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30

祝30

そして土曜日に投稿できた喜びをぶちまけておきます。

気づいたら誰かの腕の中にいた。突然のことで訳も分からずキョロキョロしているとエメリヒが居ることに気づいた。その瞬間に私は泣いた。何故ならあの息苦しい世界から、帰りたかったこちら側に戻ってきたのがわかったからだ。


「どうして泣いてるのですか?」


心地の良い声の主はテオ君だった。ギュッと力を込めて抱きしめてくれる。いつのまにかエメリヒは部屋からいなくなっていた。二人きりになると、普段だったら居心地の悪さを意識してしまいそうになるが今はそれどころではなかった。


「俺に何があったか聞かせてもらえませんか?」


緑の瞳で私を覗き込むように見てきた。優しさを感じ取ってまた涙が零れ落ちてしまう。私は戻ってからの出来事を全て吐き出すように話した。その間ずっと彼は落ち着かせるように背中に手を回して撫ぜてくれていた。柴くんよりも大きな手に安心していると、自分が落ち着きを取り戻しているのがわかった。


「そのシバってのが俺の恋路を邪魔していたやつですか?そうですか……」


テオ君は怒りを我慢するかのように手を握りしめていた。目が完全に犯罪を犯しそうになっている。慌てて私は付け加えるように言った。


「あ、でも私に何か足りないところがあったから……目が怖いよテオ君」


「自分のこと悪く言わないでください」


何故か怒りが私に向いていた。近距離で怒られてしまって言葉が出なくなった。怒りを我慢するようにしながら、静かにテオ君は話し始めた。


「まず、これは訂正してください。ミツキに足りないところはありません。俺にとってアナタこそ素晴らしい人なんですよ?もし目の前にシバがいたら出せる力全てを使って殴っていたと思います。さっきエメリヒに頼んで一度だけミツキの様子を見せてもらったんです。いざ見たら部屋で泣いていて、気づいたら腕を伸ばしていました。……こうやって腕の中に素直に入っているミツキを見てるだけで本当に感情が爆発しそうです」


更に力を込められて骨が悲鳴を上げている。腕をぺちぺちと叩くと少しだけ緩めてくれた。私はこれまで色々な人と付き合ってきた。学生生活でも恋人には困ることが無かった。ただそれは私の顔目当ての人ばかりだった。だからこれまで私の全てを好きだと言ってくれたのはテオ君が初めてだった。今まで柴くんという存在がいたからこそテオ君との関係がここで止まっていた。でも柴くんが居なくなった私は空中にフワフワと浮かんでいる状態になったと気づいた。


「俺って悪いやつですよね。失恋して泣いている好きな人を今なら狙えるって思ってるんですから」


突然耳元で囁かれた。このまま腕の中にいると嫌な予感がしたので腕の中からすり抜けた。


「でも正式に別れたことになってないから!どうやって別れるか悩んでいるの」


「まあ確かに浮気をしていた事実を突き付けてから別れたいですよね。俺も人の彼女を取るんじゃなくて、好きだって言ってもらいたいですし」


試すような瞳で見てくるので思わずヒエ~と心の中で言ってしまう。


「そろそろエメリヒ呼びましょうか。三人でどうやって別れるか話し合いましょう」


テオ君のとんでもない提案に苦笑いをしてしまう。だけど心が軽くなったのは事実だった。もし一人だったらずっと泣いていたかもしれない、なんて考えると無理やりでも私をこの世界に連れてきてくれた彼には感謝している。


「テオ君、ありがとう」


言われたのが驚いたのか、テオ君はしばらく動かなくなってからボンッと顔が赤くなった。


「そういうのずるいですよね…そういうところも好きですけど」


顔を隠しつつテオ君は小さく呟いた。私もいきなり好きと言われて顔が赤くなる。こんなに自分がウブだったのかと余計に恥ずかしくなったのだった。


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