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クラウスの過去編です
これは美雪がこちらへ来るより前のお話
「ノーラが倒れただと!」
次男のテオが無事に産まれて数年。体が元から弱い妻のノーラの体調が安定してきたと、安心をしていた束の間だった。あわてて部屋に行くと、青白い顔をしたノーラが優しく微笑んでいた。
「あら、わざわざ来てくれなくて良かったのに」
「君、また無茶をしただろう?」
手を優しく包み込むと、ひんやりしていた。思わず力を入れて握る。
「今回も貧血気味ですね。体に良いものを食べて、ゆっくり休んでくださいね」
専属の医者にいつも通りの診断をされる。
「お母さん大丈夫?」
「体……痛いの?」
ライナルトとテオが遠慮がちに覗きこみながら部屋に入ってきた。そのままノーラに抱きつく。
「大丈夫よ。ほら、お父さんと一緒にお外で遊んでおいで?アナタ、お願い」
明らかに脂汗をかいていた。子ども達に心配されるのを避けたいようなのを察して、頷いた。
「よし、じゃあ行くぞ!」
キャッキャと騒ぎながら出ていく息子の後を追いかけるようにして、少し止まってふりかえる。
「ゆっくり休んで」
「ありがとうクラウス」
いつもの事だと思っていたのだが、予想外の方向へと進んでいくのだった。
「おかしい……どうして治らないんだ」
回復する様子が見られなかった。むしろ少しずつ細くなり、やつれてきている。専属の医者も初めてのケースだと言って対応できていない。
「大丈夫よ……ねえクラウス、ちょっとお願いがあるの。エメリヒを呼んできてちょうだい。二人きりで話したいことがあるの」
「エメリヒ?ああ、わかった」
昔から城にいる糸目の男だが、未だに正体がわかっておらず、本当に奇妙な男だ。ノーラと接点があったのが意外だったが、それ以上に何を話すのかという方が興味がある。
歩き回っていると、エメリヒを見つけた。
「おーいエメリヒ。ノーラが呼んでいるんだ。行ってやってくれないか?」
「ノーラ様が……わかりました」
ペコリと一礼すると、向かっていった。仲間外れにされた気がして、少し気分が悪かった。
・・・
「クラウス様、ノーラ様がお呼びです」
数日後ノーラとエメリヒは、ほぼ毎日話し合っており、仲間外れにされた気がして、完全に拗ねていた頃だった。今日も話すと言われたので会いに行けず退屈で、無駄に大きな図書館で適当にパラパラと本をめくっている時だった。
「おや、ノーラとの浮気は終わったのかい?」
「クラウス様が拗ねていると聞きましたので」
飄々と言ってのけるエメリヒにデコピンをして、ノーラの寝ている部屋へと向かった。なぜかエメリヒと一緒に。
「なぜ君がついてくるんだ」
「まあ」
流される。やっぱり本当にこの二人ができているのではと思いながら部屋に入った。
「ノーラ、調子は……」
軽く訪ねようと顔を見た瞬間、言葉がでなかった。彼女の体調は明らかだった。悲しみと同時に、なぜ私を部屋に入れてくれなかったのかという怒りと、どう話せば良いか分からない迷いで、言葉を紡ぐことが出来なかった。
「今まで、ごめんなさいね。アナタにたくさん迷惑をかけちゃった。私だって自分の死期くらいならわかるもの。だからお願いを聞いて欲しいの」
弱々しく笑うと、彼女は言った。
「ここから逃げて」
あれ?展開おかしくない?と思った人!
安心してください大丈夫です
続きます