第53話: さらなる力を求めて
「素晴らしい、こじ開けたか……次の進化への扉を」
ローリーは画面越しに笑った。モニターには泰裕が映っていた。その表情は満足げなものだった。
「おい、ローリーいつまで縛っておくつもりだ」
地面にぐるぐる巻きにして転がっている銀子の姿があった。
「ああ、ごめんね銀子ちゃん、余計なことされると困るんだ」
「余計なことだと……」
そうやって、ローリーを睨みつける銀子の元にローリーが歩いていく。そして膝をおって、その顔を覗き込んだ。
「そうだよ。ヤス君は進化の途中なんだ。それを止めてはいけない。追いつめて、追いつめた先にしか彼の超越者としての才能は目覚めない」
「お前も助けただろ?」
「……銀子ちゃんにしては鋭いね。心は別なんだ。どれだけ強くなっても心の方が壊れては意味がない。だから、彼の心を救った」
「……本当にそうか……本当にそれだけなのか?」
「……必要なんだ。彼の覚醒が」
「ボスは知っているのか」
「…………」
ローリーは銀子の言葉にもはや答えない。ただ、モニターに映る泰裕の姿を見ていた。
*
出来るという確信があったわけではない。
でも偶にこういうことがある。身体が勝手に動くと言うやつだ。追いつけられれば、追いつめられるほど鋭く尖っていく感覚。今ならできるような気がした。
氷が全身を覆い、鎧を形成する。
こんな微細なコントロールは、前の俺にはできなかった。でも、あいつがやっていた感覚が俺を導いた。力はこうコントロールすれば良い。
水の粒子をコントロールすればその上にも乗れる。
魔力のコントロールとも違う、スキルのコントロール。右手と左手で別々の文字を書いているような感覚だ。だがそれも慣れてしまえばどうってことはない。
水が俺の周りをキラキラと放出されていく。あの時は分からなかったが、これは圧縮された水の粒子だ。
「蛆が……見下ろろすんじゃない」
黒色魔法少女の成れの果てである悪魔から、炎が弾丸のように放たれた。
それを一瞥すると、オートで能力が発動する。俺の周りに放出されていた水の粒子が集まり、黒い炎と激突する。
「私の炎が水に負けるか」
「それはどうかな」
「なっ」
放つだけではなく、指向性を持たせる。渦のように回転させ、圧縮された水の粒子は黒い炎を押し返した。
そのまま腕を振る。水が拡散して放出され、焼け野原となった街の火を鎮火していった。
「桃色魔法少女」
「何よ?」
「守ってやる。俺の後ろに隠れてろ」
「は?」
心底理解できないという表情で、美涼が俺を睨んでる。
「それは私よりも上だと言う意味に聞こえるのですが?」
悪魔が俺に向かって問う。
「桃色、お前が時間を稼いでくれたおかげで活路が見えた。ありがとう」
「何を礼を言っているのよ」
「……無視された。この私が……人間に」
悪魔がわなわなと震えている。
その横を甲冑が、オロオロと心配そうに動いている。
「殺しなさい。あの目障りな人間2人を今すぐ殺してやりなさい」
甲冑が動いた。足から炎を噴出して高速でこちらに向かってくる。迫る炎の刃、それに水の粒子をぶつけた。
『轟く波紋・剛』
龍の身体にダメージを与えた攻撃。その威力は想像を絶した。炎の刃をはじけ飛び、衝撃の余波は、甲冑を半壊させた。
さらに驚くべきことは、この技は連発できる。それも手からだけではない。
地を蹴る。迫って来た甲冑は1体ではない。4体全てが炎の刃を振るう。
上から振り下ろされる刃に向かって、思い切りけり上げた。剣は四散し止まらない水の波紋にその直線状にあった兜が割った。俺はそのまま身体を回転させ、もう1人の下腹部めがけて蹴りを放つ。水の威力は蹴りによってさらに拡散され、甲冑の身体は後方にいた、別の甲冑の体ご吹き飛ばした。
「強い」
俺の雄姿に、後ろの美涼がそう呟いた。
自分でもそう思う。死線を超えてまた進化した力。しかし、悪魔の身体は再生していく。どうれだけやっても、キリがないのかもしれない。
「何をやっている立て、あれを殺せと命じたはずだ」
その言葉に、甲冑はふらふらと立ち上がる。
頭を飛ばした奴も、下腹部を吹き飛ばしたやつも起き上がる。少なからずそこが弱点ではないようだ。どこだ? そう思考することすら間違いかもしれない。そもそも弱点があるのだろうか?
