第35話:ヒーローの鉄拳(後編)
「そんな……そんな馬鹿なことがあるか、今のお前たちは10分の1の力しか出せないはずだ」
マリが叫んでいる。
片桐のクロスセイバーをくらって、立ってくるのだから弱体化は十分だろう。万全だったら死んでいる。
「トップヒーローになろうっていう俺たちに、10分の1程度で勝てるわけないだろ」
片桐が何か言っている。
トップヒーローとは大きく出たものである。かつての停滞していた片桐からは出てこなかったであろう言葉である。
「……閃光・片桐新次郎、銀鏡・水島花音、これだけの人材が集まっているとはな」
そう言って、俺の方を見ていた。
「君みたいな無名のヒーローの元にね」
「うるせえ。誰が無名だ」
俺だって、七つの大罪を倒して、それなりに名を売ってるはずだ。二つ名がないのは、フェイスじゃないからなだけで、三ツ星ってヒーローネームももらっている。グッズ展開はされてないけど……
「君は持っている側の人間だ。そして、私はやっぱり持っていないな……ウイ」
そう言うと、ウイがマリの後ろから現れる。
「マリ」
「知っているかい、魔法少女の眷属はその身別の眷属にを捧げることで……新たな力が目覚める」
ウイのその頬に涙がつたっている。それが意味するところとは?
何か不穏な空気が流れている。何かが起きる、その前に終わらせないといけない。そのために、銃を構えた。
「うっ」
小さな嗚咽が漏れた。
マリの身体をウイが鎖で串刺しにした。それだけでない、鎖が倒れて動けない化け物たちに刺さっていく。
「羅刹転生」
そうウイが呟くと、鎖が化け物どもを引き寄せウイに集まっていく。眩いほどの閃光とともに、それは現れた。
今までのどの存在とも明らかに違う変化だった。どんなゲテモノが出てくるのかと思ったが、それとも違う。光輪の輪に光の羽。あれは……
「天使だ」
そう呟いたのは、花音だった。
そうその姿は天使と形容して良い姿だった。禍々しいものを一切感じない。
「来るぞ、三ツ星」
そう言って、片桐が指示を出す。
惚けていた自分に気付き、ウイを見ると手をこちらに向けていた。その手には光が集まり、そして閃光が放たれる。
それに対して花音が反応して鏡を展開した。しかし、その鏡は音もなく破られる。割ったと言うよりは消し飛んだというのが正しいか?
あまりにも強く凶悪な一撃。花音が受け止めきれずに吹っ飛んでいくのを片桐が受け止めた。
「その程度ですか?」
煽る言葉には似つかわしくない凛とした声が響いた。
威圧され、身体が動かなかった。
「おい」
片桐の声が響いた。しかし、身体が動かない。10分の1の力では目の前の化け物を受け止められないからか?2発目がくるのが分かったが、どうしようもなかった。
光の閃光が放たれる。
「この馬鹿が」
片桐が光の閃光の間に割って入る。無理だと頭で悟った。あの一撃を受け止めることなんてできない。万全の状態ならまだしも、俺も片桐も弱体化されているのだ。受けられるわけがない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
しかし、そこにはその一撃を切り裂いた。片桐が立っていた。何故だ?うん?あれは?
「何をしている?戦え」
「……身体が動かない」
「何を馬鹿言ってる。ビビってるのか?」
「違う、本当に身体が動かないんだ。敵の能力だよ。糞やられた」
俺は片桐の肩につけられた刻印に魔力を込めて触れるとそれが消える。
魔法使いと離れた魔法は、基本的に脆く弱い。
「身体が軽くなった?」
片桐のものは俺のとは違う。徐々に力を奪うように作られていたのだろう。俺のとはさらに数も違う。
俺の方も変身を解除する。俺には身体の隅々に趣味の悪い刻印が刻まれていた。そう、ご丁寧に俺だけ身体中だ。変身したせいで身体のあちこちにある刻印が見えなかった。透視などの能力もあるが、あれを戦闘中にわざわざ自分に使う理由はないので使っていなかった。
片桐も遠く離れているせいで分からなかった。
近くにいた花音はそもそもこの刻印にやられていないせいで分からなかった。
あいつ……いつの間にこんなものつけやがったんだ。
怒りに打ち震えていると、閃光が再び飛んできた。それを魔法剣で切り裂く。
片桐の服が閃光ではだけなければ、きっと気づかなかっただろう。
「弱体化されてなかったら、こんなものか?」
「何?」
嘘だ。力が戻ったとはいえスーツを脱いだ今、勝てる相手か分からない。限界を超えて使ったために、修理しなければスーツを着ることはもう出来ない。だけど、勝つ。
「やれそうか?」
ボロボロの片桐がそう聞いてくる。
「当たり前だ。お前は休んでろよ新次郎」
「!……いきなり、名前で呼ぶな」
花音もそうだけど、厳しくないか?俺達もう仲間だろう。
「あの雑魚は俺が蹴散らす」
その言葉は虚せいかもしれない。でも、後ろに仲間がいて逃げることも、負けることも俺には許されない。もう2度と……あんな思いはしたくないから。
「借りるぞ、お前の剣」
そう言って、再び俺は剣を取った。
魔剣の力が俺の中に流れてくる。
「行くぞ」
その言葉とともに、敵に突っ込んでいく。
敵は俺が来れないように、無数の閃光を叩きつけるが、良く見たシチュエーションである。
『明鏡止水・蛟』
魔剣に魔力を流し、本来切れることのない閃光を切り裂き方向を変える。
「その程度か?」
「そんな訳ないでしょ。マリの命を犠牲にしてるのよ」
光は形を変え、槍へと変化する。
「私たちはもう誰からも奪われない。そう、誰にも奪わせない」
「でも、他人からは奪うんだろ」
怯えた瞳で放たれる攻撃に意味はない。銃だって、ちゃんと狙わなければ案外当たらないのと一緒だ。俺がもっとやばい死線をくぐってきなら余計だ・
「何故当たらない……くっ」
クロスレンジに入って剣で切りかかると、空に向かって飛んだ。その羽は飾りではなかったのだろう。計算通りだ。
「糞、これなら避けられないだろ」
光は大きなハンマーへとその姿を変える。片桐と違って剣いがいにその姿を自由に変わる。そしてその威力はソウルセイバーでは届かない。そう感じて、俺は魔剣を地面に突き刺して吹き飛ばされないように準備する。そして、拳に魔力を込めた。ハンマーにはハンマーだ。
「必殺」
拳に纏った魔力がスパークして、その力をためていく。地上を焼いてしまうから、上にしか撃てない。俺の新たな必殺技。
だから、わざわざ近づいて上に逃げてもらう必要があった。
振り下ろされたハンマー。
それに真っすぐ拳が触れる。雷は閃光を飲み込みハンマーを貫通した。
『トール・ハンマー』
その雷は光などかき消し、天まで上っていく。破壊と再生、相反する2つの性質をもった俺だけの必殺技。不合理で破たんしていて矛盾している救済の鉄拳である。




