第38話:魔法少女はそうして生まれて来た
「2人の王の物語……」
そう聞いて、俺は考えた。
2人目の王は誰なのかと……
「もっとも残虐非道で、もっとも忌み嫌われた王をご存知ですか?」
21は質問する。
「魔王ですわ」
それに対して、鳳凰院先輩が一番に返事した。
その子孫がいるのに、良く言えるものである。正解でも空気読め。
しかし、意外な答えが返ってくる。
「違います」
「え?」
そう、21から返ってきたのは否定の言葉だったのだ。
それなら誰がもっとも残虐非道な王なのだろうか?
一般的な歴史解釈で言えば、選民を行い虐殺の限りを尽くした魔王である。それよりも酷い王がいたというのか……
俺は1人の王の名前を思い付く。
「海賊王だな」
海の屑どもと言われた、品性のかけらもない集団である。
「ふっ」
「!」
鼻で笑われたぞ。
「あなたにはがっかりです。的外れも良い所ですよ」
仮面を被っていて良かった。涙が地面に零れ落ちないもの。……泣いてないけど、真っ赤になって拳を握った。
「誰も分かりませんか?」
「…………」
誰も答えない。
「では、そこの魔法少女」
誰も答えないので、21がうちの美涼を指名する。
「えっ、え? 私?」
美鈴は気まずそうにしていて答えない。答えを知っているのに答えないと言う様子だ。
魔王が俺の方を何故か、申し訳なさそうな顔をしながら見て、代わりに口を開いた。
「龍山青王だろ」
「正解です」
龍山青王だと!?
「あっ」
鳳凰院先輩がそんな声を漏らして、俺の方を見ている。
それもそのはずだろう。龍山青王と言えば、何を隠そう俺のご先祖様である。
「あらゆる犯罪行為をやりつくした男、己が欲望のために非道の限りを尽くし、あるときは聖女欲しさに国を滅ぼし、まだ幼かった聖女を孕ませたと言う話は、あまりに有名。ロリコンの風上にもおけないやつですよ」
おい止めろ。俺に恨みでもあるのか?
俺を見る女性陣の目が鋭くなるじゃないか、俺は何もしてないけど……
「とんでもないやつだな」
新次郎がそう返した。こいつは俺の祖全だとはしらないようであるが、知られた時が恐ろしい。
「絶倫であることを自慢する男で、妻は24人いたとか」
止めろって……俺には関係ないけど。
「男もいけたとか」
おい止めろって……俺への風評被害を止めて。鳳凰院先輩とか俺から距離取ってるから、挽回しようがない、祖先の悪口で、どうしてほとんど血が繋がっていない、俺が被害をうけないといけないんだ。
正体がばれるから、こいつを黙らせられない。
歴史の偉人何て、細かいあらを探したらいくらでも出てくる。
聖人君子な偉人などいない。どこか狂っていて人とは違うから、歴史に爪痕を残すのだ。
「ただ、彼も良いことをしました」
「え?」
「龍山青王は、多くの戦争孤児を引き受け育てた。自分の戦場だけではない、他人の戦場で生まれた、戦争で国を失った移民たちもまるごと飲み込み、国を大きくした。彼は自分の民にだけは優しかった。その人数はあまりにも多かった。当時、もっとも大きな帝国を築いたのは彼だ」
だがその結果、今だに、過去の先祖を称える馬鹿な一族が残った。うちの本家は、未だに祖先の霊を祀っている。
俺の大嫌いな一族だ。俺も父も本家には何年も顔を見せていない。
「当時の龍山青王の勢いはあまりにも強く、一時的には魔王すらも凌駕した」
「いかれた男だったが、確かにカリスマだったよ。父に最後まで決して降伏しなかった。やつのために身体を張る人間が何人もいた。それだけ、人を惹きつけた」
まるで、見て来たように魔王は語る。
実際にあったこともあるのだろうか?
