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俺とクマの異世界生活  作者: TATA
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クマ9:初体験、酒は飲んでものまれるな

 収納魔法を習得して、ようやく買い物に出発である。鍵をあずけにフロントに行くとセミーさんが宿泊客の対応に追われていた。厳つい冒険者も可愛い女の子には優しいらしい。顔に似合わない笑顔で口説いているように見えるが、状況が分からなければ女の子が絡まれているように見える。


「助けは必要ないよな?」

『何をどうすれば助けがいるクマ?』


 それもそうだ。


「セミーさんすみません。少し外出しますので鍵をお願いします」

「はい、お預かりしますね。気をつけて行ってらっしゃいませ」


 笑顔で送り出してくれたがセミーさんを口説いていた冒険者からは物凄く睨まれた。トラブルの押し売りは結構ですので放っておいてください。



 日も傾きかけ徐々に夜が近づいてきているが市場はまだ活気に溢れている。

 この世界の日用品というか日常の常識的なものがよく分からないので買い物の主導権をエーテルに任せてひたすら荷物持ちに徹する。が、先程作ったアイテムボックスに放り込むだけなので非常に楽である。当然だがアイテムボックスを使うような人はいないので収納するたびに店主が目を丸くして驚いている姿がなかなか面白い。

 ついでにつり銭の計算を何度か間違えて多くもらっているが損してないので黙っておこう。決して騙しているわけじゃないぞ。珍しい魔法を見せてあげたお礼だからね。

 今回は食堂での反省を生かして事前に宿で両替をしてもらったので皮袋の中は銀貨とお釣りの銅貨でジャラジャラしている。使う分は外に出しているのだが、やはり防犯上よくないよな。


「ユウキさん、必要そうなものは一通り買いましたので大丈夫だと思います」

「それじゃあ今度は武器だな」

『来る途中に武器屋があったクマ』

「それじゃあそこでいいか」


 一応魔導師なので武器は形だけあればいいだろう。エーテルは取り敢えず剣だな。防具も必要か。


 薄暗い店内には剣や槍、斧などの武器が並べられている。胸当てなどの軽めの防具からフルプレートまで飾ってあるがこんなの着て冒険に出ようものなら目的地に着く前に力尽きそうだ。


「いらっしゃい、何の用だい?」


 客に向かって何の用とはなんだ。愛想の悪いハゲおやじめ。


「すいません、私達冒険者になりたいのですが武器を見せてもらってもいいですか?」


 そんなに馬鹿正直にあれこれ言わなくてもいいだろうに。素人ですと宣言して足元見られたらどうする。


「お嬢ちゃん、武器は自分の命を預けるものだぞ。自分に合ったものはわかるのかい?」


 正論だな。見た目ほど悪いやつじゃないかもしれない。


「ユウキさん、どうしましょう?」

「素人なんで初心者向けの良さそうな剣があればお願いします。あと防具も」


 おっさんはエーテルをじっと見て腕を組み始めた。良からぬことを考えているんじゃないだろうな?


「そこのカゴに何本かショートソードがあるから自分で気に入ったものを選びな。素人なら使い勝手を重視した方がいいだろう。防具は皮の胸当てと小手、ブーツで十分だ。クエストのレベルが上がって必要ができたらまた来な。兄ちゃんはどうする?」


 俺も同じでいいかな。


「剣がよければそこにあるやつか、ロングソードでもいいだろう。他の武器がよければ相談に乗るぞ」


「俺もショートソードにしておきます。防具は彼女と同じでいいのですがサイズは大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。もうじき店じまいなんだ。早く決めるか明日にしてくれ」


 今のところ特にこだわりはないので、とりあえずの装備を購入することにした。意外と高くて一人当たり金貨2枚が消えてしまった。その分稼げばいいだけなのだがやはり手持ちが減ると心もとない。


 胸当ての調節と剣の手入れをしてくれるそうなので明日もう一度来ることになった。武器への愛情というよりも使う人の安全を気にしてくれている。売るだけの親父なら今後用はないが信頼できそうなので困った時は相談に来よう。


「ありがとうよ。釣りだ。剣は明日一番で研いでおく。胸当ての調節もするからお嬢ちゃんの服装に気をつけるんだな。それじゃあまた明日」


「お世話になります。それでは明日伺いますのでお願いします」


 武器選びにもっと時間がかかるかと思ったが意外とすんなり決まったな。あとは飯食って帰るだけだ。


「ユウキさん、なんで剣を2本も買ったんですか? しかも1本は持ち帰るなんて」

「ちょっとした実験を考えているんだ。まあ安物だしダメになるかもしれないけど」

「そうなんですか? それよりも武器って意外と高いんですね。もっと安いのかと思いました」


 ショートソード3本、革製の胸当て2個、革製の小手、ブーツそれぞれ2組で金貨約4枚。そうしょっちゅう買い換えるわけではないからある程度値段が高くないと武器屋も商売にならないだろう。


『明日は装備を整えてからギルドへ行くクマ?』

「その予定だぞ。なんせ冒険者ギルドは先輩に絡まれるのが必須になっているみたいだから準備は大事だろう」

「何ですか、その絡まれるのが必須って」

「世の中には変えたくても変えられない原則があるんだよ」


 思わず遠い目をしてしまった。


『エーテルちゃん、ユウキは明日ギルドで暴れて注目を集めたいクマ。年頃の男の子の願望みたいなものだから優しく見守るクマ』




 空も暗くなり星空が見え始めている。人工の明かりがないため非常に綺麗だ。当然だが見たことのある星座はなく、月が2つ見えるので地球ではないことを再度実感できた。


「さっきの食堂はどこだ?」

『多分あっちクマ』

「ベアさん違いますよ。すぐそこを曲がったところです。こんなんじゃ宿にも帰れなくなりますよ」


 外に出ていた冒険者が戻ってきたり仕事が終わり帰宅する人で昼間よりも通りが混雑している。田舎者丸出し状態でキョロキョロしながら移動をしていると勢いよく走ってきた男がぶつかってくる。


