第48話:ヒーローとヒロイン
「殴り込みなんて、何か勝算があるんですか?」
21はそう言ってくる。ベルは何かを察したような顔をしている。
「俺のベルトは壊れてしまった……」
そもそもベルトがあったかから勝てるかと言われたら、それも微妙である。
心臓に手をあてる。もう1人の俺だったなら勝ったかもしれない。俺に勝算がどれほどあるというのだろう。
「でも、それでもやるよ」
「相手は最強の魔法少女なんだろう?」
「そうです。5つもリングをもっている」
ベルの言葉に21が答えた。
「俺は、逃げるためにヒーローになった訳じゃない。それにここは俺の街だ。それだけで、俺にはあいつをぶっ倒さないといけない理由がある。21よ、勘違いするなよ。人が環境で悪にも善にもなるが、環境のせいで悪になったって罪は消えない。なら、罪を重ねる前に倒してやるのが優しさだとは思わないか?」
俺は目を閉じて、少し考えた。
悪の組織の人間である俺に、偽物のヒーローに、こんな言葉を吐く資格はないのかもしれない。でも……
「俺には黒色の救い方なんて分からない。でも、これ以上罪を重ねることのないように倒してやることは出来る……かもしれない。ヒーローにやってやれることなんて、それだけだ。誰かを救ってやるにはもっと大きな力がいる」
「大きな力?」
「そうだ、ベル。俺はヒーロー本部のトップに立つ。そのために、黒色を利用させてもらう」
「トップに……」
「いや、、無理だろ。馬鹿なのか?」
放心する21を裏腹に、ベルがツッコミをいれる。
「でも、そうしないと環境は変わらないだろ。理不尽に勝つには、誰かがてっぺんに立たないといけない……ずっと考えてたんだ。俺は黒色は救えないかもしれないけど、同じ境遇の人を救えるかもしれない」
そうだ、俺は普通のヒーローではない。
偽物のヒーローだ、なら、普通の生活をする世界的大多数のためではなく、理不尽な環境に置かれたマイノリティのためにヒーローをやろうと決めた。
それはきっと間違っている。だけど、正しい必要なんて1つもないのだ。俺は悪の組織のフェイカー、悪だ。俺の正しいと思ったことをすれば良い。
それに面白いじゃないか、偽物のヒーローが本物のヒーローの中で、トップに立とうとしている。矛盾しているゆえに俺らしい。
偽物のくせに、そこのトップに立とうとしているのだ。こんな悪いやつがいるか?
「そう思えば、黒色何て通過点だ……俺は自分に自信がなかった。それは今も変わらないけれど、もう逃げないぞ。真向勝負だ」
「……彼はいつもこうなんですか?」
「盛り上がりやすく、冷めにくい人間なんだよ。なのに自分のことをクールだと思ってるんだ」
何か、2人がこそこそ話を始めた。
「あれ、本気で言ってるんだぜ。放っておいたら無策で突っ込んでいくぞ」
「しらふで言ってるんですか?」
「言ってるんだよ。やると言ったら本当にやるんだよ。アイツは……だから、フォローしてやらないといけない」
ベルはなにやら頭を抱えていた。
その姿はグリーンを思い出す。いつも俺が何かお願いすると頭を抱えていた。それをイエローが慰め、レッドが文句を言い、ピンクがいつも俺を助けてくれた。
そう言えば、そのたびに俺はこう言っていたっけな。
「大丈夫だ。問題ない」
かつては根拠は無かったけど、今はちゃんと根拠がある。
「敵だったやつらが、こうやって一緒に食卓を囲んでいるんだ。不可能なことなんてない。きっと上手く行く」
*
「男性陣の方が何やら、騒がしいですわね」
「どうせ、ヤス君が馬鹿なこと言ってるんでしょ」
アゲハの言葉にローリーが嬉しそうに返す。
そして、小声で呟くのだ。
「そうじゃないとね。君はもっと深みにはまっていくと良い」
「嬉しそうだな、ローリー」
そんなローリーに対して、銀子がそう発言する。
「予想を超えて育つからね。見ていてこれほど面白いものはないさ」
「それでも、黒色魔法少女ってのは強いんだろ? 勝てるのか?」
美涼に聞かれないように、警戒しながら銀子は小声で呟いた。
「まあ、0.9銀子ちゃんくらいの強さかな」
「人を単位みたいに呼ぶな。それに、もし、それならヤスに勝ち目はないだろう? 格が違う」
「確かに、格がちがうだろうね……」
「1ヶ月前のやつは、0.2私くらいの実力しかなかったんだぞ。修行してどれだけ強くなったか知らないが、勝てるわけがない」
銀子は蘭を見た。どれだけ強くしたか分からないが、それでもまともに戦えるようになったとは思わなかった。
「うちのヒロ君は強いからね。余裕で勝てると思うから安心すると良いよ」
自信満々に美涼は、悪の組織の面々にそう言い放っていた。先ほどまで怒っていたのに切り替えが非常に早い。
「私が有能Pとして、必ずトップヒーローまで育て上げて見せる」
まるでトップアイドルを育てる、プロデューサーのようなことを言っている。真面目に心配しているのは、いつも真面目でない銀子くらいで、蘭くらいは心配しそうなものであったが……
「泰裕さんと添い寝、泰裕さんと添い寝……」
心ここにあらずと言った様子であった。彼女の中では色々な思いがぶつかって、整理でいないでいたのだ。
*
黒色魔法少女は、龍の魂とも言える卵を持っていた。
本来なら、それを使って魔女になれるはずである。しかし、泰裕に龍が負けた影響で、その卵にそんな力は既に残っていなかった。
ただ、それも彼女のプランのうちである。
強い魔力を持つもの血を媒介にすれば、力を失った卵であっても、まだ彼女を魔女になれる可能性は十分にあった。
その存在は、ずっと魔王の血を引くものだと思っていた。しかし……
「三ツ星……」
それに匹敵する魔力を持つものが現れた。そして、そいつは間違いなく自分のところにやってくることが分かっていた。
彼女は本能的に察していたのだ。
「ふむ」
黒色魔法少女は、杖に魔力を込めた。
それは魔王の杖である。それを振るうと龍とともに封印されていた古代兵器が起動した。全てをとってこれたわけではない。だが、その中でも強力なものが手に入った。
幾百ものカードが彼女の周りを飛ぶ。それ1つ1つが魔法と言う奇跡を内包している。
準備は万全。ここに来るのは、まさに飛んで火にいる夏の虫以外にありえない、そんな状況であった。
少しでも勘の働く人間なら、そこに来ないだろう。勘の働かない人間でも真正面からは来ない。だが、まともな人間にしかその定義は通用しない。
「自分で言うのもあれなんだけど、俺は心の優しい人間だと思うんだよね。今、御免なさいしたら許してやるぞ」
そんな頭の悪いセリフを吐きながら、そのヒーローは現れた。真正面から堂々と……
「へー、正面から来るんだ」
「ここは俺の街だぞ。主役が堂々と現れなくてどうする」
そう言うと、彼の後ろにいる人間は何人か頭を抱えていた。
「ここは私の舞台、私が主役で君は脇役だよ。格の違いを教えてさしあげようか」
どちらも自分が主役だと思っているおめでたい2人。まるで運命だったかのようにぶつかり合った。
ヒーローとヒロインだから、戦い合って最後は結ばれる?
そんな物語のような甘い結末が、この2人に待っている訳はない。
だが、お互いを見る目は、愛し合っているカップルよりも遥かに情熱的で熱かった。それほどまでに、お互いが勝利に飢えていたからに他ならない。




