第31話:冥府の門
「おい、しっかりしろ」
光が白目をむいて、エクソシスト状態になっている。なんかぶつぶつ言っていて、怖いんだが……捨てて帰ったら駄目かな?
しかし、一応友達なので、担いでやって地上に戻ることにした。
今の穴掘り機は多機能で凄い。それ一台で穴を掘れるだけでなく、掘った土の除去をその場でしてくれる。地上に転送してくれる機能があるのだ。その機能を使って地上に戻る。
「何だこれ?」
まだ昼だと言うのに空が暗い。
それだけではない、あれは……
「門」
空に大きな門が浮かんでいた。何が起きているか全く分からない。
「!」
背筋に悪寒が走った。いる……何かとんでもないものがあの中にいる。あれは開けてはいけない。そう思って、さっきから光の手から杖を引き抜こうとしているが、手のひらと融合でもしているのか、抜ける気がしない。
仕方ない。俺の新必殺技であの門を破壊するしかないな。そう思って、俺は魔力を拳に集めた。有無を言わせず壊せばいいのだ。だいたいそれで解決する。
ギギギギギギギギギ
そんな時だった。異音が轟いた。門が開いていく。五月蠅くて仕方ない。思わず、耳を覆ってしまった。そのせいで拳に集めた魔力が霧散する。
そして、それは現れた。あれは、巨大な腕だ。
巨大な腕が真っすぐ伸びてくる。それも俺のほうにくるではないか……
「糞、ふざけんなよ」
溜めのでかい新必殺技は撃てない。仕方ないので、マスクを被って変身する。電子音とともに、俺はもとの穴へと退避する。
あのでかい腕では穴の中には入れないだろう。そう考えたためだ。
その考えは間違っていなかった。だが、正解ではなかった。
穴の中に逃げ込むと、腕は門の中に引っ込んだが、今度は口が出て来たのだ。俺はその時、それが何なのか始めて理解した。あれは竜だ。魔法使いの作った魔法実験の失敗作、トカゲ野郎ではない。原初の竜だ。
竜は大きく息を吸い込む。口の中に大きな光源が集まっていく。ブレスだ。そう理解したが、穴の入り口に、スーツの足の部分を変形されて、壁に刺さっている俺にはどうすることもできない。
夜へと変わった街で太陽よりも眩しく放たれた光の光線。それは全てを焼き尽くすかのように、飛んできた。避ける手段はない。
「あは、面白い生き物だ」
俺が見たのは、そういって現れた黒色魔法少女だった。5重の魔法陣が光線の正面に展開され、真正面から光線を受け止めたのだ。地上に犠牲は無い。
助けられた?否、違うだろうな。
穴の中から光と一緒に這い出ると、彼女の背中が見えた。
その横に黒いフードの集団が並んでいる。
「コレクターズ」
「また会ったね。三ツ星君」
魔法少女は笑った。俺はその笑顔をみて確信する。やっぱりうちの美涼の方が魔法少女として可愛いな。そんなどうでも良いことを思っていた。
仕方ないだろ。光は白目向いてるし、でかい竜は出てくるし、それにコレクターズまでもいるんだぞ。こっちは、交代で温泉掘ってるから、ローリー博士どころか、片桐とその他もいない。
マジで死んだかもしれない。
「ヤス君」
弱気になっているそんな時、その声が届いた。
「ローリー博士……」
「マスクの映像で見たから事情は分かっているよ。そっちに片桐君や花音ちゃんが向かっている。君はなんとか生き残るんだよ」
「……ええ」
その言葉に正気に戻る。何をやっているんだ俺は、遠く離れていても俺には仲間がいるじゃないか……背筋を伸ばせ、もっと堂々としろ。場に飲まれるな。
「なんだよ。魔法少女。何かようか?」
「…………」
黒色魔法少女は、少し虚を突かれた顔をした。
「へー、堂々としているね。あの時と違って逃げないんだ」
「逃げる?今は逃げるに理由がないだろ」
黒色魔法少女はクスクスと笑った。
「面白い。面白く育っているみたいだね。魔力の総量もぐんと増えた。君は美味しく育つね」
舐めるような視線を感じる。
「でも、今は君に興味がないんだ。僕が欲しいのはその杖と持ち主なんだ。君じゃない」
そう言うと、身体が後ろに吹っ飛んで行った。
魔法の発動を感じ取ったが防御が間に合わなかった。
