クマ6:追跡者!旅は道ズレ、空の旅
追跡者の位置は確認した。草むらに隠れているが動く気配はなく距離にして30mと言ったところか。こちらの会話までは聞き取れないだろう。
「さて、それじゃあそろそろ移動しようか。明るいうちに距離を稼ぎたいしな」
『あれはどうするクマ?』
「放っておく。その気があれば出てくるだろうし村からの距離が開けば戻るのも困難だろう。助けを求められても無視する」
『かわいい女の子だったらどうするクマ?』
「その時考えるが、多分それはないだろう。エーテルがいるんだし顔なじみなら遠慮する必要はないんじゃないか?」
それにコソコソしているくらいだから大したことはないだろう。俺が面倒みてやる理由はない。暖かく送り出してくれた連中ならともかく石まで投げつけられて親切にする理由はない。
エーテルも荷物をまとめてリュックを背負う。最初重そうなので持ってあげようと申し出たら自分は荷物持ちくらいしかできないのでと断られてしまった。「持ち逃げされても困るし」とか言わなければ心苦しくもあったのだが、その一言で俺の罪悪感はなくなった。
再び街道に沿って歩き始めるが一定の距離を保ちながらやはりついて来ている。
「ねえいつまで無視するんですか? 流石に私のファンの人だったら可哀想かなーって思い始めたんですけど」
「向こうは出てくる気が無いみたいだぞ。いっそのこと攻撃魔法でも叩き込んで見なかった事にしようか」
ベアとエーテルに白い目で見られているのだがまずいこと言ったか?
『流石にそれはダメだと思うクマ』
「でも魔獣の反応もあるからそのどさくさに紛れてとか」
『えっ? 本当クマ。助けなくて良いクマ?』
それはタダ働きしろということか? まあ目の前で魔獣の食事を見るのも気がひけるから教えるだけはしておくか。
「おーい、隠れているのはわかっているぞ。早く出てこーい」
あれ?
「距離があるから聞こえないのでは無いでしょうか?」
エーテルにもっともな事を言われてしまったが……
「面倒だから、ウインドボム!」
問答無用で圧縮した空気を解放する。今回は戦闘では無いので威力は弱めだが追跡者は不意を打たれて見事に吹っ飛んだ。遥か後方、魔獣の目の前辺りに……
『ユウキ、あれは酷いクマ』
「せめてこちら側に吹っ飛ばしたほうがよかったのでは?」
死なないように気を使ったのに酷い言われようだ。まあ計算通り飛んだからよかったとしようか。
「うぉー、助けてくれー!!」
程なくして吹っ飛ばされた追跡者は魔獣を引き連れて猛ダッシュでこちらに逃げてくる。
こちらも準備はできているので魔獣に向けて迎撃を行う。
「ファイアーボール!」
こちらに向かってくる魔獣の少し後ろに向けて魔法を放ち、着弾すると同時に爆発する。今度はこちらに向けて魔獣と一緒に追跡者も飛ばされて来た。
「フリーズアロー!」
息のあった魔獣にとどめを刺しておく。魔法の使い方もだいぶコツがわかって来たな。今度はバリエーションを考えよう。
「ベアさん、私ついてくる人間違えましたかね?」
『僕も若干そう思うクマ』
後方に吹っ飛ばすのはあんまりだというからこちらに吹っ飛ばしてあげたのになぜか不評だ。
追跡者の確認に行くとエーテルが、
「あら、マークおじ様じゃないですか? どうしてこんなところまで来たのですか?」
と白々しく問いただしている。どうやら雲行きが怪しくなりそうだ。
「一体何が起こったんだ? いきなり吹っ飛ばされたら魔獣の目の前で……逃げ出したら後ろで爆発が起きて……魔導士、貴様のせいか!!」
「コソコソつけて来たやつに言われたく無い! っていうかあんた村を出るとき俺に向けてでかい石投げて来ただろ。危ないじゃないか」
ファイアーボールの爆発の影響で髪や服の一部が焦げて煙を上げながらぶっ倒れているやつに文句は言われたく無い。
「おじ様なんでコソコソついて来たんですか?」
「エーテル、誰だこいつ?」
「私に街での仕事を斡旋すると言っていたのに、ロクな仕事を取ってこれなかったダメ人間です」
