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猫になって迎えに来てもらって、エメリヒの自室に連れて行ってもらう途中に話していた。
「基本的に猫になってから迎えに行くようにしてるからリングを付けられるけど、人間に戻るときには部屋からしっかりブレスレット持ってくるようにしなよ?さっきみたいなことが起きた時に、こちらから対処できないからね……さっきの驚いた顔面白かったけどフフ」
『いつから見てたんですか!?』
本当にいつから見てたのかわからなくて、逆に恐怖を感じてきた。
「一応さ、何かあったら困るでしょ?見張りを付けられないからたまに僕が見に行ってたりするんだよ」
『どうやってですか?』
私が聞くと、無言になってしまった。そのまま涼しい顔をして通路を抜けていく。私は猫の手で精一杯肩をバシバシと叩いたがそれもむなしく、やたら長いエメリヒの足はとてつもないスピードで部屋へと向かっていた。
「ふ~ん……そのリングと私のつけているブレスレットを付けることで私たち言葉を交わせるわけね~」
美月先輩の足の上に乗せてもらう。そして近くにあった櫛を使って綺麗にしてもらえる。エメリヒが何か言いたそうこちらを見ていたが、諦めたようにため息をついた。
「とりあえず二人に来てもらったのは、重大な報告があるからです!なんと解読ができたんだよ!」
「言ってすぐできるなんて、なかなか仕事ができるじゃない!」
櫛に力がこもって、少しだけ皮膚が痛かった。しかし私たち異世界へ飛んで来た組からすれば、願っていた展開になる。ようやく帰ることができるのかもしれない。
「と言いましても、少々難がございまして……聞きたい?」
「そりゃ聞くにきまってるじゃない。不備があったら困ってしまうでしょ」
エメリヒが苦笑いをしながら申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……戻れたとしても、その戻った瞬間に戻されるから君たちの場合は事故の直前に戻ることになるんだ」
一瞬の沈黙、私は瞬時に察して美月先輩の膝から急いで飛び降りた。その瞬間勢い良く立ち上がった美月先輩は、エメリヒに怒った。
「それって、つまり私たちにご臨終しろってこと~!?」
「やっぱり怒られた!だから重大報告というのは、帰れることじゃなくて振り出しに戻ったことなんです!」
怒られてしまって敬語になってしまったエメリヒ。私も仕事で大きなミスをした時に同じような怒られ方をしていたので思わず背筋が伸びてしまう。猫だけど。美人だから普通に怒られるより圧が凄い。
「噓でしょ!それじゃあ私たちはいつになったら帰られるのよ……というかそもそもあっちはどれだけ時間進んでるのかしら」
『あの……そろそろ猫と離れる方法とかも知りたいのですけど』
二人して尋問するように近づくと、エメリヒは本棚にぶつかって逃げ場がなくなってしまった。
「と、とりあえずもう少し待ってほしいということかな。解散!」
突然視界から消えたかと思うと、気づいたら扉の前に移動していた。そのまま扉を開けて出て行けと催促される。
「エメリヒは次に会う時までに、あっちの時間と美雪が戻る方法と、帰る方法をある程度報告してもらうからね?わかった?」
ひきつった笑いをしながら敬礼をするエメリヒに同情しながら、美月先輩に抱きかかえられた状態で私は部屋から出た。
「もう……全く進んでないじゃないの。いつになったら帰られるのかな。柴くんにも会いたいなぁ」
独り言のように美月先輩は話しかけてくれた。
『私もはやく猫から人間に戻りたいです』
そう言って笑いあっている時だった。私の顔が笑えていたかどうか以下略。すると突然目の前に人が現れた。
「ミツキさん、どうして最近俺のこと避けるんですか?」
目の前にいたのは全く知らない男の人だった。チラリと美月先輩の顔を見てみると、今まで見たことないような変な表情で顔が固まっていた。