はじまり
この物語はフィクションです
「ちょっと!はやく来なさいよ!」
「ひえ~すみません!」
情けない声を上げる私に、先輩はため息をついた。姫野美月先輩は、私の勤める会社の、女性陣のヒエラルキーにてトップに君臨する人。仕事も出来るし、とっても美人で気配りが出来る。だから、作業効率の悪いノロマな私の事はあまり得意じゃないだろう。
私、村上美雪はとても不器用である。お茶を入れると火傷をするし、何もないところで躓くなんて良くあることだ。仕事ではミスしないように丁寧な作業を心がけている。そのせいで作業が遅いと怒られたことはあるけれど。
「美月先輩は美って感じがするけど、美雪先輩は名前負けしてるよね~」なんて言ってる後輩を見たことがある。その通りだなと思ってコソコソと逃げた。
実際に姫野先輩は美容に気をつけてるし、少し明るい髪色も長い睫毛も化粧も……全部がプラスの方向に向いている。一方私は小さい頃からの癖毛と真っ黒の髪で、ちょっとした幽霊。
「柴くんと約束あるから急いで~」
同じ職場の年下彼氏。実は柴くんは高校生の頃に同級生だったけど、その頃から地味だったから覚えられてないだろう。いつもまわり人がいて、憧れの存在だった。ほんのちょっぴり好きだったのかもしれない。
そんな事を考えていると、横断歩道に引っかかってしまった。ぼんやりと正面を見ていると、視界のすみに何かが突然入ってくる。
それは猫だった。綺麗な毛並みの真っ白な猫は、吸い寄せられるように道路へと走っていく。
「あ、危ない!」
気づいたら鞄を放り投げて、私はその猫を追いかけていた。丁度タイミング悪く、車が来たようだ。白い猫を抱えると、その猫はニャオと鳴いた。私の人生呆気なかったなと考えながら強く抱きしめる。
「きゃーーー!」
びっくりして声の方向を見ると、何故か姫野先輩まで隣にいた。どうやら同じように猫を助けようとしていたみたいだ。
「ぶ、ぶつかる!」
その時だった。足下が光りだしたのだ。そしてそこの地面がなくなったのはっきりと私は見た。重力に逆らえない私と、私に抱きしめられた猫と、姫野先輩の三人は、なすすべもなく落ちていくしかなかった。腕の中で、猫はもう一度ニャオと鳴いた。
突然思い付いたので書いちゃいました
同時進行で別の話も書いているので
のんびりと進めていく予定です
よろしくお願いします