表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺とクマの異世界生活  作者: TATA
3/32

クマ3:油断した?魔獣に囲まれ初戦闘

 空からの状況確認で村が見えたが遠い。森の入り口まで30分程歩いただろうか。暑くは無いが少し汗ばんできた。腹も減ったし果物くらいは森の中で取れると良いのだが。


「そういえばベアは食べものとかはいるのか?」

『ぬいぐるみの僕に食事のことを聞くなんて良いやつなのか嫌味なのかわからんクマ』


 おままごとをするつもりはないが自分で行動するぬいぐるみは前例がないからな。


「俺の知っているぬいぐるみは喋らないし動かない。もしかしたら必要なのかと思って一応な」

『悪気があったわけじゃ無いクマ? 僕は神様から魔素を食事がわりにする体にしてもらったので食事はいらないクマ』

「そういえば転生の時に神様に会えなかったな。お礼も言えてないし」

『神様には普通会えないクマ』


 それなら転生させてくれたことに感謝の祈りだけでも捧げておこう。


 街道沿いに森へ入ったので一応道らしき物はあるが当然整備されているわけでは無い。馬車が通るのだろうか轍の跡が残っている。

 木陰に入り少しひんやりした空気が気持ちいい。奥の方はわからないが比較的幹の太い木が連なり妙な圧迫感を感じる。残念なことに街道沿いの木は背が高く果物がなっている様子はない。遠くで狼だろうか、遠吠えが聞こえるので安全とは言い切れないようだ。

 薄暗い森の中を歩いていると気が滅入ってくるが仕方ない。


「なあ、この世界には魔物とかいるのか?」

『いるクマ。この世界は魔素が多いクマ。そこらへんの雑草にも含まれているクマ。普通に生活しているだけなら問題ないけどなにかの拍子に大量に魔素を摂取すると魔力酔いを起こすクマ』

「それはさっき聞いたぞ」

『ここからが重要クマ。軽い魔力酔いならそのうちに元に戻るけど、ひどい場合は戻らないクマ』

「それでキャパオーバーしたら魔物というか魔獣になるんだな?」

『半分正解クマ。多くの場合、野生の動物は弱肉強食クマ。魔素の多い食事が続くと魔力酔いを起こして動けなくなるクマ。それは狩の必要が無い餌と同じクマ。それで濃縮された魔素を大量摂取して急性魔素中毒を起こすと魔獣になるクマ』


 たしかに草食系の魔獣ってあまり聞かないもんな。


『魔獣になると魔素中毒は関係なくなるので食べればその分魔力が強くなるクマ。それがだんだんと蓄積すると体内に魔石が出来るクマ。これがこの世界ではエネルギー源として活躍するので重宝されるクマ』

「地理は詳しくないのに最も重要そうなことには詳しいな」

『そ、それは……とっぷしーくれっとクマ』


 しかしその魔素が多いという感覚がよくわからない。今まで生きてきたのと同じ感覚しかないからな。もっとも魔法が使える時点でなんらかの要素があることには変わりないのだろうが。


『でもこのタイミングで魔獣の事を聞いてくるなんてすごいクマ。探査とかの方法は教えてないのにもう出来るクマ?』

「どういう事だ?」

『気付いていないクマ? 囲まれているクマ。今度は死んでも生き返れないから気をつけて戦うクマ』


 まさか囲まれたって魔獣か? フラグが立ったとか呼ばれる現象だな。


「ベア先生、もしかして戦闘ですかね? 戦い方とか知らないし、武器とかもありませんけれど」

『魔法があるクマ。多分狼の魔獣クマ。全部で5体、頑張って倒すクマ』


 不意打ちができないと悟ってか隠れていた魔獣が姿を現してきた。本当に5体いるよ、ベアすげーな、後でやり方を聞いておかないといけないな。


「とりあえず風で結界を張って様子を見るか、ところでこの魔法名前はなんにしようか?」

『どうでも良いクマ。エアロバリアとかで良いクマ』


 呆れている空気を出しつつも一応名前の候補は出してくれたので……


「エアロガード!」


 少し変えてみた。イメージと呼応するように周囲に風の結界が形成されていく。長い詠唱がいらないのが救いだな。


『ちょっと待つクマ。なんで名前変えたクマ?』

「え? なんとなく」

『それなら最初から僕に意見を求めないでほしいクマ』


 それもそうだな。


 様子を伺っていたうちの1匹がこちらに突っ込んでくる。先ほどの鳥よりも重量があるため結界の中にも衝撃が軽く伝わってくる。結界はビクともしないが若干怖かった……


「次は攻撃だな、森の中だから火はやめておこう。このまま風でいいか、さてとウインド……」

『アロークマ?、ランスクマ?、カッタークマ?』


 ベアのやつ、もしかして魔法の名前を決めるの楽しみにしてないか?