『それじゃあこいつが娼館の仕事を持って来たクマ?』
「いえ、他にもハゲ貴族の愛人と、鍛冶屋の独身ドワーフの嫁、非合法の薬の密売人、あとは……」
面倒だから犯罪者決定でいいだろう。
『もういいクマ。全ての元凶はこいつクマ』
「だな、ちなみになんで娼館になったんだ?」
「お給料が一番良かったからですよ」
まあ、その答えは予想していたから驚かないけど、ベアは呆れた顔をしている。
「エーテル、お前を娼館に売る予定でもう金はもらっているんだ。なんとしてでも行ってもらうぞ」
「私はユウキさんと冒険者をやるのよ。勝手に人を売らないで下さい」
人身売買はダメだろ。いやこの世界はありなのかな? 奴隷制度とかもあるんだろうか。
「そうは言っても前金で金貨20枚もらっちまったしな。嫌ならその金お前が払うんだな」
「なぜそうなる。どうせ使い込んでしまって無いんだろ? それはお前の責任だ。自分でなんとかしろ」
「エーテル、お前が行かなければ村がひどい目に会うんだぞ。それでもいいのか?」
あー、よくあるパターンね。
「別にいいけど」
「そうだろ、困るだろ。だから早く……って村がどうなってもいいのか?」
「だから別に構わないって言ってるじゃない」
そうだね。予想通りの展開だね。
「あのう、魔導士さん? こんな娘連れて旅するんですか?」
「面白そうだからいいんじゃ無いか? それよりも俺にいい考えがあるんだが。これなら村にも迷惑をかけないし全て丸く解決するんだが」
おっさん、あんた以外はな。
「ユウキさん、こんなやつ助けなくても別に構いませんよ」
それよりもこんなやつの野宿をするのはごめんなので早いところ街につきたいので移動速度をあげよう。
「エーテル。街の方向はどっちだ? というよりも見たほうが早いな。少し待っていてくれ」
『待つクマ、僕は嫌だクマ』
「大丈夫、俺が行くから。レビテーション!」
初日にやったように風の結界で上空に上がり街の方向と距離を確認する。結構遠いな、手前に森があるからそのあたりでいいか。状況確認だけして地上に戻るとエーテルが目をキラキラさせている。なんだ?
「ユウキ様、私も空飛びたいです」
「様は恥ずかしいからやめろ。それに移動速度を上げるために空を飛ぶことにするから」
『こいつも一緒に結界に入れるクマ?』
そんなことするはずもない。
「いや、こいつは魔法の人体実験だな。まずはおっさんを結界でコーティングしてと。方向よし、角度は多分このくらいでよしと。街の手前に森があるからその手前で待っててね」
『ユウキ待つクマ、もしかして飛ばすクマ?』
「「????」」
ああ二人には分からなかったか。エーテルはともかくおっさんは聞かないほうがいいぞ。
「飛んでもらうクマ。そうだな命名エアロキャノン!ふぁいあー!!」
圧縮空気の爆発とともに空高くおっさんは打ち上げられた。なかなか速いじゃないか。
「……ユウキさん? 飛びましたけど……まさか私たちも? いやーまだ死にたくなーい」
エーテルは何を思ったのか顔が青ざめている。
「俺らは安全な方法で行くぞ」
『エーテルちゃん、お願いがあるクマ。僕を抱っこしてほしいクマ。若干高所恐怖症クマ』
それじゃあ空の旅を楽しみましょう。
「準備はいいですか?」
『「おー!」クマ!』
「それじゃあ、レビテーション!」
少し大きめの結界を作り上空へ移動する。後方から風を当てて移動を開始するがなかなか快適だ。
『ところでユウキは知っているクマ? あれだけの勢いで打ち上げると多分潰れるクマ。ロケットは宇宙に行く時ゆっくりと加速していくはずクマ』
「そういえばなんか聞いたことあるような無いような……まあ多分大丈夫でしょう」
ちなみにエーテルは上空からの眺めに興奮してはしゃぎまくっている。この世界では空を飛ぶ乗り物はないだろうから貴重な体験だぞ。
エーテルの話では街までは徒歩で約1日とのことだが休憩時間を8時間で考えてそれを抜けば移動時間は16時間ってとこだろう。そもそも1日=24時間かどうかも分からないが。
