第30話:時は来た!!
「オペレーション・ガイアの全容を説明する」
「ガイアww」
生徒会室に戻って、片桐と水島に今後の作戦を説明することになった矢先、作戦名に対して。水島が反応した。草生やしてやがる。俺は知らないぞ。
「中二病かよ」
「…………」
静まり返る生徒会室。
鳳凰院先輩がだらだらと汗を流している。隣にいるもんな。
「何かおかしいかな?」
「え?」
「何かおかしいかと、聞いているんだよ」
鳳凰院先輩の横で、ローリー博士が水島を威圧している。こわ……何か、オーラーみたいなものが見えるんだけど。
「良く考えたら、素敵な名前だと思うの……」
強者に許しを請うように、水島が呟いた。
「……でしょ。仲良くしようね、花音ちゃん」
「はい……ええと……?」
「ローリーだよ」
「ローリー……」
「うん?」
「……さん」
凄いな。もう上下関係を作ってしまったぞ。こうやるんだというお手本のようだ。だけど、俺にはローリー博士のような相手の心を一発で折るような、威圧感はない。
きっとこういうのをカリスマと言うのだろう。
「じゃあ、話を続けるぞ」
うるさい水島が黙ったので、会話を再開する。
「ここの温泉は、間違いなくヒーロー本部にある秘湯中の秘湯・金盾の湯と同じものだ」
「金盾の湯……ふざけている場合では?」
「金盾の湯は、ありとあらゆる病を治し、この余全ての最悪から人類を救うと言われている。あの金盾の湯か?」
「?」
懲りない、水島が何か言おうとしていたその横で、非常にまじめな顔で、片桐がささやいた。
「片桐、知っているのか?」
「愚問だな。知らないやつはモグリだよ」
「何のモグリなんでしょうか?」
俺の隣で蘭が小声でささやいた。
このモグリが……俺達温泉愛好家の間では常識だぞ。これが魔王人格だったら、新たな温泉愛好家の登場に歓喜したものを。
「俺達、温泉愛好家の中には金盾の湯に入りたいがために、ヒーローを目指したやつも多い」
「ちょっと待て、そんな理由でヒーロー目指したら駄目だろ」
「?」
水島の言葉に、片桐が不思議そうな顔をしている。
俺もどちらの気持ちも良く分かる。
「温泉とは人類の宝である。温泉女王の言葉だ」
「三ツ星?」
「温泉とは奪い合うものではなく、人類共通の財産として分け合うものだと俺は思う」
俺は水島の方を見た。言いつけられるかもな。
「俺はヒーロー本部のやり方は間違っていると思う」
覚悟を決めて完全に弓を引いた瞬間だ。
「おい」
光がいち早く、それ以上言うなと言う俺を制そうとする。だが、それで止まるような俺ではない。
悪の組織を倒したらハッピーエンドになるのはおとぎ話のような甘い物語だけだ。その先を描けないのなら、ただの戦士であり、リーダーの資格はない。
それに理想も語れないのなら、戦うべきでは悪ではなく、まずは社会だろ?
