第32話:ヒーローVSコレクターズ
「ヒーローだと……我々に手を出す度胸もない集団が笑わせるな」
そう言えば、片桐が言っていたな。コレクターズは本当はSランクだと……Sランクの悪の組織には滅多なことがない限り、ヒーロー本部は手を出さない。余ほど、本部の尊厳が失墜するような敵でない限り、ヒーローは戦うことをしない。
Sランクにはトップヒーローすら負ける可能性があるためだ。スターズの俺やフェイスの片桐さえも替えが効くが、トップヒーローの替えは効かない。トップヒーローは世界の宝なのだ。勝率が90%以上ない限り、ヒーロー本部はわざわざ悪の組織とトップヒーローをぶつけようとしない。
もちろん、ミステイクのような例外もいるが……うちは表沙汰になってはいないが、幾度となくヒーローと戦い、そして打ち破ってきた。ヒーロー本部としては潰したい悪の組織ベスト3に入っているだろう。
だから、Sランクでもフェイカーは普通に狙われる。
「ふっはははははは」
「何が可笑しいんだ?」
「ヒーローも舐められたもんだと思ってな……それも、お前みたいな雑魚に」
「は?」
「虎の威を借りないと威張れない狐が、吠えてんじゃねえぞ」
「黙れ」
1人が先行して飛び出してきた。乗りやすく、なんと扱いやすい相手である。
何より遅い。片桐の剣はなんのバフもなくても、もっと早かった。
「甘いんだよ」
顔を手で摑まえる。アイアンクローである。もっとも、それだけですまないがな。
手に魔力を込める。そうすると魔力は雷に変わった。そのまま相手の身体だけが雷にうたれた。肉の焼ける匂いとともに、その身体は動かなくなる。断末魔の声をあげる間もない。
「…………」
静寂が流れる。だから、狐だと言うんだよ。
「安心しろよ。殺してないから」
俺の起源魔法は、戦闘に向いてないけれど、属性魔法は非常に戦闘に向いていた。魔王にも褒められたものだ。
俺の属性は雷。ただでさえレアな属性魔法の中でも、大当たりだそうだ。
「魔力が雷に変わっただと」
いい感じにビビっている。それもそうだ。こいつらのボスはもういない、所詮、ボスがいなければ雑魚専の烏合の衆だ。
その時である、パチパチと拍手の音が響いた。
「素晴らしい。素晴らしい成長ですよ」
「21」
あれは、変態タキシード野郎。あいつ……
「だが、敵は1人です。囲んで攻撃すれば相手になりませんよ。そうでしょ、マリさん?」
「そうだね。21の言う通り。敵は所詮1人だよ。ウイ」
空気を一瞬で変えた。糞、面倒臭いな。魔法が使えるようになったからわかる。あの2人は別格だ。纏っている魔力が異質でデカイ。この2人が出てきたせいで、ウイと呼ばれた少女以外は高みの見物を決め込んでいる。
流石にSランクと言えば、こういうやつがいるか……俺としてはボスのワンマンを期待したが、思った以上に層が厚い。
俺は2人に向かって動いた。狙うはマリと言われた女の方だ。常に辺りを警戒しているタキシードと違ってこいつは隙だらけだったからだ。眠そうに欠伸までしている。
潰すなら今、思い切り拳を振り下ろす。
入った。そう確信があったが、下腹部に急激な痛みが走った。
身体が宙に浮いている。蹴り上げられたのだ。全く見えなかった。
そのまま2撃目も食らう。コイツ……
ああ、嫌だ。どうして魔法使うやつはこうも肉弾戦が強いかね。
「2撃目には対応されましたか?」
対応されただと、嫌味か何かかな?首をひねってダメージを逃がしただけだ。マスクしていても顔が腫れているのが分かる。これじゃ、正体がばれかねないぞ。
だが、それよりも相手の手品のネタが分からない。何故、俺は蹴られて殴られた。この疑問を解決しないといけない。そうしないと生き残れない。
「ローリー博士!」
そのために、見ていたであろうローリー博士を呼んだ。
「何だい?魔法少女ちゃんが君を助けに行くって聞かないんだよね。行くなって言ってるのに、押さえつける身にもなって欲しいよ」
どうやら、あっちもあっちで大変らしい。
「だから、手短に言うね。君が遅いんだ」
「…………」
その言葉で、相手が何をしているのか分かった。
魔力による肉体強化。魔王は普通にやっていたが、俺は得意じゃない。俺は自分にバフをかける系の魔法は何も取得できなかった。これが相性というやつなのだろう。
「私がいるのも忘れないでくれる」
「しまった」
先ほど、地面に叩き落とされた鎖だ。また巻かれてしまう。こいつの能力だったか?
