私がやったと言ってもお父様は信じてくれないと思った。この機会を待っていたの」
ノーラはそこまで勢いで全部言うと、疲れたのかフラリとよろめいた。近くにいたライナルトが支えると、ノーラは深呼吸をしてから言葉を続けた。
「悪いのは私、だから追い出すのは息子でもクラウスでもない……私よ」
挑むような目を向ける。王様はしばらく睨むように娘の顔を見ていたが、やがて諦めたようにため息をついた。
「お前たちの気持ちはよくわかった。ワシに少し時間をくれ、考えをまとめる時間が欲しい。ライナルトの隣にいる娘についてはきっちり話を聞かせてもらうからな。もう今日は帰ってくれ」
疲弊したように言葉を紡ぐと、王様はそれ以上に言葉を発することはなかった。今までロクに話を聞いてくれなかった王様がここまで善処してくれたのは初めてだったのか、ライナルトはホッとした表情を浮かべていた。
「失礼します」
全員部屋から出た瞬間、事前に合わせていたように大きな声で「やったー!」と言った。その声を聞きつけたのか美月先輩とテオさんも部屋から出てきて嬉しそうに笑っていた。
「みんな本当にありがとう。特にお母様のおかげで無事ここまで話を進められました。本当にありがとうございます」
ノーラはライナルトに向き合うと頭を撫でた。誇らしそうな顔をすると次はクラウスの方を向いた。
「元気そうで良かった、幸せに暮らしてね。じゃあ私は帰るから、エメリヒ戻りましょう」
「はいはーい」
エメリヒが支えるようにしてノーラは暗闇の中に消えていった。その後ろ姿を、何も言うことなくクラウスは見つめていた。
「じゃあ僕はお父様が帰られる際の付き添いに行きます」
「私もそうするね。ねえテオ君、私にこの街の観光案内をしてくれない?詳しい人と歩いてみたいと思っていたから」
そんなことを話しているとき。
「ライナルト、テオ」
クラウスはいつもより大きな声で二人の名前を呼んだ。びっくりしたように二人はクラウスを見る。
「私はもう息子に会えないとずっと思っていたから、こうやって再び会うことができて本当に嬉しかったよ。もし良かったら、私の店に来てくれないか?」
心配そうに二人の顔を窺うように見るクラウス。その顔を見た二人は同時に笑い出した。
「お父様がそんなに恐縮する必要はないですよ!今度は僕の仲間たちと一緒に食べに行きますから、沢山準備しておいてください」
「お父様に会えて、俺は嬉しかったです。これからも俺たちのこと見守ってください」
クラウスの目からポロポロと涙がこぼれた。ライナルトもテオさんも困ったように笑ってからクラウスを抱きしめた。その光景を見た私も泣きそうになるのを必死に我慢する。
「ありがとう。じゃあ、失礼するよ」
そう言ってテオさん、美月先輩、クラウスは廊下を歩いて行ってしまった。残ったのは私とライナルトだけである。
「ミユキ、ちょっと来てもらいたいところがあるんだけど良いかな?」
ライナルトは私の目を見てそう言った。私は前に話があると言われていたのを思い出した。
「わかった」
短く言って頷くと、ライナルトは安心するように笑ってくれた。
「じゃ、行こうか」
再び手を繋ぐと、誘われるがままに歩き出したのだった。