第34話:ヒーローの鉄拳(中編)
「さあ、花音あいつを叩き落せ」
そう言って、俺は花音に指示をだした。
「出来ないわよ」
花音は真っ向から否定して見せる。
そんなものやってみないと分からないだろ。
「かっこつけてたくせに私だよりなわけ」
「仕方ないだろ、俺は弱体化されていて身体が動かないんだ。それに俺お前なら出来ると思うんだよね。だって、フェイスの水島花音と言ったら………俺、お前のこと碌に知らないわ」
「笑ってんじゃないわよ。来るわよ」
再び、ドラゴンが大きくを息を吸い込んだ。たったそれだけで放たれる必殺の一撃。ブレスだ。
花音が能力を発動する。
スキル:八咫鏡である。ただの反射能力であるが、その強力な能力には特別な称号があたえられている。通常の反射能力は光だったり、衝撃だったりと特定の物しか反射できないが、彼女の反射能力は違う。ほぼ全ての事象を跳ね返す。
「その程度か?」
「厄介だね」
「……跳ね返したのは私よ、わ・た・し、何であんたが偉そうなのよ」
いちいちうるさい女である。
まあ……こっちの行儀の悪い女よりもいいか。
「きゃっ」
そんな悲鳴を上げた花音にはウイの鎖が迫っていた。俺はそれを魔法剣で叩き切る。
どうやら、魔力も弱体化されたようである。魔法剣を作るのにも凄く時間がかかった。
スーツのリミッターも解除したし、数分なら戦えるだろう。このスーツには、本当に苦労をかける。
「相手を変えるぞ。あのマリとか言う女と、俺の相性はあまりよくない。お前があいてしろ」
「お前は鎖女とやるのか?」
「いや、その相手もお前がやれ」
「お前は何をやるんだ?」
「後ろで指示をだしてやる」
「……ふざけるな」
「最後まで聞け、俺が後衛でお前が前衛をやれと言ってるんだ。良いか、俺のこと嫌いなのは分かってる。でも、今は俺を少しは信じろ。コンビネーションというのは信じる所か始まるんだ。それに、この危機を打破できるヒーローはお前しかいないんだ。お前が皆を助けろ、花音」
花音は悩んだ表情をしたが、彼女もプロである。
「どうすれば良い?」
最終的にはそう答えた。
「良いか…………」
俺は花音に作戦を説明する。彼女は目を丸くしたが、黙ってうなずいた。やはりプロだな。
「おい、あれ」
しかし、話し終わった後、そう言って、花音が空を指す。敵も大人しく待っていてくれたわけではないようだ。
空には、ドラゴン以外のもっと得体のしれないか怪物が飛んでいる。その獣は暴れ回っているが、ウイがその身体に鎖を差し込んで、その獣を制御したようだ。もともとそういう能力なのだろう。
……やばいかもしれない。尋常じゃない魔力を持つマリが荒い息を漏らしながら、召喚した獣。それはドラゴンとは全く別種だ。あんなものまで出てくるのか?
