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「う……うーん」


 目を覚ますと、一面真っ白な空間にいた。辺りを見渡すと、姫野先輩も近くに倒れている。


「先輩!大丈夫ですか?」


  ふと、気づいた。立ち上がったはずなのに、地面との距離が近すぎるということを。そして自分の手が毛むくじゃらになっていることを。


「まさか……私動物になってる?」


「あれ……ここどこよ」


 丁度、目を覚ました先輩のもとに駆け寄る。四足歩行になってしまい、起きあがった先輩の顔が遠くなった。


「あ、猫ちゃんは居るのね。村上さんは何処に行ったのかしら」


『ここにいますよ!』と、言ったつもり。


「ニャオン」


 と、口から出ている。どうやら完全にあの時助けた猫になってしまっているようだ。言葉が話せない。


「おや、起きましたか」


 一匹と一人の空間に、突如もう一人出てきた。その人は男の人であり、髪は腰まである。着ている服もヒラヒラとした変な服だ。その糸目の男の人はこちらに歩み寄ってきた。


「確か僕は人間を二人連れてきたと思ったのですが……猫?」


 そう言って頭を撫でられた。肌荒れのしていない艶々とした手で撫でられると気持ちが良い。首の下を撫でられると、グルグルと言ってしまう。


「可愛いですね~。あ、そうだ忘れてました。実は僕、彼方の世界から人を連れてこれる本を見つけて試しにやってみたんです。そしたら貴女と猫が来たんですよ」


あまりのマイペースさに私もびっくりだ。


「じゃあ……帰れないんですか?」


先輩が聞くと、男の人は首を縦に降った。


「まさか本当に上手くいくと思わなくて、帰る方法の載った本を見つけてないんですよ」


『そんな……』


「ニャフ」


 口から音が漏れる。やっぱり言葉にならない。


「その代わり、その本が見つかるまで僕の国が住んでいる国に滞在してもらいます。何か一つ願い事を叶えてあげましょう。それがせめてもの償いです。さ、君は何を願う?」


 先輩は嫌そうな顔をして黙りこんでいる。この人のことを信頼していないようだ。猫になってしまった私は、あまりに非現実的なこの状況をすんなりと受け入れてしまっている。むしろ、元の姿に戻れるかどうかの方が一番気になるところだ。


「じゃあ私を、その国で有名な家の娘にして」


「良いですよ。じゃあ目を閉じて……」


 男の人が指をパチンと鳴らした瞬間、先輩の姿が消えてしまった。まるで無かったかのように。


「さて、猫ちゃんだが、残念ながら僕は猫語はわからないんだ。だから、城下町に住む野良猫になって、色々な人と交流をするのはどうだろう?」


 そんなサバイバル出来ればしたくない。全力で嫌な顔をするが、その顔が反映されているのかもわからない。


「でも、君は白猫だから、きっと皆も良くしてくれるよ。黒猫じゃなくて良かった」


もう一度優しく撫でると、私に言った。


「よし、それじゃ、いってらっしゃい」


 パチンという音と共に、目の前が真っ暗になった。


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