第50話:破滅が時
痛い、痛い、痛い
攻撃を受けてわかった。この身体は無痛でもなんでもないのだ。ただ衝撃に強いだけ、痛みを普通に感じる。それだけではない、食いしばる歯がないのだ。急所を守る腕もない。
ただ攻撃にさらされて、ただ過ぎて行く時間のなかで死神が鎌をもって、俺を手招きしているこが分かった。
こんな終わりとは思わなかった。
もう少しまともな負け方で死にたかった。でも、ヒーローなんてこんなものか、誰も自分の死に場所を選べないのだ。だって、世界は残酷に出来ているからな。
目標をもって生き始めたのに、これじゃ……
「何やってんだよ」
そんな声とともに魔力が断ち切られる。
誰だ?
この高濃度の魔力の一撃を断ち切るなんて、新次郎か?
「大丈夫、ヤス君?」
アルル!?
「だいぶ、苦戦しているみたいだな」
ベル!!
「何でって顔しているから、言わせてもらうけど、後方待機させたのはお前だろ? そのお前がやられたのを見えたから助けに来たんだ」
確かに、イレギュラーが起きたときように待機させていたが早すぎる。それに、2人が勝てる相手ではないぞ。俺はこんなだしどうしたら
チャームリンクに再び炎が灯った。
連発できるのか?
その事実に驚愕しながらも、さらに身体が壊れていく彼女を見た。
逃げろ。そう叫んだが聞こえない。俺に声を発する口は無いのだ。
どうして……どうして俺は今無力なんだ?
「変身!」
???
何が起きたんだ。予想外のことが起きた。
何をしたんだ? あの魔力がまた消えた。
変わったのだ?
禍々しい悪魔の力とは違う。そこにいたのは、白い龍人とでも呼べばよいのだろうか……そう呼ぶできものだ。一度対峙したから龍の圧倒的な力を肌で感じる。
間違いない。神々しさすらかんじる畏怖。
「大丈夫」
アルルが俺のことを強く抱きしめながら語る。
「私たちは、ヤス君に守られるだけじゃないよ」
「泰裕……失敗したみたいだな」
そう聞いてきたベルには頼もしさを感じた。
明らかに変わっている。変身系のスキルだろうか?
「私たちもローリーちゃんの改造手術を受けたの……だから、強くなったんだよ」
そう言って、アルルが俺を優しく地面に下ろすと、手を伸ばすとその腕が蛇のように唸って伸びた。
それを嫌そうに黒色魔法少女がガードするが、その魔法の一撃を唸る蛇が食い尽くす。
「無駄だよ」
「お前の負けだ」
そう言って、俺は2人の頼もしい背中を見ていた。
何だろうな、この感情は……恐怖している。どうしてだ?
身体が震える。どうしてだ?
ベルは強い。アルルも強い。圧倒している。
それでも身体全体が震えるのは何故だ。
ベルの一撃に、黒色魔法少女は膝を折った。決まった。もう相手は立ち上がる気力すらないのだ。
チャームリンクの炎が一際強く輝いた。黒色魔法少女の身体がひび割れていく。
俺は本能で感じた。
ねっとりとした嫌な空気。背筋を舐められたようなこの感覚。
ベル!
早くやれ。間に合わなくなるぞ。
ヤバいと気づいたベルがとどめの一撃を加えようと踏み込んだ。しかし、それでは遅い。
炎が収縮していく。広がった炎はただ一点に集まっていく。
それを黒色魔法少女の身体すらも呑み込んで、はじけ飛んだ。
黒い蝶が舞っている。
地の底から湧き出すように黒い蝶が下から舞い上がっているのだ。そこは地面だ。穴何てどこにもない。でもそこから湧き出ているのだ。
その奥から、1人の少女が歩み出る。
眼球すら黒く染まった目。それが彼女が人間でないことを示している。
黒いゴシックのゴスロリ衣装は元々なのだが、それをまた別の少女が着ている。どこからだしたかわからない長い傘を持っていた。
青い白い肌の少女。長い爪の少女、黒い尻尾の少女。人間ではないのだ。彼女を表す人間との差異はたくさんあった。
「ごきげんよう、塵芥ども」
少女は優しく微笑みながら、そう挨拶した。
「…………」
俺たちは固まっていた。生まれて始めてみた悪魔と言う存在に目を奪われていたのだ。何だ、この感情は、あれは人間よりも遥かに上位の存在だ。
格の違いが分かるから、動けない。
「挨拶くらいしなさい」
少女は持っていた傘で、隣にいたベルの脇腹を突く。そうすると黒い炎の爆発が起きて、ベルが吹っ飛んでいく。
「貴方たちは、魔界の貴族の前にいるのですよ」
魔界?
貴族?
現代では聞きなれない言葉だ。魔王の時代の言葉だからだ。貴族制は英雄が撤廃した。
「ベル君」
気づくとアルルが立ち上がっている。
駄目だ。止めないといけない。でも今の俺は軟体生物だ。何もできない。手を伸ばすことすら俺にはでいないのだ。
「どうされたのお嬢さん。醜い顔をさらに醜くして、私の前では嬉しくなくても笑いなさい」
「私が笑うのは、仲間の前だけだよ」
そう言って、アルルが駆け出していく。2本の手が伸びた。
「蛇は好きよ。でもおいたは駄目ね」
アルルの腕は悪魔に届く瞬間。悪魔は持っていた傘を開く。そうすると傘から炎が渦のように吐き出された。
アルルの腕が一瞬で灰になる。
「あああああああ」
「駄目って言ったのに、おいたしたから」
「アルル」
それを見て、ベルが立ち上がろうとする。
しかし、その頭を踏みつぶされた。
「私の前では、その頭の位置が正しいの。貴方たちは塵芥……人間なんだもの」
「だれが……」
ベルが全身の筋肉に力を込めているのが分かった。
でも、上がらないのだ。
どんな力で踏みつぶしているか分からない。でも頭は上がっていなかった。
「くっ」
頭を踏まれたベルの身体には火が付いた。燃えている。
俺はその時、灰の臭いを感じた気がした。臭いなんて感じるわけがないのに、何故かそんな気がしたのだ。
思い出すのは、あの日だ。
今も鮮明に覚えている。あの日、俺の仲間は生きたまま燃やされたのだ。灰になった日だ。供養もしてやれなかった。何も残っていなかったのだ。
何をやっているんだ俺は?
こんどは仲間が目の前で燃やされているのに、お前はまた何も出来ないままなのか?
止めろ。変身するな。
誰かがそう叫んだ。
うるせえよ。仲間を見殺しに何て出来るかよ。
軟体生物の身体からベルトが浮き上がってくる。
変身!
心の中でそう叫んだ。
何も起きない?
一瞬そう思った。しかし、ベルトは俺に応えて眩いばかりの光を放つ。ベルトから触手のようなものが伸びて、軟体生物であるおれの身体に刺さった。
「ベルセルクフォーム」
激痛とともにそんな電子音が鳴り響いた。




