第39話:時は来た
「俺は……」
答えを出そうとすると、俺の手の甲に優しく手が触れた。ローリー博士だった。
首を横に振る。
「答えを焦っては駄目だよ」
仮面越しに聞いた音声だったため、ローリー博士にも届いていたようだ。
「流されるのではなく、君の答えを出しなさい」
「俺の……」
そう言われて、深く考える。どうすれば良いんだ。こういう時どうすれば良い?
複雑すぎて訳が分からない。
敵は2人だ。 龍王と黒色魔法少女。
この2人に勝てれば、全てが丸く収まる。だが、俺に勝てるのだろうか?
その自信がなかった。敵を一度見たから分かる。とんでもない相手だ。
特に龍王からは別格の力を感じた。ご先祖の最終兵器か……
全ては先祖が悪い。魔法少女が生まれたのも先祖のせいだし、あんな龍をこんなところに置いてったのも先祖のせいと言えるだろう。美涼は何も関係ないのに……
俺は考えた。
しかし、時だけが刻一刻と過ぎて行った。
その答えが正しかったのか分からない。でも……1つの結論を出そうとしていた。
*
悪の組織アジト。とある高層マンション。
「何故止めない」
苛立った声で、銀子がローリーに迫った。
全てを聞いた、銀子にとっては当然の対応だった。
「止めても意味がない」
「どういう意味だ? ローリー。あの馬鹿は、きっと戦うぞ、1億分の1の勝機もないのに、向かっていくぞ」
「だろうね」
「だろうねって、お前な」
銀子の言葉に涼し気に返すローリー。
「ヤス君にとって、今日が審判の日なんだ」
「何? 早すぎる」
「それでも、来たんだよ。今日がその日だ。僕にも来たからわかる。銀子ちゃんにはまだ来てないから、分からないだろうけどね」
ローリーの嫌味に銀子が唇を噛んだ。
「あいつが、ヒーローだからか?」
「関係ないんじゃないかな。早い子は本当にすぐ来るんだ」
「審判の日とは何だ?」
同室した魔王が2人に質問する。
「トップヒーローを始めとする、人外の化け物たちが人間を辞めて進化する日。彼らも昔から強かった訳じゃない。最初から人外の化け物なんていない。どこかで来るんだよ。人間を辞めるか、または、殻を破れず死ぬのか試される日が」
「……トップヒーローとはそこまでのものなのか?」
復活した魔王がそう問いただす。彼女の時代にはいなかったので当然だ。
「あれは、化け物だ」
「かつての王たちよりも明らかに強いと思うと良いよ」
「それは、また……」
「信じられない?」
「俄かにな。だが、それくらいじゃなければ、あの龍に勝てないのも確かだ」
「…………」
しばしの沈黙が流れた。
「魔王、ヤスは今どれくらい強い」
「余の半分くらいかの……」
「半分……まあ、そんなものか」
「無駄だよ、銀子ちゃん、ヤス君に勝ち目はないよ。どれだけ計算しても0は0だ」
「だったら……戦わせては駄目だろ。部下の命を守るのは私の仕事だ」
そう言って、銀子はアジトを後にする。
「行かせて良かったのか?」
魔王がローリーに問う。
それにローリーが笑顔で返した。
「運命からは、絶対に逃れられない。彼は最初からそう言う星の元に生まれたんだ」
「運命か……確かにあれからはそういう感じがするな。あの男が……英雄王がそうだったように、大きな渦の中心にいるような。不思議なやつだ」
そう言って、魔王もまたアジトから出て行こうとする。
「どこに行くんだい?」
「決まっているだろ」
「……そうか」
その言葉に、何かを察したようにローリーは何も言わなかった。ただ、それは魔王に対してである。
「盗み聞きは終わったかい?」
「ローリー博士、あの……」
「ローリーちゃん」
ベルとアルルだった。2人の心配そうな顔にローリーは笑った。
「君たちもヤス君の力になってくれるのかい?」
「はい」
「うん」
そう言って、2人は力強く頷いて見せた。
「幸せ者だな」
そう小声で呟いたローリーは、2人を連れて研究室の方に消えて行った。
*
生徒会室。新次郎は、花音のところに行ってしまっておらず、俺と鳳凰院先輩の2人だけである。
「悩んでますの?」
鳳凰院先輩がそう質問する。俺を何だと思っているんだ?