時速4キロで16時間=64kmくらいか? 直線距離ならもっと短いだろうし結界で守られているので感じないが実は60km/hr 以上で移動していたりする。30分ほど空の旅をしていると街の手前の森が見えてきた。速度を落とし上空からおっさんの墜落地点じゃなかった、着地地点を探すと見事なクレーターが出来上がっているのが発見される。俺らも着陸して様子を見に向かう。
『生きているみたいクマ。Gに潰されなかったクマ?』
「でもこれは酷いわね」
「気絶しているようだが、空の旅のショックか中がすごいことになっているな。近くに川があっただろ、臭いだろうからそこで結界を解除しよう」
そう、あまりのショックに失禁に嘔吐と結界内はとてもじゃないが関わりたくない惨状になっている。
川まで転がしているうちに意識が戻ったようだがあまりの状況に苦しんでいる。臭いんだろうな。
川の中に放り込んで結界を解除するとバランスを崩したのか溺れかけている。浅い川だからすぐに気がつくだろう。
「おっさん色々と粗相していて臭いから自分で洗ってな」
「大丈夫よ、私村に戻るつもりはないからだまっていてあげるわ」
恥ずかしいのか悔しいのか涙を流しながら行水と洗濯を始めたようだ。もしかしたら初飛行の感動を思い出しているのかもしれない……それはないな。
「おい、服が濡れたままだがどうするんだ?」
「別にそのままでいいんじゃないか? いや待てよ。実験に付き合ってもらうか。そこに立ってろ」
そう言って火の魔素と風の魔素を集めて同時に行使してみる。そうだな、命名ドライヤーかな?
しかし出てきたのは温風ではなく炎の渦だった。見事に焦げていたが何を間違えたんだ?
『ユウキ、風に対して火の魔素が多すぎるクマ。10:1くらいでいいクマ』
「そ、そうか。まあ実験に失敗はつきものだしな。よしもう一度」
今度は成功したようだ。温風が発生し濡れた衣服を乾かしていく。実は最初のでほとんど乾いていたのは内緒だ。エーテルも風に手を当てて暖かいと喜んでいるが、まだ寒い季節じゃないから今はほとんど役に立たない。
「森を抜けたら街だからここからは歩いていくか」
「ユウキさん、もっと時間がかかると思っていたのに早く着きましたね。野営しながら魔獣の肉にかぶりつく予定だったのですがまたの機会にお願いします」
最初の森のように大きくはなく、程なくして街の入り口にたどり着いた。魔獣対策なのだろうが周りを壁で囲まれているので街に入りたい連中が入り口に列をなしている。並ぶの嫌いなんだけど。
「それでこの後どうするんですか?」
「まずおっさんを連れて娼館に行き事情を話すところからだな。モーノ村には一宿一飯の恩があるからな」
『トラブルを起こす気クマ?』
「その場合は娼館ごと火の海になってもらうから気にしてないがダメか?」
おっさん含め3人揃って胸の前でばつ印を作り首を横に振っている。名案だと思ったのに却下されてしまった。
「はい、次の人。ってあんたマークさんじゃないか。ということはその子が例の子だな。可愛いじゃないか。今度遊びに行くから楽しみに待っててくれよ」
ほほう、門番さんもグルですかな? まあ厳しいチェックもなくあっさり通してもらえたのでよしとするか。
おっさんの案内でエーテルが売られる予定だった娼館にたどり着くが当然夜のお仕事なのでしまっている。仕方なく裏口に回ることにしたが場所が場所だけにガラが悪い。状況からエーテルは新人の子だと思われているみたいで、すけべオヤジどもが目を光らせている。面倒だから一々声をかけないで欲しいのだが。
裏口にも厳重な門が構えていてチンピラ風の男が警備をしている。おっさんにボスとの面会ができるように交渉させるとあっさりと中に入れてくれた。もう少ししっかりと警備した方がいいんじゃないか?
応接室に通されたが儲かっているのかなかなか豪華な作りになっている。ソファーもふかふかだし出されたお茶も非常に美味しい。くつろいでいると30前後の女性が入ってきた。ぱっと見美人で妖艶な雰囲気を醸し出しているが目つきは非常に鋭い。
苦手なタイプだな。