「龍山青王、彼は唯一龍を従えられる人間だった。本来、人には決して慣れないという龍を従え、何人もの人間を龍に食わした。巨人王すらも龍には手も足も出なかったほどです。その力を欲した魔法使いは、ドラゴンという存在を生み出しましたという逸話もありますが……」
「あまりにも龍とは実力がかけ離れていた。失敗作でしかないと父は良く嘆いていたよ」
2人だけの会話が展開される中で、始めてローリー博士が口を開いた。
「その結果、魔王は悪魔の力に手を染めることになったんでしょ?」
「……そうだ。父の研究は上手くいかず、そして……」
魔王はそれ以上語らなかったが、代わりに21は口を開いた。
「魔法少女が生まれた」
「!」
「もちろん、魔法少女1人では龍には勝てなかったが、だが、10人もいれば龍に勝てるだけの力があった。何の訓練もしていない少女の犠牲で、龍という当時の最強生物を倒せるなら、コスパが良かった。ふざけた話です」
確かにそうだ。だけど……ちょっとまてよ?
「かつて最強と言われた龍山青王は魔法少女の存在によって、国を滅ぼされた。彼の一族にとっては宿敵にような存在ですね。そして、魔王の世界征服が始まる。これが2人の王の物語」
「…………?」
この話って、壮絶だけど本編とは何も関係しないのでは?
「そんな昔話をして何になる?」
「知りませんか?」
魔王の言葉に、21はそう返す。
「魔法少女は龍を殺すために生まれた。それゆえに魔法少女は龍を殺すと進化する」
「進化?」
「そうです。生き物には生まれた意味があり、それを達成すると奇跡が起こる。それは魔法少女を完全なる1つの存在として昇華するほどにね。君も見ただろう龍を? 彼女は奇跡をおこしに行ったんですよ」
俺は、異空間から出てきた龍の姿を確かに見た。
「もっともあれに勝てる人間はいませんがね。あれは特別な龍だ。彼女の狙いは龍の卵だ。卵を手に入れ、強い魔力をもった人間を人柱として生贄に捧げれば、同等の奇跡が起きる」
あまりにも大きな話、でも嘘とも思えなかった。
「後、1時間もせずに彼女は帰ってくるでしょう。そしたらあれも怒り狂って出てくるでしょうね?」
「あれ?」
「卵を取られて怒り狂った龍ですよ」
「!」
俺は最悪な事態を想像した。
「鳳凰院、今すぐに街全体に避難命令を出せ」
「分かりましたわ」
鳳凰院先輩が駆け出していく。
「お前の情報とはこれか?」
「まさか……これだけで罪が許されるとは思っていませんよ」
そう言って、21が意味深な顔をした。
「彼女は杖を持っていたでしょ。あれは異次元を繋げる魔王の杖です」
「異次元だと?」
「そう、最強の龍を封印するために魔王が作った最終兵器です。温泉の力を使って半永久的に龍王を封印していた」
「温泉?」
それを聞いて、俺は最悪な想像をしてしまった。
「強い魔力を半永久的に供給しないと龍王は封じ込められない。そのためには温泉が必要です」
そうなったら、魔法少女を温泉で救うことが出来なくなるじゃないか?
「ですが、あの杖を起動させるには正しい術式が必要です。私がその助けをしましょう」
「温泉はどうなる? 使えるのか?」
「使えるわけないでしょ」
「…………」
俺は、美涼の方を見た。何もしらない美涼は首をかしげている。
もしも、美涼を救うとしたらヒーロー本部の温泉を使うしかないが、一般人にかいほうされることは100%ないだろう。だったらどうする?
「例えば……」
21は俺の方まで来て小声で囁いた。
「魔王は、生きている間、その強い魔力で封印を維持してきました。1人では無理でも、あなたと私ならその代りが出来るかもしれない」
「…………」
こいつ?
「良い提案でしょう」
そう言って、21は微笑んだ。