「痛いなー。気をつけて歩けよ。この田舎もんが」

「あんたも前向いて人にぶつからないようにするんだな」

「ユウキさんトラブルはダメですよ」


 俺は一応被害者だぞ。


 わざとらしくぶつかってきた男も睨みを利かせながら去っていった。程なくして後方から叫び声が聞こえてきた。


「ギャーッ、指が!! 誰か助けてくれ!!」


 先ほどの男を囲うように人だかりができている。野次馬根性丸出しで覗きに行くとネズミ捕りに手の指を挟まれて苦しんでいる。通常曲がらない方向に曲がっているの親指以外は骨折確実だろう。


『ユウキ何したクマ?』

「スリにあっただけだ。わざとお金をしまうところを見せて、代わりにネズミ捕りを仕込んだだけだぞ」

「お金はどうしたんですか?ってアイテムボックスですね。便利でいいなー。私も早く覚えないと」


 騒ぎを聞きつけて警備兵がやってきた。事情を聞かれたが、財布の代わりにしまっておいたネズミ捕りで怪我をしたバカなやつだと説明してやると大笑いしながら連行していった。


『哀れクマ』


 人のものを盗もうとするからいけないんだ。まじめに働けばいいものを。


「さて、スカッとしたところで飯にしよう」

「そうですね。犯罪者ですから同情はいらないですね」

『さっきの店が見えたクマ。僕はまたぬいぐるみのフリをしているクマ』


 フリをしなくても十分にぬいぐるみです。



 店内に入ると酒盛りを始めた連中で非常に賑わっている。昼間も比較的混んでいたがそれ以上だ。昼間のおばちゃんが俺らを見つけて席へ案内してくれた。


「なんだい、お兄さん律儀にまたきてくれたのかい? 嬉しいじゃないか」

「昼間はすみませんでした。足りなかった分をお返ししますね」


 おばちゃんは別にいいのにと言いながらしっかりと懐にしまい込んでいる。忙しそうなので注文を手早く済ませて料理を待つことにした。エーテルも夜はアルコールにするらしく俺と一緒にエールを頼んでいる。


「それでは我々の新たな出発を祝して乾杯」

「かんぱーい」


 陶器のジョッキに並々と注がれたエールを流し込むが少しぬるいな。こっそり冷やして飲もう。


「私お酒初体験です。村の大人が飲んでいるのを見て美味しそうだなと思ってたんですけどいまいちですね」

「エーテル、ジョッキをちょっと貸して」

「まさか私の飲みかけが欲しいんですか? 間接キスじゃなくても好きなだけチューしていいですよ」


 目を閉じて口を尖らせているが、なぜその発想になるのかわからない。とりあえず魔法でジョッキを冷やしてから返すと冷たくなったことに驚いている。そのままグビグビ飲み始めるが冷やしたことで美味しさがアップしたようだ。


「くーっ、冷えると最高ですね。もう一杯いってもいいいですか?」

「ほどほどにしておけよ」


 少し遅れてやってきた食事を口に運びつつ明日からの予定を確認する。


 ・まずは装備を整えて冒険者ギルドへ行く

 ・次に受注可能なクエストを受ける

 ・リズムが掴めてきたら仲間の増員を検討する

 ・この地域に飽きたら次の街に移動する


 意外と地味だな。派手さは望んでいないが厄介ごとは舞い込んでくるだろう。来ないとつまらないので困るのだが来過ぎても困る。


「あんたたち紹介した宿には行ってくれたかい?」

「ええ、ありがとうございます。セミーさんも元気そうでしたよ」


 少し手が空いたのかおばちゃんが話しかけに来てくれた。やはり娘さんが気になるのだろう。近いんだから会いに行けばいいのにと思ったが、社会勉強のためにも親があまり口を出すのは良くないとのことだ。


「あの子は小さい頃からここで冒険者連中を見て育ったから自分も冒険者になるんだって言ってたんだよ」

「そうなんですか?あまりそんな感じはしなかったのですが。我々も明日ギルドに登録に行く予定なんですよ」

「そうなのかい? 試験頑張っておくれよ。あの子は剣も握ったことがないのにギルドの試験を受けてね、通るわけがないのに落ちたことがショックで諦めちまったのさ。まあ1回落ちたくらいで諦めるようじゃ続かないからいいんだけどね」


 え? 今なんと仰いました?


「どうしたんだい? まさか試験があるのを知らなかったんじゃないだろうね?」

「そのまさかです。どんな内容とかご存知ですか?」

「試験官との模擬戦だよ。勝てなくてもセンスがあれば通るらしいけどね。あまりいないけど魔法が使えれば無条件で合格できるよ」


 いかん俺はともかくエーテルはまずいぞ。すでに酔いつぶれて寝ている。


「ご馳走さまでした。帰って明日の準備をしてきます」

「ありがとさん。また来ておくれよ。できれば合格祝いでもやっておくれ」


 ベアを頭に乗せてエーテルを背負って慌ただしく店を後にする。

 お酒が初めてと言いながら5杯も6杯も飲むから起きる気配すらない。頼むから背中で粗相はしないでくれよ。


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