第51話:最凶対決
脳が焼けそうだ。
まるで、俺の意識を刈り取ろうとするような感覚。脳が痺れて熱い。
あっ、身体が動いた。
地面を抉る。地面に足跡が残っている。音速を超えソニックブームが起きる。触れるもの全てを傷つけるように、突き進んいく。
「うおおおおおおおおおおおおおおお」
吠えた。俺の意思ではない。
勝手に身体が動く。激痛はやまない。俺の意識を自由を奪われた身体が奪い去ろうとするように、突き進んでいく。
そんな俺を、悪魔が微笑みを浮かべながら、撃退の準備を進めた。持っていた傘が開かれる。黒い炎を纏った傘に、俺の拳がぶつかった。
熱い……意識が飛びそうだ。
だけど、それと同時に感じる確かな感触。
傘を吹き飛ばし、俺の拳が悪魔の顔面を捉えた。
「ぐおおおおおおおおおおおお」
勝利の雄たけびを上げるように、吠えた。
完全に獣だ。相手を殺すことしか考えてない。
頭が痛い。意識を保っていられない。壊れそうだ。
「痛いな……お母さまにぶたれたことないんだよ」
「ぐおおおおおおおおおおおおお」
「返事も出来ないんだね」
顔面をぼろぼろな傘で思い切り殴打される。もう痛いのかどうかさえ分かららない。ずっと痛いのだ。だが、その殴打によって俺の意識が一瞬飛んだ。
そのせいで気づいた時には、悪魔の首を絞めながら、後頭部を地面にこすりつけていた。
どれだけ意識を失っていたのだろ。場所も変わっている。
元々ぼろぼろだった街はさらに破壊されている。
「痛いんだよ」
そう言った悪魔に顎を蹴りでかちあげられる。
今度は意識を失わない。ただ、身体は自由には動かなかった。拳を振り上げて悪魔に振り下ろす。しかし、悪魔はその拳を寸でで躱すと、俺の顔面に手をあてる。
顔を業火で焼かれる。いけない……と思ったが、また意識を失った。
「はあはあ」
荒い息遣いを感じる。
本当に強いな。
そう思いながら悪魔を見ていた。
「いい加減死んだらどうなんだ。化け物め」
悪魔にそう言われるのは心外なのだが、確かに化け物だ。身体を炎で焼かれ、何度も意識を失いながらも、この肉体は滅びることを知らない。
内から沸き上がってくる破壊衝動。どうしようもなく、全てを滅ぼしてしまいたいと願っている。飢えていると言った方が良いかもしれない。壊したいのだ。全てを。例外なく等しく、……何のために?
誰かの意図を感じる。滅びるようにプログラムされているような。終わりへと向かっていく力。それが運命だというのならば、俺は……絶対に負けてやらない。
しかし、負けないと強く願っても、俺は何も持っていなかった。
運命とは残酷で、それを覆すには大きな力がいる。今の俺にそんな力はなかったのだ。意識は深淵へと導かれ、そして俺は初めてそいつと出会った。
*
「よう、フェイカー」
鏡を見ている様だった。目の前に俺がいて、その俺が俺に喋りかけている。
「誰だお前は?」
そいつは俺の腰に向けて指を指した。俺の腰にはベルトが巻かれている。ベルトからは黒い液体が湧き出して、流れていた。
「あるヒーローのベルト、それを模して作ったのがそのベルトだ。だが、完成度は本物の10分の1ほどだった。そしてなによりも無視できない欠陥があった」
「?」
「魂が宿っていなかったんだ」
「魂?」
聞いたことがある。聖剣を始めとした人智を超えた兵器には付喪神が宿ると……
「アーティファクトと呼ばれる兵器にはそれが宿っている。あの女もこれには手を焼いていたよ」
可笑しそうに笑っている。俺が絶対にしない笑い方だ。
「その結果をうけて、あの糞女は2つの実験を行った。1つは人造的な魂の精製、もう1つは、別のアーティファクトからの魂の移行」
実験を行ったのは間違いなく、ローリー博士だ。
「実験は大成功だった。ベルトには魂が宿った。それが俺だ。だが、あの女は……」
暗い表情を浮かべる。
「失敗作扱いしやがった。絶対にうるせねえ。この屈辱がお前に分かるか?」
「うん?」
何か流れが変わったな。
「こんなちんけなベルトが俺の器になったんだ。これは奇跡だ。やつは神に感謝すべきなんだ。なのに『使い物にならない』とか言いやがった。俺は生まれてからここまで、ここまでの屈辱を受けたことは無い」
悔しそうに、そいつは拳を握った。
「そもそもアーティファクトは、選ばれた人間にしか使えないようになっているのは必然だ。世の中の法則だ。それをあのバカ女は何も理解していなかった。あまつさえ、神の領域に挑戦した。アーティファクトにもう1つ人造の魂を入れたんだ」
2つの実験。彼女らしいと言えばらしい、ローリー博士は、自分の欲望を抑えられない。そういう素養があることは分かっていた。
尊敬しているが危険な人なのだ。
「その結果、ベルトは誰でも使えるようになった。あの女は『成功』だと喜んだが、俺から言わせれば失敗だ。適合者でない人間が力を使えば、その肉体はやがて滅びる。1度変身すれば再起不能だ。だが、それでも生き残る人間は何人かいた……そして、その人間が残酷な運命を知って、自分に歯向かってくると面倒だろう?」
そこまで言えば、俺でも分かる。
「そう思ったあの女は、あのベルトに暴走プログラムを仕組んだ。いつか自壊して壊れてくれるようにとな」
全て仕組まれていた。だが、それでは辻褄が合わないことが多くある。
「俺は変身しても平気だったぞ」
「当たり前だ。お前は忌々しいことに適合者だからな。あの女も意外だったろう。まさか適合者が現れるなんてな……お前は知らないだろうが、あの女は冷酷な人間だ。なのに、何度もお前を助けるのはお前が適合者だからなんだ。お前はあの女にとってかけがえのない存在とでもいいかな」
「……なら、どうして暴走プログラムが作動している?」
「暴走プログラムのスイッチをいれたのは俺だからだ」
「何だと……」
そいつは不敵に笑った。
「運命とは皮肉だな。装着者を殺すために存在した暴走プログラムだが、お前の命を救ったのもこれだ……暴走プログラムとは諸刃の剣そのものなんだ。強制的にベルトの全能力を解放してくれる。龍王に勝つにはベルトの全能力を引き出す必要があった。例え、お前がその力を操れなかったとしてもな」
「だから、お前が代わりに操ってくれたのか?」
「そうだ。お前と俺の魂は完全にリンクしている。俺にとってもお前はかけがえのない存在なんだ」
自分にそう言われると、何か気持ち悪いな。
「どうすれば良い?」
「どうすればとは?」
「どうすれば、お前がやったように操れるんだ?」
「……幸い、俺とあの女の目的は一致している。お前を生かし育てることだ。だから、もう少ししたら来るだろう……」
来る?
何を言ってるんだ?
「フェイカー」
「!」
美涼……深層意識の中で確かにその声が聞こえた。
美涼が戦場に来ている。いかに魔法少女と言えど危険だ。
「暴走プログラムの破壊衝動を抑えるには、それよりも強い感情で上書きするしかない。趣味の悪い……糞女だろ」
そいつはそう言った。確かにそうだと同意せざる負えない。
恨むぞ、ローリー、この真っ黒な感情という最凶の敵と戦って、勝つしかないのだ。