「ボム!」


 圧縮した空気を魔獣の群れの中心で一気に解き放つ。派手さこそないが構えていた魔獣全部が吹き飛ばされて木に激突しピクピク痙攣している。


 今のうちにとどめを刺しておくか。


 生き物の命を奪うのには抵抗があるがこの世界では仕方のないことだと自分に言聞かせる。

 倒れた魔獣に近づき腰の剣を抜いて突き刺しとどめを……


「って、剣がないじゃないかー!」

『当たり前クマ。突然何を言い出すのかと思ったら、どうせ自分をカッコよく見せるナレーションでも考えていたクマ? 顔が赤いクマ』


 別にそこまでのことはしてないぞ。


「それじゃあ氷の矢で撃ち抜いとくか」

『アイスアロークマ!』


 魔獣の頭に狙いを定めて……


「フリーズアロー!」

『また名前変えたクマー! 悔しいクマー!』


 やはり名付けがしたいのか悔しがるベアを余所に1匹ずつ確実に仕留めていく。慣れると使いやすいな。

 この世界の魔法はイメージが形になりやすいし力の大きさもイメージと魔力の量で調整できるみたいだ。


「ベア先生、この魔獣はどうすればよいでしょうか?」

『村に持って行って解体して食べるといいクマ。体に溜まっていた魔力は生命活動が止まると徐々に抜けていくクマ。時間が少し経てば、魔石以外は食べても安全クマよ』


 先生と呼んであげたら悔しさを忘れたのか非常にご機嫌だ。単純というかなんというか……さて問題はどうやって持っていくかだ、1体7・80kgはありそうだぞ。


『さっき空を飛んだのを応用して浮かせて引っ張れば良いクマ』

「なるほど、そういう使い方もありだな」


 仕留めた魔獣を集めて浮き上がらせる。残念ながら浮いただけなので引っ張りながら移動を再開することになってしまった。面倒だな。


 何か大事なことを忘れている気がするが思い出せない。思い出せないなら大したことじゃないだろう。


「なあベア、そういえばさっき探査がどうこう言ってなかったか?」

『忘れてたクマ。やり方は簡単クマ。最初に教えた無属性の魔力を自分を中心にして周りへ広げるようにするだけクマ。水面に広がる波をイメージすると良いクマ。』

「それで魔獣がいたりすると反応するのか?」

『最初は何かあるような感じがするくらいだけど、慣れると大体の強さや大きさなんかもわかるようになるクマ。あとは練習あるのみクマ』


 習うより慣れろだな。いやもう習ったか。魔力を広げる感じか……とりあえずやってみるか。

 魔力を外に向けて……


『そんな感じクマ。これもそんなに簡単にできるやつはいないクマ。教えがいがあるんだか無いんだかわからなくなってきたクマ』


 できていると言われてもよくわからん。魔獣でも出てくればわかるのかもしれないけど流石に連戦は避けたい。


「よくわからないぞ?」

『それで良いクマ。今は周りに魔獣はいないから反応があったらおかしいクマ』


 その反応がわからないといざという時に役に立たないのだが。


 しかし森の中を歩くだけというのも退屈だ。周りを見ても木ばかりだし、リスやウサギが出迎えてくれるわけでも無い。風にそよぐ木の葉の音も最初のうちは爽やかに感じたがすでになんとも感じない。

 良い加減飽き飽きしてきたところでベアから指示が出た。


『そこの木の陰に隠れるクマ、隠れたら探査を行ってみるクマ』

「お、魔獣か?」


 周りを警戒しながら木の陰に隠れて魔力を広げてみるがやはり何も反応しない、というより反応がどんなものかがわからない。


『もうすぐクマ、前方に反応が出るからよく感じ取ってみるクマ』


 そこまで言われてわからないと恥ずかしいのだが今のところ何も反応がない。本当にわかるのか?


『あと少しクマ。どうクマ? 対象が範囲に入ってきたクマ。何か違いがわかるクマ?』

「いや全くわからない」

『もっと自分の魔力に注意を向けてみるクマ』


 水面に広がる波のイメージか……綺麗に周りに広がっていく感じしかしない。


「ベア、全然わからんぞ」

『それで良いクマ。実際には何もないクマ』


 はい?


『暇そうだったから少し緊張感を用意しただけクマ。気をつけないと命が危険に晒されることも少なくないクマ』

「もしかして試された?」

『平和な日本の感覚でいると危ないクマ』


 おっ? なんだこれ?