俺だって人間だ。悩みもするさ。
「ああ、悩んでる」
「そうですか……かつてのあなたの仲間なら、何て声をかけるんでしょうね」
かつての仲間か、イエローなら「頑張れ」と根拠のない言葉を吐くだろうし、グリーンなら何か良い作戦でも考えたかもな。桃ちゃんなら、きっと黙って隣で支えてくれたと思う。
「イエローさんなら『頑張れ』、グリーンさんなら『良い作戦考えます』、ピンクさんは『支えます』とか言うんでしょうね」
「…………」
正解過ぎて気持ち悪かった。
「何ですか、その顔は?」
「いや、以外で……」
「……私は無能な生徒会長だったかもしれませんが、見てましたよ。あなたたちのことは……弱かったですけど……」
「あ?」
「それでも、羨ましかった。私たちの学年にはない支え合う人たちでしたから……」
「そんな風に思ってたのか?」
思ってもいなかったな。
「要らないかもしれませんが、今度は私が支えますわ」
「…………」
「妹さん、絶対に救いたいんでしょ」
「…………」
鳳凰院先輩の癖に……
「生意気な口を聞くな」
「何ですって……私はあなたを心配して……」
「ありがとう……アゲハ」
「!」
鳳凰院先輩はハトが豆鉄砲でも食らった顔をした後、真っ赤になってそっぽを向いた。
「どうしたんだ?」
「……あなたは、本当に狡い人です。不意打ち何て」
不意打ちか……そうかもな。でも、あんたの不意打ちで決心がついたんだ。
勝てない戦いだったとしても、精一杯やってみよう。俺は偽物だろうとヒーローだ。誰かのためにこの命を賭けよう。それだけの価値があの子にはあるから……俺のたった1人の家族なんだ。
「俺行くよ」
「どこにですか?」
「家に帰る」
そう言って、俺は家まで駆けだした。
今頃、血相変えて美涼が俺を逃がそうとしているのだろう。俺が三ツ星だともしらないで……
「決心はつきましたか?」
廊下に出ると、21がいた。
「ああ、ついたぞ」
「どうされるんです?」
「決まってるだろ。龍王をぶっ倒す」
「は? 何を言って」
「俺、急いでるんだ。またな」
そう言って、21の前を素通りする。
やつは間抜けな面で……まあ顔は分からないんだけど、きっとそんな顔をしていた。
静かだった。
非難勧告を出したために、街には誰もいない。
夕刻を告げる沈む太陽を見ながら、仮面を外して家に帰る。
「ただいま」
「ヒロ君、どこに行って」
そこには泣き出しそうな顔をした美涼がいた。俺を探していたんだろう。
これから、龍が街を襲い、避難勧告も出ているのに連絡もつかなくなっている俺を、美涼は俺がヒーローなことも、悪の組織の人間であることもしらない。
家族なのに、もっとも大事な人なのに何も知らせないせいで、泣きそうな顔をさせてしまった。まあ、もっとも知っていたとしても泣かせることになるだろう。どちらにしても俺の職業はいつ死ぬか分からない。
三ツ星でも、フェイカーでもなく、青田泰裕として彼女と向かい合う。そして告げた。
「避難勧告が出たんだよ。逃げよう。ヒロ君」
俺は首を振った。
「俺は逃げない」
「何を馬鹿なことを言ってるの……ヒロ君は知らないだろうけど、龍が来るんだよ」
「知ってるさ」
「え?」
それはどっちの意味での驚きなのだろうか、俺は間髪入れずに彼女を強く抱きしめていた。
「ど、ど、ど、どうしたの?」
明らかに狼狽えている美涼。それでも強く抱きしめた。彼女が俺は拒絶しなかったから、折れそうなほど華奢な彼女の身体は、凄く柔らかかった。
「ずっと、黙っていたけど俺はヒーローなんだ」
「ヒーロー?」
「俺が三ツ星だ」
「嘘? ヒロ君が三ツ星さん?」
「だから、俺は逃げないよ。この街を救う責任が俺にはあるから、俺は逃げない」
