第40話:超変身(前編)
出し惜しむ必要はない。
俺はすぐさま『セカンド・アイ』を発動せた。何度か発動させてきたおかげで、その発動を非常にスムーズで、自分でもわかるほど、濃い魔力が自分の中を駆け巡っているのが分かった。
その魔力を受けてか、腰のベルトが震える。
それが何か分からないが、予防線のように思っている、ベルトが震えるときは、自分の限界を超えて力を発揮しようとしている時だ。本来ならここで止めるべきなのだろうが、その先に落ちていく。
深い深い水の中に落ちていくように、身体全体に魔力と闘気を巡らせた。
ピリピリとした空気は、俺の身体を駆け巡る魔力がスパークしたためだ。一瞬の静寂とともに、地面に大きなクレーターを作った。
あふれ出た力が、自然と周りを傷つける。制御できない力と言うのは、本当の力ではないと師匠である魔王が言っていた。でも、今はこの力を使うしかない。
身の丈に合わない。過ぎた力と知りつつも今はこの力に頼るしかなかった。
耳をつんざく爆音を響かせて、唸る龍がその姿を出そうとしていた。
あんな化け物を俺の街に出させるわけにはいかない。
「異空間に返れ」
そう言って、拳に魔力を集めた。出し惜しみするつもりはない。魔王の魔力もここで使い切るつもりで、ありったけを込めた。
「見てんじゃねえよ」
俺に気付いたようで、龍は俺を見ていた。
龍という大きな存在に対して、ちっぽけな存在である俺を見ている。そして、悟ったように大きく息を吸った。
来る!
壊滅的な威力を誇る、真の龍の逆鱗が……大きく息を吸い込み放たれる息吹、必殺技というには簡単すぎて、しかし、その威力は一撃必殺の力を確かに持っていた。
「行くぞ、トール………」
ため込まれた魔力を解放する。
「ハンマーーーーーーーー」
炎と雷がぶつかる。魔王の魔力で黒く変わり威力を増した「トール・ハンマー」は、それでも、龍の息吹に押されている。
ここまで力の差があるとは、でも……それでも俺は、ここで負けるわけにはいかないから、だから……
「解放してやるよ」
さらに力を求める、身体が変わっていく。
以前そうだったように、獅子の鬣のように身体が変わっていく。ある程度セーブしていた『セカンド・アイ』の力を限界まで引き出した。
「行けーーーーーーー」
トール・ハンマーが龍の息吹に押し勝ち、その身体を異次元に再びぶっ飛ばす。
それは勝利でもなんでもない。それでも、初戦は俺の勝ちだ。
荒い息をしながら、異空間の中にジャンプする。
この姿になると身体能力もあがるようで、一瞬で飛んでいくことが出来た。
異空間。
そう呼ばれる世界に入って、俺が見たのは、信じられないかもしれないが、そこはものものしい、荒れ地のような世界ではなく、大宇宙のような不思議な空間だった。でも、そこでは息が出来た。
そこには緑の大地が浮かんでいるかとおもうと、小惑星のような星が浮かんでいる。
少なからず、今まで見たどの世界とも違う。その世界は壊れていた。
一切の物理法則が存在していないかのように、身体が宙に浮かんでいた。
世界の中心に龍がいる。ぶっ飛ばされた龍は、信じられないものでも見るよう目で俺を見ている。そして、その世界を飛んでくる。
「変身」
ここで初めてベルトを使う。
フェイカーのスーツなら、少しの間、俺も飛ぶことが出来た。異空間は思った通りで少しの推進力があれば、飛ぶことが出来た。
俺は飛びながらきょろきょろと辺りを確認して、光がいないか探したが、龍が目前まで迫ったため、それどころではなかった。
その身体をまるで星に変えたように、輝く竜燐、一直線に飛んでくる。
「糞」
出し惜しみしている暇はない。
魔力を込めた。来い。
『ソウルセイバー』
魔王の魔力で黒く変わったソウルセイバーを抜いた。
その剣で技を使う。
『明鏡止水・朧』
受けながすことに特化した流水の剣。
しかし、受け流せるほどのものではなかった。龍の身体はどこまでも雄大でそれは大きな大河を横に分断するような無謀な挑戦であった。
空間を突き抜けて身体が吹っ飛んでいく。
ぶつかったのは緑の大地だ。
身体が大地にめり込んで動かない。
それを見下ろすように、龍が吠えた。それは勝ち誇るような。どうだと言わんばかりの咆哮。最強の生物が負けることは無いのだと、そう雄弁に語るように姿。
違い過ぎる。
こっちは本気を出して、全力の全力で挑んでいるのに、相手は何だ。全くこたえていない。
俺は何も出来ないでいる。傷すらつけられない。ここまで強いのか、龍は?