「何もヒーロー本部に乗り込んで、金盾の湯を奪おうって訳ではないんだ。だけど、これから俺たちが掘る温泉はこの街の財産であり、そして人類の財産だと考えて欲しい。何人たりともそれを独占して良い理由はない。俺はこの街を誰でも来れる温泉ランドにしたいと思っている」
パチパチと拍手の音が響いた。
「片桐、何を拍手している。こいつはヒーローの癖に、ヒーロー本部を否定したんだぞ」
「利益のために、資源や技術をを独占している今のヒーロー本部は糞だ」
「!」
全員が、片桐を見ていた。
大ヒーロー時代にその言葉をいう罪の重さは子供でも知っている。だからこそ、今こそ腹を割って話せる気がした。
「だが、俺たちがヒーローである以上、俺たちの戦いは正義でなければならない。そのために、俺は悪の組織を利用しようと思う。オペレーション・ガイアとは……」
*
「頭おかしいんじゃないのか?そんなこと成功するわけがない」
水島がそんなことを言っている。
「だが、大義の無い正義に明日は無い。例え間違っていたとしても、俺は自分の正しいと思ったことをやる。清濁を併せ呑んでこそヒーロー」
「話にならないな。お前たちはこんなリーダーで良いのか?こいつは泥船だぞ」
そう言って、他の人間に意見を求めた。
そうすると、鳳凰院先輩が深いため息を吐いた。
「知ってますよ。泥船だってことくらい。昔から、貧乏くじばかり引くんですよ。下の人間は心底大変でしょうね」
「止めたってやるんだろ?」
「当たり前だろ。それが俺だ」
鳳凰院先輩と光にそう返す。
「片桐……」
そう言って、水島は片桐に助けを求めるが……
「本気で言っているなら、お前はあほうだ」
「でも、お前もそうだろ?」
「……どうやらそうらしい。ヒーローになって、今が一番心躍っているなんてな。どうかしてるな」
こいつと握手することになるとは思わなかったな。
不思議な感覚だ。でも良く分かる。これで良いのだ。過去争うことがあっても、いつか手をとりあっていく。そうしなければ、戦いというものは終わらない。
「……片桐」
「さあ、お前はどうなんだ水島花音。ヒーロー本部に言いつけるか、俺の仲間になるか、どっちなんだ。男らしくはっきりしろ」
「私は女だ」
水島は、凄く渋っていた。
それもそうだろう。ヒーロー本部の理念に背くことをしようとしている。ヒーロー学校の教科書にも書いてない。これは実に悪らしいやり方だ。
「さあ、どっちだ?」
「どっちなのか言うんだよ」
ローリー博士と一緒に水島を囲んで、説得する。
「生きて帰りたかったら、『うん』と言いな」
しかし、こういうことになるとローリー博士はノリノリである。
まあ、俺達は本当は悪の組織の人間なので、これが正しいのだが……
「別に、ヒーロー本部にばらしても良いけど、ただじゃおかないからな」
「楽に死ねると思わないことだね」
さんざん鞭を振るって……
「逆に俺たちの仲間になれば、お得なことがいっぱいあるぞ」
「そうだよ。片桐君とコンビを組ませてあげるよ」
飴で落とした。
「蘭ちゃん、ヒーローってかっこいいね」
「どこを見てたんですか……美涼さん。ドン引きですよ」
各々の思惑が交錯しながら、こうして温泉を本格的に掘り始めた。
といっても、総督を脅して購入したドリルで地面を掘るだけなので、全自動でほとんどの工程が終わる。現場監督として数人派遣して、後は蘭の護衛に当てる。
温泉の位置は温泉女王が感知してくれたし、ただ真っすぐ掘るだけで良い……そのはずだったのだが……それは俺が現場監督をしているときに不運にも起きた。
古代兵器である。
700メートルほど掘った後だっただろうか、それはドリルなど意に返すことなく、地中の中から現れた。
まるで、地面に鍵をかけているようにそれは刺さっていたのだ。否、鍵そのものである。掘り返して分かったが、地中には下向きの扉があり、その扉に刺さっていたのが古代兵器だった。それよりも下は何かに守られているように掘ることができなかった。下手に力を加えると、倍にして跳ね返されてしまうのだ。そのせいでドリルがかけてしまう。
それは杖だった。それも信じられないほどの魔力を秘めた杖。
恐る恐るその杖に手を伸ばすが、嫌な予感がして手をひっこめた。こういうものに不用意に触れるのはよくない。学校に戻って魔王を起こして聞いて見るのが良いだろう。
そう思っていたのだが……
「これ何だろうな」
「おい……」
俺の心などしらなかった様に、光が杖を引き抜いてしまった。
てか……抜けるんだなと思った瞬間。
呪いの杖はその真価を発揮した。眩い閃光とともに光が地中から一瞬で空に届き空が割れた。青空が吹きとび、夜がきた。
混乱している泰裕は為すすべもない。それをと逆に全てを理解している黒色魔法少女は遠く離れたカフェで、天に昇る光を光悦とした表情で見ていた。その下で椅子にされている21も光悦とした表情をしているが、彼は別の意味でそんな表情をしている。
魔法少女は、その指で21を撫でながら呟くのだった。
「時は来た!!」
彼女たちは大人しくまっていたのだ。カモがネギをしょって現れるのを。




