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土日は投稿できるか微妙な状態です。申し訳ございません。
私が鏡を触れてみると、もうただの面になっていた。辺りを見回すと自分の部屋に帰ってきた実感をする。
「やっと帰ってきた~!」
美雪はまだやらないといけない事が沢山あるだろうし、残っているとテオ君に捕まってしまいそうな気がしたので速攻で帰ってきた。カレンダーを見てみると、ちょうど一週間経っていた。机の上にはあちらの世界に置いていたカバンなどの荷物が置いてあった。スマホを取り出すと、充電は完全に切れていた。早速つけてみると、とんでもない量の通知が来ている。数日もあけていたのに柴くんから一通しか連絡が来ていなくて、何だか寂しかった。
次の日、仕事場に行くと色々な人に話しかけられた。みんなは風邪から復活した私のことを歓迎してくれている。誰一人美雪のことを心配している素振りの人はいなかったし、帰ったのを若干後悔し始めていた。
「先輩!心配してたんですよ~!でも体調回復して良かったです!」
通り過ぎるごとに話しかけられて愛想よくしているのも疲れてきた。上司に声を掛ける。
「姫野、かなり体調を心配していたが回復して良かった。これからのよろしく頼むぞ」
どこに行ってもやはり美雪の話をしている人はいなかった。ため息をつきつつ帰路につく途中で、後ろから肩をチョンチョンとされた。振り返ると、私が一番待っていた人が後ろで笑っていた。
「美月先輩、心配してたよ」
柴くんは近づいてくると人前にもかかわらず抱きしめてくれた。
違和感。
いつもつけていた香水と違ったから。昔、私が苦手だから変えてほしいと頼んでいた甘い香りの香水をつけていた。
「やっぱり病み上がりだからしんどい?無理したら駄目だよ?」
私の反応の薄さに心配したのか、柴くんは顔を見てきた。私は大丈夫という気持ちを込めて笑うと柴くんも笑い返してくれた。手を繋ぐと二人でゆっくりと歩きだしたが、甘い匂いに耐えられなくて涙が少し出そうになった。
それから数日間、美雪は帰ってくる気配がない。周りに聞いてみたところ、美雪は怪我をしてしばらく来れないことになっていた。ただ周りが興味ない顔をしていたのを見てイライラするだけだったので話を切り上げた。そして過去の自分も同じだったのかと思うと更にイライラしてしまい、一度休むためにと休憩室へ行った。扉を開ける前に、半開きになった部屋から声が聞こえてきた。
「ね~柴くん。美月先輩、帰って来たのにこんなことしてて良いの?」
「うん」
本当に嫌な予感がして、見るのが怖かったけれど勇気を出して覗いてみる。そこには私の後輩を抱きしめている柴くんがいた。あの甘い匂いが彼女の使っている香水で間違いなかった。
「俺って罪深いね。でも先輩がしばらくいなかったおかげで君に会えたんだから感謝しないと」
それだけ聞いたら十分だった。私は全力で走ると、机に向かって黙々と作業を進めた。定時になるとカバンを掴むようにしてオフィスから出た。始めて他の人に愛想を振りまくことなく家に帰った。家に帰った瞬間、ボロボロと涙があふれてきた。裏切られた悲しみと怒りで感情がぐちゃぐちゃになる。涙を流しながらリビングに戻ると鏡に触れてみた。ここにいるのがあまりにも辛かったから。強く押してみたが、何の変哲もない鏡だった。
「どうして…柴くんのこと好きだったのに……」
床に座り込むと、スーツにシワができることなど構わず心の底から泣いた。
それはいきなりだった。突然目をこすっていた手を誰かに掴まれたのだ。慌てて視線を上げると、鏡から手が伸びていた。そしてその手の人物は強引に私を引っ張ると、鏡の中へと引きずり込んだのだった。
後編に続きます