第37話:司法取引
「はあ、疲れた」
病院に、花音や悪の組織のやつらを連れて行って、ようやく解放された。
マリとウイは大人しかったが、狼男をはじめとした化け物どもは、大暴れしたので、残ったほんの僅かな魔力で電気ショックをお見舞いして黙らせたのだ。
そうしたら、病院の院長に院内で何すると言われ説教された。ガキの頃から知っているジジイなので、頭が上がらん。
あっちもヒーロー本部の息のかかった病院のため、仮面を被っていても、俺の正体は分かっている。実の孫でも叱るように好き放題言ってくれた。
「こっぴどくやられたな」
隣で、新次郎が涼しい顔をしている。こいつは怒られなかったからな。
「俺の周りには昔からあんなやつらばっかりだ。立場が変わっても、いつも通り、俺のことを叱ってくれる」
言葉を選びながら続ける。
「イエスマンはいらない。俺に不満があれば言えば良いし、俺も不満があったら容赦なく言う。これかもよろしくな」
「…………」
黙っていた。
「何だよ」
「もっとプライドが高いやつかと思ってた」
「俺がか?」
「トップヒーローの息子で、ドラ息子だって噂だぞ」
そんな噂もあるのか……
「俺は親父とは違う、慈悲深く人をいたわる気持ちをもっている。公平で謙虚で優しい」
そう言って話していると、生徒会室の前まで着いていた。
俺は何も疑うことなく、その扉をあける。
「おかえり三ツ星君」
「おかえりなさい、三ツ星君」
「!」
俺の思考は停止した。
「このお茶美味しいね」
「お褒めいただき光栄です。マイエンジェル」
21がいた、俺の茶葉と俺の食器で、当然のようにお茶を淹れて、ローリー博士に振る舞っている。お茶くみは俺の仕事のはずなのに……ゴキブリ以下の害虫が。殺す。
「トール……」
右手に魔力を込めた。魔力が足りないはずだがそんなの関係ない。
魔力は俺に答えたようで、雷が右手でスパークした。
「止めろ。何、しようとしてるんだ」
「離せ」
「慈悲の心はどうした」
「そんなもの捨てたわ」
後ろから、新次郎に羽交い絞めにされる。
何しやがる。あいつ殺せないじゃないか。
「三ツ星さん、落ち着いてください」
見ると、魔法少女姿の美涼がいた。
「これが落ち着いてられるか、あいつは敵だぞ。今すぐ排除しないといけない」
「寝返ったんです」
「……寝返った?」
俺は美涼の言葉にそう返した。
寝返ったなんて言葉、そのまま信じられない。俺は目の前のコイツのせいで力が碌に使えなくなって、負けそうになったんだ。
「嘘に決まってんだろ。そいつは人に従う人間じゃない」
目を見れば分かる。目の前のこいつは誰にも属するような人間ではないのだ。ぬらりくらりと居場所を変えて、有利な方につく誰かのために何かするやつじゃない。
「血の気の多い人ですね。マイエンジェル」
「三ツ星君は、いつもああだよ」
てか、さっきからローリー博士のこと『マイエンジェル』とか呼んでるぞ。どういうことだ。
「説明してあげて、君が寝返った理由を」
俺が興奮気味に話していると、ローリー博士がそう切り出した。
「仕方ないですね、まあ、一言で言えば愛ゆえですね」
「愛!?」
後ろで、新次郎が1番驚いていた。
「一目ぼれでした。あどけなさの残る完璧な容姿、妖精のような麗しく御姿。まさに、私の理想、私のエンジェルです」
「だってさ」
「は?」
まだ頭が追い付いてない。何か、こいつはローリー博士に惚れたから、寝返ったのか……
「新次郎、話してくれ」
俺は冷静さを取り戻して、新次郎にそう懇願する。
そうすると、新次郎は暴れなくなった俺の身体を離した。
「三ツ星さん?」
心配そうに、美涼が覗き込んでいる。
「……やっぱり死ね」
俺は残った魔力を全て込めてソウルセイバーを撃ち込みに走った。
「落ち着け、馬鹿」
そうすると、後ろから頭をぶったたかれる。
「誰だ」
「私だ」
そこには蘭がいた。正確にはこの雰囲気から魔王化しているようである。
生徒会室に、鳳凰院先輩と一緒に戻ってきたようだ。
「そいつは敵の幹部だ。色々と知っているし、全て話すと言っているぞ。それでも、お前はそいつをここで殺すことの方が大事なのか……」
「はい」
「即答するな」
仮面越しにデコピンされる。
だって、仕方ないじゃないか、うちのローリー博士の前にたかる汚い蠅はここで排除しておかないといけない。
「連れ去られた、光さんのことも分かるかもしれませんわよ」
「…………」
すっかり忘れていた。光のやつは連れ去られたのだ。
鳳凰院先輩にしてはまともなことを言う。
「敵の真意を聞くことは大事なことだと思うぞ」
新次郎も続ける。
「ここは冷静になってください」
そして、美涼にまで頭を冷やせと言われる。
俺はローリー博士の方を見た。
「ここは話を聞くのが得策だよ。それに、全部話してくれるんだよね」
「はい」
悔しさに、拳を握った。
何故、こんなに悔しいのか分からない。もやもやする。
「そんなもの、マリやウイに聞いても……」
「あの2人は知りませんよ。あの可憐な少女は仲間も信じてはいませんからね」
「じゃあ、お前も知らないのが道理だろ」
「極められたストーカーは何でも知っている」
決め顔でキモイこと言ったぞ。やっぱり社会のために殺した方が良いんじゃないだろうか?
「ただで教えてくれるのか?」
「まさか、タダとは言いませんよ。ヒーロー三ツ星、あなたと司法取引したい」
「司法取引だ?」
「ええ、ここではあなたが一番権力を持っていて、それが出来るはずだ」
「……お前の罪を許せとでも?」
「まさか……マリとウイ、君の倒した2人の罪の許していただきたい」
「何?」
雰囲気が変わった瞬間だった。
何より、俺も話を聞きたくなった。
「あなたも知っているでしょ。あの2人は死刑しか待っていないことを……」
「…………」
やつの言う通りだ。悪の組織の人間は掴まえたところで死刑のことが多い。サタンも死刑宣告されたと聞いている。
掴まえたところで、所詮死刑なら殺す方が良いと思っているヒーローも少なからずいるほどだ。俺は賛同できないが……どんなやつでも、その判断は法ですべきだと思う。
「あの2人を救えるだけの、ネタを提供できるのか?」
「ええ、もちろん」
俺は迷った。
何を?
立場が変わったことだ。俺は今追いつけられている。
俺の権限で、あの2人を救えるだけの方策があるのだろうか?
俺は所詮、スターズという名ばかりの存在なのだ。それでも……
「約束する。あの2人の罪を減刑する。死刑にはさせない」
「その言葉に嘘はないですね」
「誓うよ」
「……私は男は嫌いなのですが……特に君のようなヒーローはね。ただ、君とは仲良くできそうですよ。私もあなたも仮面をつけてますしね」
変態21はそう言って、笑った。同族扱いは止めて欲しい。
「お茶を飲みながら、話しましょう」
そういって、21は全員に目配せすると、座るように促し、熱いお茶を提供する。
そして、語り部は静かに彼は真実を語った。
「あれは、魔王の時代……これは2人の王の物語」




