第45話:黙秘権を行使します
ローリー博士に伸ばされたり、摘ままれたり、色々と転がされたりと、訳の分からない実験をされた。
ローリー博士としては、電気ちょっくだったり、燃やしたり、各種薬品に漬けて見たかったみたいだが、ベルが全力で止めてくれた。
もつべきものは頼りになる親友である。光のような役立たずとは違う。あいつはあまつさえさらわれたからな。要らないヒロインムーブしやがって。
「飽きた。面白くない」
小一時間たって、ローリー博士はそんな冷たい言葉とともに、俺を放り捨てた。
やりたい実験もさせてもらえず、出来ることとしては愛玩動物のように抱きしめて膝に置くくらいである。飽きられても仕方ないだろう。俺としては得した気分である。地面に落とされたって、俺は軟体生物なので地面と激突したくらいではびくともしない。
しかし、ローリー博士がいなくなって部屋の中に異様な雰囲気が流れた。
こんなカオスな状態はないだろう。
悪の組織とヒーローが同じ空間にいる。どっちの組織に顔がきいたローリー博士はもういない。
俺はというと、喋れないので何も言えなかった。
別に黙秘権を行使しているわけではないぞ。喋れないんだ。
皆俺を見ていた。まあ、共通の知り合いって俺しかいないからな。でも、どうろっていうんだ。今の俺は病み上がりで可哀想な状態なんだぞ。優しい言葉の1つくらいかけてくれよ。
「あなたは……」
アゲハ先輩が口を開いた。
頼むからまともなことを言ってくれよ。空気を壊すのは万死に値するぞ。
「あなたは最低です」
俺はアゲハに持ち上げられた。
「どうして黙っていたんですか? それにあの人たちは私たちの学校を襲った人達でしょう? どうしてです。どうしてそんな人たちと一緒にいるんですか?」
それは、もっとも意見だと思う。
ベルは置いておいて、アルルはうちの学校を襲った実行犯でもあり、アゲハは被害者だ。精神をボロボロにされて、苦しんでいたのを俺は知っている。
「どういうことか聞かせてもらえるかな?」
冷静なそれでも冷たい声がひびいた
でも、冷静になって考えてみてくれ、俺は今喋れないんだ。
「私たちが悪いことをしたのは知ってる。私もヤス君を傷つけた。でも、それでも彼は私に居場所をくれたから……」
アルルは顔を伏せながら、そう言った。
居場所をくれたのはローリー博士だ。俺はただ頼んだだけである。
「捕まってもどうせ極刑なら、悪の組織で生きて償えって言ってくれたんだ」
「悪の組織の人間が何様です」
「……俺様だって、泰裕なら言うだろうな」
(え?)
俺、そうなこと言わないんだけど、何喋れないのをいいことに捏造してるんだ。ふざけんじゃねえぞ。
「あいつなら言いそうだ」
おい、新次郎、俺はそんなこと言わないぞ。
「ミステイクはそう言った人間の集団だ。一度道を踏み外した人間が集まって、ヒーローに対抗するためにできた組織なんだ。中には表社会では二度と生きていけない凶悪犯もいる。だから、ミステイクは君たちも歓迎するよ」
そう言って、ベルがマリとウイの方に手をさしだした。ベルは何となく良い空気を作るのが上手い。だけど、俺にもベルにも人を増やす権限がない。あるのはここのボスであるローリー博士だけだ。
そもそもこいつらは何でいるんだろう?
俺が捕まえたのに、脱獄でもしたのだろうか?
