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頑張って書いてます~
目の前に立っていたのは、今まで見たことがない人だった。筋肉質でいかにも鍛えられた肉体、さっぱりとした髪型に、とてもきれいな顔をしていた。どこかで見覚えのある顔だなと思いながら見ていると、その男の人は話し出した。
「兄さんは最近別の女性に夢中なんです。許嫁なんてこちらから破棄してやれば良いのですよ!俺じゃダメなんですか?」
熱烈な告白に聞いていた私が驚いてしまう。それがいつも通りなのか美月先輩は呆れた顔で言った。
「やめて、あなた今日は騎士隊長として訓練するから見に来てって言ってたのになんでここにいるのよ。他の人に迷惑かけたらいけないでしょ」
怒られた子犬のような顔をする男の人。やがて後ろから大きな声を出しながら走ってくる人が見えた。
「隊長ー!突然消えたと思ったら図書館に走っていくのでびっくりしましたよ!とりあえず戻ってきてください」
ぐいぐいと引っ張られるように男の人は連れていかれてしまう。そんな中でも男の人は響く声で美月先輩に話しかけた。
「ミツキ、待ってますからね!俺は絶対に諦めませんから!」
遠ざかるのを見送ると、美月先輩は大きなため息をついた。
「テオ君そろそろ諦めてくれたら良いんだけどな……」
再び歩き出した美月先輩は私を部屋に送り届けてくれると、そのまま部屋の床に堂々と座ってしまった。せっかくのドレスがクシャクシャになってしまっている。私も横に座るとさっきの人について聞いてみることにした。
『あの人は美月先輩の知り合いですか?』
そう聞くと、次は床に倒れてしまった。そのままポツリポツリと言葉を紡いだ。
「あの人はね、ライナルトの弟さんでテオって言うの。私がライナルトに相手にされてないってのを薄々感づいてて、最近グイグイ来るようになったのよ。言ってくれるのは嬉しいんだけどね?でも……筋肉質な方は対象外なのよ、その細身の子が好きだから柴くんともお付き合いしてるし……うん」
段々と小声になって、とうとう最後の方は聞こえなくなっていた。確かに先輩が付き合っている柴くんは細身な体系をしている人間代表みたいな人で、そんなヒョロヒョロした男性が好みなのは他の人のうわさ話で聞いたことがある。
「嬉しいけど」
ちょっとはにかんでみせた美月先輩の顔は本当に美しかった。名前負けしていない本当に綺麗な顔。
「でね、この前そのライナルトと話していた時に彼がうっかりミスをしたの。私のこと見ながらミユキって呼んだのよ?本当にびっくりしたんだから。
まさか彼の口から美雪の名前が出てくるとは思わないでしょ。でも安心して、私はバラしてないからね。どうやって出会ったか教えてもらっていいかしら?」
これまでの経緯を全て説明した。偶然出会って、未だに王子であることを私に言ってくれていないこと。他にも店で働いていることも話した。そしてお互いにこの国の色の制度についてなんかも話してみた。
「私は元から髪とか瞳とか茶色いけど、美雪は真っ黒だから無暗に昼から歩けないよね」
『そうですね。白猫になっているから歩けますけど、本来の姿なら終わってましたね……それに聞いたところですと、今の王様が自分の息子が逃げたのが原因で作ったとも言われているそうですよ』
そう言った瞬間、大きな声で美月先輩は笑った。たまたま廊下にいた人は猫がいる部屋から突然笑い声が聞こえてさぞ驚いているだろう。
「何それ本当に笑っちゃうやつじゃん!は~面白い話が聞けて楽しかったわ。じゃあそろそろ帰ろうかな…そうだ、美雪の働いている店に行くのと、その説を教えてくれた人に今度会わせてね?絶対よ?」
満足そうな顔をして美月先輩は部屋から出て行った。彼女の素の部分が見れたような気がして嬉しかった。