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 夜になると毎日ライナルトは来るようになった。夜の街での事を聞かれたり、他愛の無い会話をして過ごしている。最初はお互い探り探りという感じだったが、今では楽しく談笑できるようになった。


「君は不器用なんだな?この前も玄関の段差で躓いていただろう?俺が支えなかったら顔からこけてただろうな」


「これは多分昔からだと思います……」


 覚えていない前提で話しているけれど、あちらの世界ではよく怒られていたし、もちろん自覚はあった。


「そういえば何か思い出せたのか?君の故郷の話が聞けたら、新たなことが知れるが……」


 上目遣いのように見られて心臓が痛い。こんなに綺麗な人に真正面から見つめられると、自然に顔をそらしてしまう。


「まだわからないんです。あ、あと顔が少し近いと思います!」


「すまない……友人にも顔を近づける癖をなおせと言われてるんだが、やってしまうんだ。それにミユキの瞳は綺麗だから、つい見てしまうんだよ」


 頬に手を優しくあてて、顔をそらすことが出来なくさせられる。ライナルトの青い瞳がキラキラとしているのがわかると同時に、自分の顔がどんどん赤くなっているのがわかる。


「ハハハ、顔が赤くなってる」


「や、やめてください……」


もちろんだが付き合ってない。そこ大事。


「ところで、ミユキは白い猫を知らないか?君を初めて見つけたときに居た猫なんだが」


「白い猫ですか?」


それ私の事です、なんて言えるわけない。


「白は縁起が良いから、見つけられたら飼いたいと思ってるんだ。もし居たら、教えてほしい」


 これはマズイ状況になった。万が一飼われるようになってしまうと、バレる確率が一気に上がってしまう。そして何より、あそこで働けなくなってしまう。あの店は私の心の拠り所である以上離れたくないところだ。


「わかりました」


「うん。それじゃあ失礼するよ」


 六時になる直前になると、お互い自然と帰るのが当たり前になった。どうやってライナルトが城から脱け出してここに来ているのか調べたいが、丁度猫になるタイミングと同じせいで、追いかけられない。それに最近は寝る時間が遅くても起きる時間は同じにして、歩き回ったあとに働いているせいで、疲れが溜まってきている。


 〈また今度追いかけてみよう……〉


いつも通り眠りについた。


「猫ちゃん」


 糸目さんが出てきた。最近は、この顔を見ると少し安心するようになった。


「元気そうで何よりだ。どうだい?この世界は」


「楽しいですよ。優しい人ばかりで……そういえば貴方の名前ってエメリヒさんですか?」


バレちゃった、と言ってカラカラと笑っている。


「そうそう大正解。僕はエメリヒ、あらためてよろしくね」


 わざとらしくお辞儀をすると、猫になった私の前足を優しく持ち上げて握手をする。


「そうだ、いい事を教えてあげよう!君と一緒に来たミツキの居場所は城だよ。ここでお世話になっているんだ。良かったら来てみるといい」


「行きたいのは山々ですが……」


 さっきのライナルトの話をすると、エメリヒは分かりやすく固まった。


「その話知らないけど、まさか出会ったのかい?ライナルト王子と。困ったことになった……」


 何やら思い当たる節があるらしく、頭を抱えている。余程マズイ事でもあるのだろうか。


「せっかく働いているところを申し訳ないが、一度猫として暫く飼われてくれないだろうか?少しばかり面倒な事になっているようだから」


「え、でも私が居なくなると皆に迷惑をかけてしまうことになるので……」


 確かにー!と言って頭をクシャクシャとかき回しだした。思わず聞いてしまう。


「そんなにマズイ事があるんですか?私とライナルトさんが出会うことによって」


「出会うことというより、その関係を続けることに問題があるんだ。この国の制度を知っているだろう?もし彼が君を好きになったら……」


つまりクラウスさんと同じ事をする。


「そんなまさか、私なんて……」


「君の言うまさかの事態が、いつ起こるかなんてわからないだろう。人の心なんて読めやしないのだから……」


 弱々しく笑うエメリヒに申し訳なくなってくる。お人好しは前からよく言われてた。


「わかりました。少しだけなら飼い猫になりますよ」


「本当に!」


 持ち上げて抱っこされた。そのまま頬をスリスリされる。突然のことでポカンとしてしまう。


「ありがとう!」


 全身を撫でられている間、ずっとどうやって数日間お店に出られない事を説明するか考えてモヤモヤとしていた。






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