まだ、恩赦は与えていないはずである。
「マイエンジェルが、君の竜討伐の功績を最大限利用して、恩赦をはかってくれました」
なるほどな。ローリー博士が動いたのか。
俺は、21の言葉に、事態を理解した。
どうやら、龍を討伐したのはフェイカーではなく、三ツ星ということになっているようである。そちらの方が好都合であるが、そんな伝説級の活躍をしたら、ヒーロー本部で勲章の1つでも授与されかねない。
その時になって、今の俺はこんな姿である。言い訳出来ないぞ。少なからず俺は何も思いつかない。
「何で悪の組織に入った? お前なら、ヒーローとしても出世できただろう?」
そんな時、新次郎がさらに質問を投げかける。
だから、俺は喋れないんだって、学習しろよ。
「ヤス君は、仲間のために命乞いして、その姿に感銘を受けた銀子ちゃんが広い心をもって、組織に入れてやったって言ってたよ」
代わりにアルルが答えた。
何か、俺の知っている歴史と少し違う気がする。
「仲間のために……」
「さすがですね」
何故か俺の評価が上がった。なら、別に良いか……
「つまり、ヒーローとしてでは救えない人を救うために、悪の組織に入ったっと言うことか?」
ごめんなさい。最初はお金のためでした。
「そうだ」
勝手に、ベルが答えた。
「ヤス君は、そう言う人なんだよ。ヤス君は私にも手を差し伸べてくれた」
喋れないと言うのはむず痒いな。
俺は俺がいるのに、勝手に俺のことを分かった気になって、話し合っているその場を後にした。こんな姿になっても動けるのだ。
といっても、ナメクジみたいな移動方法であるが、ドアの隙間に入って外に出た。
「愛されてますね」
そこには、何故か21がいた。
「中にいるのは分身ですよ」
(なるほどな)
「あなたと一対一で話がしたかった」
(俺は蘭が心配だから、様子を見に行きたいのだが……どうせ俺は喋れないし……)
そんなときに、あいつが音もなく現れた。
「蘭ちゃんのところに行きたいって顔をしているな」
(ベル)
顔をしているって、分かるのだろうか?
「悪いけど、君とサシで話させるわけにはいかない。何を去れるか分からないからね」
「私は何もしませんよ。彼には感謝してる。絶対に不可能だと思った龍を彼は倒した。信じられなかった」
うん、俺も信じられない。
どうやって勝ったか分からない。だから、蘭に聞きたいのだ。俺はどうやって勝ったんだ。
「俺もそうだよ。絶対に不可能だと思ったサタンをこいつは倒した」
「ええ、不可能なことなんてないんだと思わせてくれる。不思議な人ですよ」
人ね?
俺は、本当に人間なんだろうか?
自分のアイデンティティを問いたい。
「だからこそ、彼にはもう一度奇跡を起こして欲しい。不可能なことなんてこの世にはないんだと、そう見せて欲しい。あの哀れな少女を救って欲しい」
「黒い魔法少女か?」
「はい」
何か盛り上がっているところ申し訳ないのだけど、今の俺はこんなんだよ。
期待しても何も出来ないぞ。
ガツンと言ってやりたい。期待しても無理なものは無理。俺は奇跡なんて起こせないし、あのどうしようもない魔法少女を救ってやることなんて俺にはできない。だって、俺よりも強そうだし、話し合いをしようにも暴力で返り討ちよ。
だから、言ってやれよベル。
無理なものは無理だって……
「ふむ」
ベルが俺を抱き上げる。
「話を聞くって顔をしている」
(は?)
そんなこと思ってないぞ。捏造するんじゃない。
てか、お前が話聞きたいだけだろう。
「ありがとう」
「困ったときはお互い様だとこいつなら言うだろう」
(言ってない、言ってないからな)
何が悲しいかな。野郎3人で野郎の部屋にいる。
ここはベルの部屋である。俺の部屋と違って、余計なものが転がっておらず綺麗に整理整頓されている。几帳面な性格が伺える。
「エリア64を知っていますか?」
俺がベルの部屋を眺めていると、21がそう切り出した。
エリア64と言えば、存在しない街の名前だ。
「ヒーローに捨てられた街」
「その通り、その存在をヒーロー本部はもはや認知すらしてしない無法地帯」
「存在を誰も認知しなければ、ここはいたって平和な世界というわけだ」
「……そんなところが世界には64エリア存在している」
何の話をしているんだ?
そんな異世界の話は俺には関係ないな。
「何か震えているように見えますが」
「武者震いだ」
(おい!)
ビビってるんだよ。分かるだろそれくらい。そんなド級の無法地帯の話はしたくない。
たいていのエリアはSランクの悪の組織が仕切っている。関わったら最後、命はないだろう。
表向きにされてないだけでトップヒーローだって負けてるんだ。
「エリア64にはヒューマンショップがある。彼女たちは奴隷だった」
(!)
驚いた?