女々しいかな、覚悟を決めるためにこんな告白をしている。
「駄目だよ。逃げよう。ヒロ君がいなかったら私……また、1人ぼっちに……」
それは俺も一緒だ。この子がいなかったら俺もまた1人ぼっちに……否、違うか、今は大事なものが、いっぱいは無くてもいくつか持っている。
それでも、もっとも失いたくないものは変わらないから、だから……雷が轟いた。
変身される前の不意打ち。
こうでもしなかったら、彼女は油断しなかっただろう。意識を失った美涼にそっと告げる。
「きっと、俺は死なないさ」
それは強がりだ。そんなことは分かっている。
「ヤス」
そう言って、家に入ってきたのは銀子さんだった。
スーツも着てないので荒い息をしているのが分かる。
「お前……」
意識を失っている美涼をお姫様抱っこしている俺を見て、銀子さんはそう呟いたが、先手必勝だ。
「美涼を頼みます」
何かされる前に、美涼を投げ渡した。それを銀子さんがキャッチする。
黒色魔法少女から守ってください。2人も相手に出来ないので……
「話は全部聞いてる。それだけで良いのか? ローリーはどういうつもりか知らんが、龍と共闘してやるぞ」
「ありがとうございます。でも、一番大事な人を一番信頼できる人に預けたいんです」
「……覚悟出来てるみたいだな」
「ええ」
「良い顔になったな。お前……」
「余が育てたからな」
そこには、銀子さんと魔王と言う2人の師匠が揃っていた。
「師匠……」
「余が共闘してやろうか?」
「駄目です」
「何がだ? 」
「守ってやるって蘭と約束したんです。だから、来ないでください」
「あくまで1人でやるのか?」
「いいえ、黒色魔法少女のことは頼みました。そこまで手に負えません」
「……分かった。だがな」
魔王が俺の手を握る。
「余の魔力をお前に分けてやる。1度ずつだがソウルセイバーとトールハンマーの威力が上がるだろう」
「……ありがとうございます。師匠」
「うむ。勝って未来を掴め。お前は英雄王の次に才能があった弟子だ」
背を向ける、もう思い残すことは無い。
「蹴りを付けようぜ。龍山青王」
その名を聞いた時から、これは宿命だったのだろう。
大嫌いなその血であるが、俺のルーツに他ならない。その血が招いた結果だというのなら、分家の俺にも責任がある。
外に出て、温泉の採掘場で待っていた。日が沈み夜の訪れを告げようとしたとき、それは起きた。
空がひび割れて、そこから1人の魔法少女が卵を抱えて出てきていた。
中でやられてくれていたら良かったのに、そう思うが世の中そうそう上手くいかない。
もう片方の手には、杖が握られ光の姿はない。中にいると言うことだろうか?
ここでまた不利な条件が増えた。あの何があるかわからない、次元の狭間と言える場所に入って、光を探さないといけない。
それも……あれと戦いながら……
つんざく様な轟音とともに、それは現れた。
黒と白の二色のストライプ。どこまでも大きく、どこまでも壮大なその姿は、見たものを恐怖の底に叩き落すだろう。
そんな怪物が、今大きく口をあけて出てこようとしていた。
黒色魔法少女が俺の隣を素通りして、消えていく。
彼女は不思議そうに俺を見ていたが、満身創痍の様子で何もしてこなかった。好都合である。
俺は目の前の相手に集中できる。さあ、来いよ。龍王!
俺がそう言って、頭上の龍を見ているとき、ベルトは龍王に呼応するように、静かに、それでも確実に脈動を開始していた。
*
「ベルトの真の力が目覚めるのか、それとも……他のミラクルを起こすのか? ここだよヤス君、君がトップヒーローになれるとしたらここで殻を破るしかない」
ローリーはその様子を静かに見守っていた。




