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二日に一回更新を目標にします
先輩はドレスを着ているにも関わらず、器用に走ってくると、私を抱きしめた。
「良かった」
泣きそうになるのを堪えて、抱きしめ返す。
「まあまあ、とりあえず座りなよ」
エメリヒにそう言われ、確かにと言って笑いあう。さっきまで寝ていたソファに座った。
「村上さんは、どうやってこっちに?」
「私があの時の猫になってしまったんです……」
他にも今まで飲食店で働いていたことや、どのタイミングだと猫になるかなどを詳しく。ただ先輩がライナルトの許嫁である以上は、最近ほぼ毎日接触していることを言うのはやめておいた。
「ということは、シュネーって、もしかして村上さんの事なのかしら?」
「そうなんです!白は縁起が良いからと言って捕まってしまったのですよ」
「なるほどねぇ……私の方は……」
知らない家で目を覚まして、許嫁ということを知らされて……と、中々にハードな暮らしだ。
「それにしても……村上さん、貴女変わったわね」
「そうですか?」
美しい笑みを浮かべると、先輩はそのまま続けた。
「昔の貴女だったら、私の目を見て話せなかったでしょう?その働いているお店のおかげでしょうね。それに!髪とか肌とかツヤツヤになって!ま、私には敵わないでしょうけど」
フフフと笑う先輩は、昔よりも優しくなっていた。変化があったのはお互い様だ。
「あっちに居た時は美容番長とか言われてて、周りに集まる子達もクセの強い子ばかりだったから、こうやってゆっくりする時間が無かったの。だから貴女に八つ当たりしてて、本当にごめんね?良かったら美雪って呼んでも良い?」
「わ、私も美月先輩って呼んでも良いですか?」
確かに女性陣のリーダー的存在であった先輩は、私の知らない苦労も多かっただろう。改めてあのヒエラルキーに入らなくて良かったと痛感する。
「……で、エメリヒ。私達を呼んだと言うとこは、何か進展したのよね?」
「うっ……えっと」
突然話題をふられたエメリヒの表情に余裕が無くなり、むしろ冷や汗が浮かんでいる。どうやら先輩には頭が上がらないようだ。そのまま部屋の床に落ちていた本を拾い上げた。
「実は、帰る方法が載っている本を見つけたんだけど……その、読めなくて」
気まずそうに言葉を続ける。
「そもそも転移も古文書から見つけて、時間をかけて翻訳をしたから……これ同じ本だからそれなりに時間が掛かると思います」
少しずつ声が小さくなっていき、最後の方はほとんど聞こえないくらいになっていた。
「エメリヒ……それ、本当に言ってる?」
無理矢理笑っているのがバレバレな先輩の顔に、私も昔を思い出して顔をそらす。書類にお茶をこぼしたときと同じ顔だった。
「じ、冗談!すぐ取りかかります!」
よろしい。と満面の笑みで言ったあとに、私の方を向いた。思わずビクッとしてしまう。
「そろそろ私戻るわね。美雪はどうする?」
「私はまだ話があるからここに残ります」
「そっか。じゃあまた今度話しましょ」
手を降って出ていってしまった。それと同時にエメリヒが息を吐いた。
「ふぅ……よし、じゃあ抜け穴に案内するよ。そういえばブレスレット持ってきた?」
「あ、忘れました」
「試しに使いたかったけど……仕方ないや。さて、こっちに来てもらおうか」
部屋のソファをずらすと、地下への入り口があった。扉を持ち上げると、真っ暗闇が目の前に。
「はい、ランタン。気をつけてね」
「行ってきます!」
勇ましく私は暗闇へ入っていった。