否、薄々は分かっていた。そんなんじゃないかって、そんな風に思っていた。
「ヒーローとしてのあなたに問う。どんな環境で育っても、人は正しく生きれると思いますか?」
(俺は……喋れないんだ)
「それでも悪だと、悪いことをしたと言って断罪しますか?」
(止めろ。そんなことは知りたくもない。敵だから倒すシンプルで良い。後は法にでもまかせればいいのだ)
21は、ベルのほうを見た。
「きっと、彼も法の裁きにあっていたら、まともな生活をおくれなかった。殺されなくても、やり直すチャンスすらもらえなかった。だから、あなたが囲っているんでしょ?」
ヒーロー……と言っても俺は偽物だ。
そんな俺に何を求めているんだ。エリア64何てどうしようもないし、今は何の力もないんだ。それに世界が見捨てたなら、無いのと一緒だな。
(……これじゃヒーロー本部の汚い大人と変わらないな)
「彼女たちは、性的暴行を受けて来た。食うか食われるしかない世界で育った。しかし、そんな彼女たちに奪うか奪われるかじゃなく、与える側の人間がいることを示したのは君だろう。そして、あの天使のような方が、君の言葉を守って彼女たちに恩赦を与えてくれた」
「お前の状態は本当に酷かった。今にも消えそうな状態のお前を、ローリー博士が何とかつなぎとめたんだ。魔力を与えれば、身体の崩壊が止まることを突き止めたのもローリー博士だ。ここ数日、一度も寝てないんだ」
知ってるよ。目に凄いクマがあった。蘭のやつもそうなのだろう。
あんな『飽きた』なんて言葉残して、寝に行ったのだ。俺に気付かれるような素振りすらみせずに……
「奇跡が起きたと思ったよ。そんな彼女たちが、君に魔力を与えた。大嫌いなはずの男である君にだ。君が変えたんだ」
(それは買い被り過ぎだ。俺はそんな立派なものじゃない。なあそうだろうベル)
俺はベルのほうを見ると、うっすらと涙を浮かべていた。
……ベルもそうだ。恵まれない環境で育ったんだったな。
「君は何なんだ?」
ベルが21に質問する。
「私は……」
21は悩むような顔をして、口を一瞬閉ざしたが言葉を続けた。
「私は奴隷ではなかった。たまたま魔力と言う珍しい力を持っていたので、抜け出せただけですが……彼女たちと同じところで育ったが、私は逃げ出せたのです。ある人が逃がしてくれた。私はその人を救いたくて、色々なところを回って、力を蓄えた。そんなある日、チャームリンクの存在を知った。悪魔の力を得れば救えると思った。だけど……君のようにいきませんね」
21は俺の方を見た。
「だが、私が戻った時にはその人は死んでいた。小さな子供を残してね。私はその子にチャームリンクを渡して、こんな狂った世界を抜け出して欲しかった。しかし、待っていたのは何も変わらない未来だった。エリア64から抜け出しても、彼女は、奪うか奪われるかの世界にいる」
俺は何も言えなかった。喋れないからではない。
何も言えることがなかったのだ、
ベルも一緒である。何も言えることがないようだった。
「本当は、力ではなく道を示してあげるべきだったんだ。君の用にね……」
俺は、ローリー博士と銀子さんに道を示してもらったことを思い出していた。
「彼女は、最強の存在にならなければ奪われると思っている。いつまでたっても、真っ暗な世界の中にいる。彼女だけは無理だと私も諦めたが、不可能を可能にした君を見た。君なら、そこから救い出してくれるかもしれないと思ってしまった」
そう言って、21は手をついて頭を下げた。
「そのためなら、私は君の手足になって働きます。一生の忠誠を誓う。どうか、彼女を救い出して欲しい」
お前何て要らないよと言いたかったが、俺には何も言えなかった。
そうこうしていると、ベルの部屋のドアが開いた。
「お願いします。虫のいい話だと思っています。私たちも諦めてた。でも……」
「種違いとは言え、姉何です。何でもします」
マリとウイだった。
アゲハ先輩と新次郎もいる。
期待した目で俺を見ていた。どうすれば良いと言うんだよ。
(…………)
俺は何も言えなかった。
何も言えないとはこういう時は得である。合法的に黙秘権を行使できる。
俺は何も言えないまま。夜を迎える前に眠りに着いた。寝ればあの人にあえると思ったのだ。蘭も都合よく寝ているからな。
「ようやく目が覚めたようだな」
夢の中でその言葉は矛盾していると思う。
「こんばんは、魔王」




