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「せ、先輩これは流石にちょっと恥ずかしいです!」
体のラインが完全にわかってしまうドレスを着させられて思わず先輩に詰め寄ってしまう。髪をセットしてもらいメイクも先輩に全部お任せした。すべて終わって鏡を見ると自分とは思えなくて一瞬固まってしまった。
「なんか本当に勿体無い事をしてたのね…私よりスタイル良いんじゃないの?」
ボソボソ呟いて私が詰め寄ったのを完全に無視していた。ポカポカと叩いてみるもののひたすら呟いて何も反応してくれない。我に返った美月先輩は私を見ると、何かを思い出したかのようにどこかに行った。暫くすると小さな箱を持ってきた。中にはキラキラと輝くネックレスが入っていた。それを私の首にかけてくれた。
「実はこれ私がここに来て買ったネックレスなの。なんかこの国ではダイヤモンドの価値がそれほど高くなくてこれだけ大きいのに普通に買えたのよね。だからこれあげる、これ着けて頑張ってね」
ダイヤモンドという単語を聞いて目を見開いてしまう。言われてみると夜には閉まっていた店も多く、宝石店はいつも閉まっていたイメージがある。朝では猫になっていたのでロクに観光ができていなかった。
「最高に可愛いわよ!さ、行ってきなさい!」
背中をバシンと叩かれた。慣れないピンヒールで躓いてこけそうになるのをギリギリ耐えると先輩の方に振り返った。
「もうこけませんから!行ってきます!」
私は全力で笑顔を作ると背筋を伸ばして歩く。そのまま部屋から出ると勇ましく歩きだした。
ーーー
「あーあ、行っちゃった」
さっき出ていった美雪の後ろ姿が羨ましかった。いつもボサボサで猫背で笑うのが苦手そうだった彼女はいつの間にか前向きになっている。羨ましくて妬ましくて、でも成長を感じられて嬉しかった。
「あ、ミユキさんの準備できたのですか?」
かわりに入ってきたのはテオ君だった。ソファーに座っていた私の隣にテオ君も座った。
「テオ君もお疲れ様。お父さんに会えてよかったね」
私が声をかけると嬉しそうに笑いながら答えてくれた。
「そうですね、僕が小さな頃にはお父様が居なかったので久しぶりに会えて嬉しかったです。どうやら兄さんが僕について話していたそうで色々と聞かれてしまいました。疲れましたけど…楽しかったです」
その表情を見ていると心が温かくなった。自分は親と折り合いが良くなかったのでテオ君を見ると心がチクチクと痛くなった。ここ最近はずっとそうだ。誰を見ても羨ましく感じてしまう。美雪、テオ君、ライナルトも幸せを掴もうとしている。それに比べて自分はどうだろうか、柴くんには浮気をされて散々な目に合っている。
「ミツキどうしました?」
私の表情を敏感に感じ取ったのか、テオ君が心配そうに私のことを見てきた。
「なんか自分だけ幸せになれてないなと思ってね」
「そうですか、じゃあ今から幸せになれば良いんじゃないですか?」
どうしてこんなことに気づかないのか?みたいな表情で私の顔を見てきた。言い方に少しむっとしてしまう。
「僕が幸せにします」
ストレートに投げかけられた言葉にうまく反応ができなかった。そう言っているテオ君の表情は本物で言い返すことができなかった。
「ま、それを決めるのはミツキですしシバのことも何とかしないといけませんからね。とりあえずこの話は保留で」
立ち上がると、私の手を握って無理やり立たせた。そして私の方を見るとこう言った。
「待っているだけじゃ幸せは来ませんよ、だから僕は何を言われても負けません。前に進むことだけ考えてますから。ミツキはどうしますか?」
余りにも真正面からの真っ直ぐな言葉に、思わず私は笑ってしまった。クヨクヨしている自分が恥ずかしくなった私はむしろ引っ張るように歩きだした。
「前向いて行くしかないわね!とりあえず今の課題を確実にクリアするわよ!」
テオ君のクスクスと笑う音が後ろから聞こえた。それが自然と心に馴染んでポカポカと温かい気持ちになった。