「ベア、もしかしてこれがその反応か? 前方に何か感じるが」

『ふふん、騙されないクマ。考えが甘いクマ』


 なんだ違ったのか。まだまだ修行が足りないのか。


「なあ、目視で人が見えるんだがやっぱり違うのか?」

『……僕が悪かったクマ。間違いなく人の反応クマ』


 向こうも俺らを見つけたらしく駆け寄ってくる。いきなり攻撃をしてくることはないだろうが念のため準備だけはしておくか。



「おう、旅の人か? 俺はこの先の村の者だが何か用か?」


 年は40手前くらいだろうか、革製の鎧に身を包み腰から剣をぶら下げている。兵士か傭兵といった感じの人だ。警備の人間だろうが愛想は良くない。


「こんにちは。当てもなく旅をしているのですがこの先に村があるんですか? 野宿を覚悟していたので、宿屋でもあると助かるのですが」


 男は確実に不審者を見る目で俺をにらんでいる。そうだよな、普通に考えて旅しているようには見えないものな。


「残念だが宿屋はない。雨風を凌ぐだけでいいならなんとかしてやれるが……お前さん本当に旅の人か? 明らかに旅をしている装備ではないぞ」


 鋭いな、というかそのくらい気がつかなければ村を守ることはできないだろうが。

 俺の今の服装は、転生時に着ていたTシャツ、ジーパン、スニーカー。誰が見ても旅人には見えない。荷物もないし……


「旅をしているのは本当です。正確には旅を始めたばかりですが。装備が少ないのは魔法が多少使えるからです」


 嘘をついても仕方ないし、かといって本当のことを言っても信じてもらえないだろう。


「何! 魔法が使えるだと? 嘘をつくな」


 いきなり嘘つき呼ばれするとは。ムカつくとか言ってぶっ飛ばすか。いや待てよ、いきなり暴力はいけないぞ 。こういう時はさっきの魔獣が使えるんじゃないか?


「ああ、証拠ならこれでどうですか? 先程仕留めた魔獣ですが保存を良くしようと凍らせておいたのですが」


 フリーズアローで頭を撃ち抜いたら徐々に氷始めてしまったのでそのままにしてある。冷蔵庫はなさそうだから都合はいいだろう。

 おっさんは獲物を確認したかと思うとこちらを向き直し、今度は敬礼までしてきた。


「大変失礼いたしました。村の警備のためとはいえ申し訳ございません」


 なんか急に態度が変わったけどもしかして魔法が使えると特別扱いしてもらえるのか?


「気にしないでください。村を守るお仕事も大変でしょうから、私のような不審者を警戒するのは当然ですよ」

「ご理解いただき感謝いたします。村までご案内いたします」


 不審者は否定して欲しかったんだけどな。



 村までの短い距離だが、おっさんは緊張しているのか動きがぎこちない。何か話しかけて場を和ませたいがそういうのはあまり得意ではない。墓穴を掘るようなことになるといけないので黙って後をついていく。


 しばらく歩くと森を抜け再び目の前には草原が広がっている。街道の横には The 農村と言わんばかりの村があり小麦か何かだろうか、かなり大きな畑が広がっている。村は比較的背の高い柵で囲まれているがさっきの魔獣なら余裕で破壊できるだろう。一時的な気休めくらいにしかならないが、あるのとないのとでは大分違うのだろう。

 村の入り口では他にも警備の人がいるが、おっさんがいたおかげで特に調べられる事もなく入ることができた。


「魔導士様、村長の家へご案内いたします。お疲れのところ申し訳ございません」

「すみません、お手数をおかけします」

『ユウキ、なんでそんなに丁寧に話すクマ? もっと堂々としていても平気クマ』


 やはり魔法が使えると特別扱いをしてもらえるみたいだが、天狗にならないように気をつけないといけない。


 村の中心にある大きな家に案内された。先ほどのおっさんが色々と事情を説明してくれている。出てきたのは村長の娘さんだろうか、見た目は15、6歳くらいで栗色の長い髪をポニテにしている以外はこれと言った特徴はない。すごく美人というわけではないが素朴な可愛らしさを感じる。


 こっちを見て恥ずかしそうに挨拶をしたかと思えばすぐに家に入ってしまった。ちょっとだけドキッとしたぞ。


「魔導士様お待たせいたしました。村長がご対応させていただくであります。私は警備の任へ戻らせていただきますのでここで失礼いたします」

「ありがとうございました。お仕事頑張ってください」


 おっさんは敬礼をしてさっさと行ってしまった。村長か、いきなりクエストの依頼とかはないよな?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