22
なんか更新したはずが消えていたので、もしかしたら22話が二つになるかもしれません。
どちらも同じ様な内容なので気にせず一つだけ読んでください。
私、姫野美月はライナルトの自室の前にいた。深呼吸をすると扉のノックをする。暫くすると、鍵の開く音と共にライナルトが顔をのぞかせた。その腕にはシュネーが抱きかかえられていた。
「どうぞ、紅茶淹れてもらおうか?」
「いいえ、今日話したいことがあったから来たんだけど良いかしら?」
招き入れるように扉を開くと、私はソファに座った。デスクには大量の紙が散らばっている。
「ああ、ごめんね。最近はこっちの作業が忙しいから街を歩いたりできてないから……もうひと段落したら行こうね」
そう言って優しく微笑んでくれた。私はこの顔を見るとほんの少し悲しくなる、何故ならこの顔は私を割けているように感じるからだ。どこか距離があるように感じてしまう。私の杞憂なのかもしれないと初めは思っていたけれど、あの時名前を呼び間違えられた瞬間に察した。ライナルトは美雪の方が好きになってしまっているのを感じ取ってしまったのだ。元の世界では自分の方が男性との距離が近く、女友達もたくさんいた。なのにこの世界に来てから美雪の方が楽しい生活をしていると脳裏にちらついて離れない。そしてそんな楽しんでいる彼女に対して嫉妬している自分自身が一番嫌だった。
「あのね、ライナルト様と私の婚約を破棄してほしいの」
一瞬の沈黙ののちに、ライナルトは深々と頭を下げた。
「あの時に名前を間違えたことは本当に申し訳ないと思っている。俺はなんてことをしてしまったんだ」
「実はね、あなたが名前を間違える前から好きな人がいたの。ここで結婚してもお互いに気まずいままでしょ?これはお互い様なの。あなた一人が悪いわけではないわ」
心配そうにシュネーが近づいてくる。そのまま私の膝の上に乗るとこちらを見上げてきた。
「ありがとうシュネー。大丈夫よ、わたしには本命がいるのだから」
私の本命はいつでも柴くんだもの。他の同僚が狙っていると何度か聞いたことがあったので心配で仕方ない。彼はイケメンすぎるから。……たまに私に何も言わず音信不通になる日があるのは気にしたら駄目だと割り切っているけれど。
「君にそう言ってもらえると嬉しいよ、でも悪いことをしたのは事実だから謝らせて」
「ところで、そのミユキって子はどんな子なの?いつ好きになったの?」
話題を明るくする為に多少の犠牲は必要だと思うの。咄嗟に逃げようとしたシュネー…いや美雪を腕の中に閉じ込めると諦めたように動かなくなった。
「ミユキは一目惚れなんだ。初めて見た時、真っ黒だけどキラキラと輝く瞳が本当に綺麗で。話していると彼女の清らかな心が言葉から伝わってくるんだ。どこに住んでいるのか、夜に会うまではどこに居るのか全然教えてくれないけれど、俺は彼女を守れる存在になりたいと思った。だから……俺はその婚約破棄を正式に受理させてもらおうと思う」
そう言ったライナルトの表情は生き生きとしているように見えた。
「その覚悟わかったわ。相手の子が黒を持っている夜の民である以上は、早くこの国の制度を廃止にしないといけないよね」
美雪は私の膝の上で完全に固まってしまっていた。思わぬタイミングで聞かされた告白に動揺しているのかもしれない。
「じゃ、私は邪魔したらいけないから失礼するわね」
「ありがとう、俺も踏ん切りがついたよ。……その、好きな男ってテオのことではないんだよね?」
帰ろうとした私は振り返りながら言った。
「テオ君は良い子だね。私よりも良い人はもっといるから彼には幸せになってほしいの」
私はいずれ元の世界に帰り、あちらの世界で好きな人がいるからこの世界では幸せになれないだろう。
「そっか、ミツキも良い人だからきっと幸せになれるよ」
その言葉に返すことなく私はライナルトの部屋から出たのだった。