空にはグリフォンが飛んでいた。ドラゴンとは違う、グリフォンは風の魔力を纏っている……でも、でも、やるしかない。
「作戦開始だ」
そう言って、おれは地面に向かってソウルセイバーを撃ち込んだ。魔法剣が地面を上空に巻き上げて消失する。剣を使うことはもうこの戦闘ではないので、惜しむ必要はない。
代わりに2丁拳銃を抜く。
「そんな古典戦法の目くらましに何の意味があると?」
そう言って、ウイは鎖でグリフォンを操る。そのエメラルドに輝く翼がはためくと突風が起きた。
それは簡単に土煙を吹き飛ばす……本来ならな。
「それはどうかな」
そう言える確信があった。風する花音の反射によって、その方向を変える。
「やっかいな能力だよ」
そう言って、花音の資格から再び鎖が伸びるが……2丁拳銃が火を噴いた。
鎖を叩き落す。我ながら外す気がしないな。
「何なんだあれは?」
「落ち着け、やつらに有効な攻撃手段はない」
イラつく、ウイにマリがそう答えるが、うちの花音はそんな甘いヒーローではないぞ。
すでに手で銃を撃つポーズをとっていた。
「バン」
そう花音が言うと、3つ首のドラゴンの顔が一つ吹っ飛ぶ。
フェイスは単体でも戦うことが多いフェイスに、反射能力だけでなれるわけないだろ。フェイスに相応しい実力を持っている。遠距離からの衝撃波による狙撃能力。威力は見ての通りである。
首が1つ吹き飛んだ苦痛で地面に落ちていくドラゴン、その背に乗っていたマリに向けて、俺はためらいなく引き金を引いた。
一瞬で撃ち込んだ数十発の銃弾は、花音の反射スキルでその方向を自在に変える。俺の指示で、空間には既に反射用の八咫鏡が出来上がっている。土煙はその方向を悟らせないためでもある。
銃弾は何度も反射され、結果的にマリを四方八方から囲む形で跳弾する。
その銃弾から、ドラゴンが覆いかぶさるようにマリを守っていた。しかし、ドラゴンはもう動けないだろう。
完璧だ。俺ではなく花音の仕事をほめたたえる。完璧な位置だった。あの2人とは違う、口は悪いが仕事はきっちりやり切るタイプである。
ここまで指示通りなら、俺も寸分たがわず射撃ができる。
俺が後衛で、花音が中衛、そして前衛のカードがあれば良いトリオになるだろう。そこに、ローリー博士と鳳凰院先輩、光の補助があれば、Sランクの悪の組織とさえ戦える気がした。
「マリ」
そう言って、伸びる鎖を2丁拳銃で叩き落す。
「どうして、こんな小さな鎖を寸分たがわず射撃できる」
「バン」
「くっ」
グリフォンが、花音の射撃を躱す。射撃が下手なのは玉に瑕である。俺なら相手の回避ルートまで予想して当てるのだが……
「ああ、糞どもが」
そんなことを思っているとマリが立ち上がった。
「ウイ、解放する」
「え?でも……」
解放?
やはり、何かあるのか?
サタンの力を受けた七つの大罪のメンバーはその姿を変えていた。純粋な魔法少女の力を与えられたであろうこの2人ももしかしたらと思っていたが……
「羅刹転生」
そう言うと、マリは思い切り自分の手を噛んだ。その手からはドクドクと血が流れ、それと同時に魔力が高まっていく。
何だアレは、七つの大罪とは違う、爛々と燃える両眼に、頭から生えた2本の角。これは、鬼だ。それも、サタンが可愛く見えるレベルの相手だ。
「バン」
そう言って、花音がスキルを発動させた。
ヒーローの風上にも置けないやつである、変身中の相手にも容赦ない。だが、ドラゴンの頭を吹き飛ばした、。花音の衝撃波は、マリの身体に通らない。
「ウイ、鬱陶しい土煙をいい加減飛ばしなさい」
「でも……」
「やれ」
そう有無を言わさず、呟くとグリフォンは再度羽ばたいた。
それに対して、花音が八咫鏡を展開するが……
「それがどうしたの?」
パリンという割れる音が響いた。反射の盾を素手で砕いたのだ。
そのせいで風が土煙を飛ばしていく。それと同時に、鬼に代わったマリは花音の方に向かって進んでいく。
「…………」
「何だと?」
敵は驚きの声を漏らした。そう敵だ。
「吠え面書きやがれ」
「クロスセイバー」
鬼の身体は宙に舞い、吹き飛んでいく。花音の傍には既に片桐が来ていた。
そして、土煙の晴れた先では、無数の怪物たちが横たえていたる。切っても切っても再生する化け物たちだったが、身体自体が雷に打たれて動けないのなら、どれだけ再生しても意味はないだろう。
最初からそうだった。狙っていたのはウイとマリだけではなく、最初から片桐を助けていると悟らせないようにことを進めていた。もともとこの戦いは相性が悪い相手と戦わされていたのだ。それなら相性の良い相手とぶつければ良い。
「マリ……それなら、あいつは、あいつは何処にいる?」
ウイが叫んでいる。
そう、俺ももう地上にはいないのだ。敵の想定外の位置に既に移動している。
「上だよ」
そう言って、グリフォンに向けて銃弾を叩き込む。
戦術とは、こういうものだ。相手の想像のはるか先、1手2手と先を行かないといけない。
チーム戦は俺たちの圧勝である。