答えは分からない。だからこそ思考し考え続ける。綺麗に勝つ必要はない。最終的に勝者であればそれで良いのだ。
状況を読め、未来を掴むんだ。
「無駄だぞ。我々悪魔は不死身だ。この身体は決して朽ちない。何度でも蘇り、何度でも再生する」
再生する敵に対して、俺は1つの回答を思い付く。
「それはどうかな」
水による斬撃。高速で撃ち出された水には、固くとがらせた氷を仕込んでいる。それが死なる鞭のような軌道でその身体を切断していく。
「無駄だ」
甲冑はその身体に炎を灯らせる。
その炎を『セカンド・アイ』で石に変え、バラバラの身体を氷の中に閉じ込める。計算通り、悪魔の再生が止まった。
「どうして、どうしてお前がその目を持っている。その目は……」
「魔王の目か? さあな」
もう1体の甲冑もばらばらにしてから、炎を石に変え氷のなかに入れる。
焔は消え去り、氷が辺りを包む。冷たい世界。
「悪魔でも恐怖を感じるんだな」
甲冑は、後ろず去りする。
何を思ったのか、その兜を外しその顔を露出する。それはマリの顔だった。
「……はは、やれるのかお前に、もしかしたら元に戻す方法があるかもしれないぞ。それでも、殺せるか……お前にその覚悟があるか?」
俺は殺さないと言う誓いをたてた。
しかし、俺が殺さないと誓ったのは人間だけだ。
「お前がやることは、俺の感情を逆撫でするだけだぞ」
悪魔に対して情け容赦一切なし。
作業をするように、その身体を刻んだ。飛び散る残骸は人間だったときの物か?
「酷い」
「酷い?」
そう言った、美涼の言葉に反応する。
その身体は震えていた。
ああ……そうか……
「ヒーローだって同じだろ。人質を取られた場合は見捨てろと教えられる。命のやり取りをしてるんだ。ここは戦場だぞ。半端な覚悟で入ってくるなよ。魔法少女」
ヒーローになる時、元理事長に徹底的に精神を鍛えられた。その中でもっとも難しかったのは、命を絶つ覚悟だ。
鶏の卵を渡され飼うように言われ、ヒヨコから育てて成長したところで、首をはねて食えと言われた時はあの女……元理事長のことを悪魔だと思った。
ただ、酷いことでもなんでもない。養鶏場の人たちは当たり前のようにやっている。ただ普通の人間が彼らがやるためにやらないだけなのだ。たまに愛情がどうだの言う人間がいるが、じゃあ、養鶏場の人たちにはひとかけらも愛情がないのか?
人語を話す生き物を殺すときはもっとつらい。やつらは命乞いをし、涙すら流すのだ。その相手に情け容赦なく、刃を振り下ろさなければならないのがヒーローだ。
鶏を殺さないと鶏が食えないように、敵を倒さなければ、誰かの明日を守れない。
だから、ヒーローは普通であってはならないのだ。
中には俺たちを超人と呼ぶものもいる。
「覚悟がないなら、俺の後ろで隠れてろ。お前は俺が守ってやる」
死の覚悟、殺す覚悟、2つを乗り越えないとヒーローにはなれない。訓練を受けていない人間では無理だ。
「来いよ、ぶちのめしてや……」
「えい」
後頭部に、炎を食らった。
「禿げたらどうするんだ」
「ふん、あなたの毛根事情何て知らないわよ。あなたの方が弱いんだから、助けるのは私でしょ」
「は?」
「助けられた御礼を言っていたでしょ。つまり、私の方が立場は上な訳」
「はん、さっきまで、震えてたやつが何言ってやがる」
「……今、鼻で笑ったわね。フェイカー」
「私の方が強いわよ。何故だか分からないけど、今絶好調だからね」
「うん?」
魔力の絶対量が何倍にも膨れ上がっているのが分かった。
「ちっ、魔女化したか」
そう言って、悪魔が呟いた。
俺は温泉の水を使って、辺り一面に粒子を散布している。その影響と言ったところか?
「魔女化に至った人間と、魔王の目を持つ人間。特異点が2人。どうなっているのやら……あなたたちはここで確実につんでおかないといけないわね」
そう言うと悪魔は、残っていた甲冑の身体に手を突っ込むと黒い炎で焼き殺して、その炎を吸収した。その炎は青色の炎だった。
「貴方たちは、ここで確実に摘む。光栄に思いなさい、生かしておくと確実に悪魔界に影響を及ぼす脅威になる」
悪魔界?
「ダサい名前ね」
そんなはっきり言わなくても……
「無理だろ。お前は俺達よりも弱い」
「そんなはっきり言うのは可哀想よ」
お前が言うな。
「……今わね。この身体になじむのに時間がかかるのよ。フルパワーで戦えない。不細工になるからやりたくなかったけれど、仕方ない」
そう言って、青色の炎が一瞬煌めくと、悪魔の姿が元の黒色魔法少女に戻っていた。しかし、前よりも纏っている炎は熱く禍々しい。
「ああ、本当不細工よね」
「「今の方が可愛いと思うぞ(わ)」」
「!」
奇跡的にはもった、俺と美涼の言葉に、悪魔はなんとも言えない表情を浮かべた。
「本当、悪魔の神経を逆なでするのが上手いこと」