ドラゴンが失敗作と言われるのがよく分かる。目の前のあれは別種の生き物だ。全く歯が立たない。
無謀な挑戦過ぎたのだ。
どうして、こんな馬鹿なことをしたのだろう。
走馬灯のように過去の出来事が行ったり来たりする。
上手く立ち回っていたつもりなのに、どうして、ヒーローになったんだ。
ヒーローやってたけど、悪の組織に入ったんだよな。
それでも、偽物のヒーローとして、ヒーローの真似ごとをした。
何故、そんな矛盾したことをした。
理由は決まっている。
失っては、いけないものがあるからだ。
もう2度と、、あんな思いはしたくない。仲間や家族を失うなんてもう耐えられない。絶対に嫌なんだよ。あんな思いをするのは絶対に嫌なんだよ。
「イメージしろ」
そんな声が聞こえた気がした。
それは魔王の声だ。俺に戦い方を教えた師匠の声だ。
残った魔力を全て込める。純粋な俺の魔力が駆け巡っていく。魔法とはイメージがそのまま形になる時がある。その人間の性質や環境がそのまま反映される。
スーツに電流が流れた。それを受けてスーツがその姿を変えていく。ベルトが俺に答えてくれた。
「ライジングフォーム」
そんな電子音が鳴り響き、青い雷がスパークする。
自分の限界を超えた出力の雷が、身体を覆い尽くした。
身体が熱かった。目がズキズキと痛む。スーツの中で自分の身体がどうなっているのか、想像するに易かったが、考えている余裕はない。
酷く強いやつが睨んでいる。
地を蹴った。速い。自分でもコントロールできない速度。
相手が目で終えてないのは良く分かった。俺の目をもってしても、何とか姿勢を保つのがやっとだった。
といっても、いつまでもそんなことは言ってられない。
時間がないのだ。目の痛みは限界の印である。それでも構うことなく、歯を食いしばった。
どこだ?
透視能力を発動させて、やつを探す。
生きていることにかけて、無理をして能力を発動させた。
「そこか……」
宙に浮いている無数の大地を足蹴に駆けた。
何か良く分からない眉に包まれた光を雷速で引っぺがす。龍が追ってきたが、もはやスピードでは負ける気がしない。
異空間の出口に向かって走る。
速く、せめて、こいつだけは逃げさなければならない。速く、もっとだ。
僅か1分間に満たない時間。
それでも、壊れた蛇口のように魔力を垂れ流し、疲労困憊が酷かったが、それでも目的は達成できた。異空間の出口に到達して、本当の地面に向かって落ちていく。
悔しそうな龍の咆哮が聞こえる。
その声を聞きながら俺は構えた。ライジングフォームになって垂れ流した魔力を、2丁拳銃の1つに貯めにためたのだ。
撃てるとしたら奴が異空間にいる今しかない。
今でなければ、街を破壊してしまう。
「全力・全開」
2丁拳銃のそれぞれに使われている魔法石は俺の魔力に対して悲鳴を上げる。それはおどろどどろしい、亡者たちのこえのようなそんな怪しい旋律。
「唸れ、鳴神」
銃身が撃ちだされる、雷に耐えられず粉砕し、あまりの負荷に魔法石がばらばらになって砕け散り銃身から閃光の光の粒のように排出される。
トール・ハンマーとはまた別の貫通力をもった雷の一撃。それが極太のレーザーのように放たれ、異空間の大きな入り口を埋め尽くした。
爆発音と断末魔のようなうめき声。そうでなければ困る。
魔力が完全に底をつき、ライジングフォームも解除された。
これで終わらなければ俺は……
固唾を飲んで見守った。倒せていなくても良い。せめて撃退するくらいのダメージを、そう願った。
「……糞ッタレ」
思わずそう呟く。
異空間の入り口から出てこようとする龍は、全くの無傷のように見えたためだ。その鱗の1つも焦げていない。
笑うしかない。どうやったら倒せるんだ。あれは?