器用に光だけを浮かして、俺から引き離された。
「この子も君と一緒で面白い力を持っているね」
最悪だ……同類扱いされた。
俺はそこのヘタレとは違うぞ。失礼なやつだ。しかし、涼しい顔をしているな。普通に会話している様で、先ほどから暴れ回っている竜を、光の鎖で拘束して動けないように縛っている。
喋りながら、これだけの魔法を行使できるとは、魔法を少しでもかじった人間なら分かる。天才だ。それも超がつく天才。化け物め。
「あれはね、冥府の門と言われるもので魔王が作ったものなんだ」
「冥府の門?」
黒色魔法少女が空を見上げて、そう説明する。
「そう、そしてあの門の中には竜が住んでいて、魔王が後世に残さないように封印した古代兵器を守っているんだ」
「古代兵器だと?」
変なもの持ち出すなよ。頼むよ。こっちは温泉を掘りたいだけなんだ。
「お前の目的は、魔女になることだろ?知っているか、ここの温泉に入ったら魔法少女は魔女になれるんだ」
背に腹は代えられない。古代兵器何てヤバいもの持ち出されたら、それこそ手が追えなくなる。
しかし、黒色魔法少女は苦笑した。
「知ってるよ。でも、私みたいな何体もの悪魔と契約した人間は無理なんだ。奇跡の聖水、温泉でも治療は出来ない。悪魔のように強欲だと、手に負えないよね」
「…………」
何も言ってやる言葉がなかった。
「ねえ、ヒーロー、私はもうすぐ死ぬんだ。死を前にすると凄く空虚でね。そうなると、人間とは本当に愚かだ。他人が犠牲になることになにも思わなくなるんだよ。だって、人間って、もともと他の生き物を犠牲にしてきた生き物だろ?それが人に変わっただけ、なれればなんともない」
「本当にそうか?俺はそうだとは思わない。お前の勝手な価値観を俺に押し付けるなよ。誰にものを言ってるんだ?この3下女」
「貴様……」
そう言って、前に出て来た黒のフードを黒色魔法少女が手で制した。
「私は今からあそこに行く。最後の鍵も見つかったし、戻ってきたとき、全ての願いが叶うんだ」
「最後の鍵だと?」
「この子だよ」
そう言って、宙に浮かしている光を引き寄せた。
「強力なスキルで封印されていたこの杖を引き抜いた。最後のカギとなる子だ」
糞、役に立たないどころか、また問題起こしやがった。
「この杖とこの子の力をもって、私は魔王の宝物庫に入る。君たちは、そこのヒーローと魔王の血を手に入れるんだ。私が戻った時、全ての願いが叶う」
「行かせるかよ」
光を連れ去ろうとする黒色魔法少女が宙に浮き、天を目指した。それを追うため、スーツの力で跳躍する。
どうして、連れ去られたヒロインを追いかけるように、光る何て追わないといけないんだ。そんな疑問をいだきながらも、追いかけた。
「行かせないよ」
しかし、足に鎖が巻き付き、地面に叩き落とされる。
「じゃあね。私のために穴掘りご苦労様。最後に教えてあげるよ。その下に温泉何てないんだ」
「何だと?どういう意味だ?」
そう言って、黒色魔法少女は冥府の門の中に竜を押し戻し、ともに消えていく。そして、冥府の門はしまった。追いかける手立てはない。
夜は終わり、俺の魔力感知でも黒色魔法少女を感知でき泣くなった。代わりに感じられるのは、3つの大きな魔力。
黒マントの集団の中には、確かに大きな魔力を感じるのが何人か混じっている。そして、その中の1人が動いた。
「さあ、ボスの生贄になれることに感謝して捕まりなさい。魔法使い」
そう言って、黒マントの1人がフードを取る。きっと可愛い女の子だったのだろう。だが、その姿は、醜く変わっている。顔の半分が変色した皮膚に変わり、目は爛々と燃えていた。その頭には半分かけた角まである。
そんな連中が何人もいるのだろう。
「俺は魔法使いじゃないし、まして贄でもない……」
目を瞑る。どうすればいいのか、俺にはまだ分からない。ただ、目の前の敵の姿には恐怖だけではなく、別の感情が抱いている自分がいる。それは少なからず怒りではない。
「俺はヒーローだ」
本当はヒーローですらない。俺は偽物だ。だからこそ、出来る戦いがあると思うから、だから……今は拳を握った。




