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これからは基本的に20時投稿を目指して書こうと思います。
二日後、結局アタシは廃墟に来てしまっていた。
「もし今日いなかったら二度と来ない、今日いなかったら二度と来ない……」
何度もつぶやきながらどんどん奥に進んでいった。あれからあの寂しそうな表情が忘れられずモヤモヤとしていたのだ。
食堂の手伝いの休憩時間に、居ても立ってもいられず来てしまった。例の部屋の前に到着した。
アタシは勇気を出して勢い良く開けた。自分自身、居てほしいのか居てほしくないのかわからなくなっていた。
「あれ?ディアナさん……どうして?」
あの日と同じようにクラウスは座っていた。まるでそこから一度も動いていないように。
「久しぶりだ…ね……」
微笑むと何故かそのままベッドにぶっ倒れた。そのまま一向に起きてこないので慌てて近寄る。
ギュルルルル~
お腹の方から何かが聞こえた。何かではない、明らかにお腹を空かせていた。アタシは一目散に走りだすと、今までで一番速く家に到着した。そして自分の昼食用に作っていたサンドイッチを包み、水筒に水を入れると再び廃墟まで高速で戻った。部屋では変わらずベッドに倒れたまま伸びていた。
「ちょっとクラウスさん!起きて!」
揺り動かすと、クラウスは本当に体調が悪そうな顔で起き上がった。サンドイッチと注いだ水を見せると、驚いた顔でこちらを見た。
「これ貰っても良いの?ありがとう!」
それ以降は無言でモグモグ食べだした。自分で食べられない量を作ってしまう癖があるので、クラウスに食べてもらって好都合である。アタシのお腹も鳴った。恥ずかしくなって顔をそらすと、クラウスはニコニコしながらサンドイッチを差し出した。
「これもしかして本当はディアナさんが食べるやつだったんじゃない?ごめんね食べちゃって」
包みの中に入れていたサンドイッチを差し出してくれた。アタシは受け取ると食べる。今回のサンドイッチは野菜がたっぷりで体に良いのが最大のポイントだ。
「ディアナさんって口に食べ物ためててリスみたいですね。とっても可愛いですよ」
喉に詰まりそうになった。いつも気が強いから可愛いなんて言われたことが無かった。
もし実際に言われたら叩いてやろうと思っていたが、本当に言われると身動きできなくなってしまった。これは言った相手がクラウスだったからだろう。この人が嘘を言うようには見えないから。
「ありがとう。とっても美味しかったよ。それってディアナさんが作ってたサンドイッチなんですか?凄く料理が上手だなと思って」
「パンに野菜とか挟んだシンプルな料理ですからね、これくらいならいつでも作れますよ。
あの、どうして何も食べてなかったのですか?少し歩けば食べるところたくさんありますよ?」
苦笑いをすると、しばらく考え込みそして答えを言った。
「兵士に追われていて、外に出ると捕まるんです。だから出ようにも出られなくて」
この人は犯罪者なのか?思わず後ろの下がると慌てたように言葉を続けた。それは突飛すぎて信じられない話だったけど、やっぱりアタシには嘘をついているようには見えなかった。
「え、城から追い出されたのですか?住んでいた故郷に帰らせるために無理やり…奥さん、奥さんでもないのか?すごい人ですね」
「とりあえずどうすれば良いのか私自身がわからないんです。でも帰ったらノーラの安否も子どもたちのことも分からなくなってしまう。だから帰るわけにはいかないのですが、どうやら父さん…王様にもバレてしまったようですね、というかやっぱり二人が極秘でやってたのか…」
冷静に自分の状況を考えているクラウスの落ち着きようがアタシには理解できなかった。
「とりあえず逃げながら生活頑張ろうと思う。ディアナさん、これ以上私に関わらない方が良い。何かあってからでは本当に危ないから」
アタシは反論できなくて、ただ従うように廃墟から出て行くしかなかった。
ーーー
「ま、そこでアタシは引き下がらなかったから今があるんだけどね!」
その後、結局引き下がらなかったディアナは毎日のようにご飯を作っては渡しに行ったらしい。しかしそれを誰かにリークされてつけられてクラウスとの密会をバレてしまう。するとつけていた人にとってディアナの瞳の色である黒が印象的だったのか、この街に今でもある制度が完成する。そして廃墟に居られなくなったクラウスを家族を説得して家に来てもらったらしい。
互いのことを意識し始めてからは早かったらしく、ディアナの両親の後を継いでカミル君が産まれて今に至るそうだ。
なんて行動力なんだ。それが私の頭の中に最初に出てきた言葉だった。
「あの人は魔性だね。なんであそこまでやろうと思ったのか未だにわからないもの。でもこうやって店の切り盛りもしてくれているし、アタシの幸せにクラウスとカミルが居るのは絶対条件ってこと。あ、これあの二人には秘密にしててよね」
そう言ったディアナの照れくさそうな微笑みはいつもの豪快な笑いではなく、少女のような可愛らしい微笑みだった。
もうある程度ゴールが見える距離まで来ました。もう少しお付き合いください。