俺は爛々と片目だけが燃えている少女ウイの顔を見た。笑ってやがる。鎖に雷を流して感電させてやろうと思ったが、鎖には魔力が流れて行かなかった。普通の鎖ではないのだろう。
「ふああ。さっさと終わらせてよ」
「承知です」
眠そうな少女の言葉に21が俺の鳩尾めがけて拳を叩きつける。
「情けないわね」
「待たせた」
「か……片桐つぁん」
片桐が、魔剣で21の攻撃を受け止めていた。一生懸命探してきたかいがあったと言うものだ。これは頼りになるぞ。やっぱりヒーローは遅れて登場するものだ。
「片桐だと?フェイスのか?」
「他に誰がいると言うんだ」
何故か、水島がどや顔で歩み出た。その間に片桐が鎖も切断してくれた。
「そして、私もフェイス、水島花音だ」
「……誰だ?」
可哀想に認知されていなかった。片桐ほど名前が売れてないからな。CMにも出たことないし……
「お前ら、揃いも揃って何のつもりだ。ヒーロー本部がこの戦闘に介入するつもりか?私たちが誰か分かっていないのか?」
「コレクターズだろ」
「知ってたら……」
「関係ない。ただ切るだけだ」
片桐の奴……俺よりも目立っている。
存在感を出していかないと、誰にも認知されていない水島みたいになってしまう。
「私を知らないとはモグリだろ」
何のモグリなんだ?
「それにしても、あの程度のやつらに捕まるとは、情けないぞ」
片桐がそう言って、俺を非難した。
「仕方ないだろ。あいつら、俺にデバフかけやがったんだからな」
ローリー博士の言葉で俺は気づいた。全力でやっているはずなのに、全力が出せていなかったのだ。
「ヒーローの癖に言い訳か?」
「はあああああ」
ムカつくやつだ。
「デバフがかかっているからと言って、この程度の奴も切れないなんてな」
赤い閃光。否、これは血だ。
魔剣があることでさらに強くなった片桐の一撃。それが21を一撃のもとに屠ったのだ。
「は?」
ウイが驚いて目を見開いている。
「へー」
欠伸をしていた少女は初めて表情を変え、真剣な目で片桐を見た。俺には見せなかった表情である。何か悔しい。俺だって、デバフされたなければ、瞬殺してたっての。
「君は強いね」
君は?それってどういう意味だよ。
マリと呼ばれた眠そうな少女は手を挙げると、それを合図に残っていた黒フードたちが、そのフードを取って見せた。
「何あれ、キモ」
その全てが人間ではなかった。人間と何かの動物との合わせ物。狼人間のような化け物が並んでいた。それは魔法少女の眷属になったからとは思えない。
「あれは?」
「私のペットだよ」
水島の質問に、マリが答えた。
あどけない少女のような顔には似つかわしくない狂った表情。
「君たちにどうにか出来る?」
そう言って、マリはその手を片桐に向けた。すると、怪物たちが一斉に片桐に向かって進撃を開始する。
しかし、数だけいても片桐の相手になるわけがない。光の剣が怪物たちを捉え、1人残さずに切り裂いていく。それは全く無駄な行為に見えた。しかし……
「やばいぞ。三ツ星」
「そうだな」
見ていて分かった。片桐が切るのとほぼ同速で、その怪物たちは再生を繰り返していくのだ。全く減る気配がない。あれでは切っても意味がないだろう。
「私は助けに……」
「どこに行く気」
ウイが鎖で、水島を掴まえる。
「ちなみに、君の相手は私だよ」
そう言って、マリは微笑んだ。金色のフワフワした髪の少女はただただ不気味だった。
「私はもう用済みですね」
そんな様子を楽し気に見ている男が1人いた。21である。彼は背中を向け、蘭の元へと向かって歩み始める。その身体に片桐からの傷はもう残っていない。
それもそのはずである。切られるようなへまをする男ではないのだ。
変態タキシードである彼だが、腕だけ見れば泰裕よりも遥か高みにいる魔法使いである。そんな彼の魔法はいまだ継続している。泰裕をはじめ3人のヒーローは21によるデバフをかけられ続けていた。
本来の力のよくて半分の力しか発揮できていない。そんな状況にヒーローは誰も気づいていなかった。完全に術中にはまったのだ。
「さあ、どうするヒーロー?」
それは誰への言葉なのか?少なからず受け取る人間は誰もいない。虚しく響いた声とともに、ヒーローはさらに弱っていく。




