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目標を堂々と破りましたすみません
自分なりのペースで頑張りたいと思います
いつもの廃墟に出てくると、そのまま店に向かう。オレンジ色の街頭も、賑やかな話し声も、前と同じで少しホッとする。
いざ店に着いてみると、何故か電気が消えていた。臨時休業と雑に書かれた紙が張られている。
〈どうして閉まってるのかしら?ノックをして反応が無かったら諦めて帰ろうかな〉
なんて考えながら扉をノックすると、しばらくの沈黙のあと、店に電気がついた。
「ちょっと、その紙の文字読めないわけ?」
憎まれ口を叩きながら扉を開ける聞き覚えのある声。目があった瞬間、カミル君の表情が驚きに変わった。
「ただいま戻りました……わっ!」
「心配したんだぞ!」
店の中に強引に引き込まれると、気づいたらカミル君の腕の中にいた。怒った口調とは裏腹に、抱きしめる力は優しい。何故か私はライナルトを思い出して恥ずかしくなった。
「ミユキ!」
「おかえりなさい」
急いで走ってきたディアナに、カミル君と重なるように抱きしめられた。後ろからゆっくり来たクラウスも安堵の笑みを浮かべている。穏やかな私の日常に戻ってきた事を痛感し、少しだけ涙がこぼれた。
「あの話しをしたその日に居なくなるんだから!心配したの」
リビングにお邪魔させてもらい、ディアナから説教をされていた。
「俺にも教えてくれない?もしかしてまだ信頼されてなかったとか?」
隣に座るカミル君の圧力が強い。ディアナの口から私が移転してきた人物であるとは言われていないようだ。腹をくくるしかなかった。
「わかった。じゃあ今までの事、全部話します」
もう一人の息子であるライナルトと接触している事以外すべてを話してしまおう。
・・・
「にわかに信じられないが……エメリヒだね?」
始めに口を開いたのは、意外にもクラウスだった。私が頷くと、彼は苦笑いをした。
「父さんの知り合い人なの?」
どうやらカミル君は良くわかっていない様子。もしかして、まさか……
「カミル、実はお前に話していない重要な秘密があるんだ。大きくなったから、いつか言おうと思っていたのだが……。昔、今の王様の息子が失踪した大事件があっただろう?」
やっぱりこの話をしたことが無かったのか。何もわからず頷いているカミル君。
「実は……それ、私の事なんだ」
一瞬固まったあと、目を見開いた。
「は?」
驚きの告白に、カミル君の頭が全く追いついていない。真顔のままで動かなくなってしまった。同じタイミングで、飲み物を作りに行っていたディアナがリビングに戻ってきた。部屋に良い香りが漂う。
「意味がわかんないんだけど、は?父さんが?」
「……そうだな。じゃあ私がどうしてここでディアナと結婚をして、この店を経営しているかを話そう。折角紅茶も淹れて貰った事だし」
そう言ってクラウスは、おもむろに話だした。彼の本当の過去を。