第29話:リーダーとして
「片桐」
いつしか、シールドが解かれ水島が、片桐のところに駆けていく。
「やったね」
それよりも早く、隣からローリー博士の声が聞こえた。いつ移動したんだ?この人……
「彼の治療は僕がしてあげようか?」
嬉しそうな顔でそう申し出る。
「必要ないですよ」
俺はローリー博士の言葉にそう答えた。
「必要ない?」
「ええ、俺の剣は人を切れないんです」
「……ヤス君らしい剣だね」
俺の起源魔法は人を傷つけることに向いていない。だから、魔法剣にもその特性が色濃く反映されてしまった。とんだ鈍らが出来上がってしまったのだ。ならば、いっそのことそれ以外を切るための剣を作ることにした。
切れるものを切れない代わりに、切れないものを切る剣。矛盾。その結果生まれた剣は、見事に光の剣を打ち払ったと言う訳だ。
「…………」
「行ってきな。勝者の務めを果たすんだ」
俺が片桐の方を見ていると、ローリー博士にそう言われた。勝者の務めか……ここは爽やかにきめよう。
「ぎりぎりの良い勝負だった」
そう言って、手を差し伸べる。
「ふざけるな」
「あれ?」
上手くいかないぞ?
思わずローリー博士の方を見るが、助けてくれる気配はない。それもそのはずだ。今の俺は悪の組織のフェイカーではなく、ヒーローの三ツ星なのだ。
「何故、切らない。舐めているのか?」
切られなかったことを怒っている様だ。面倒くさいやつだな。
人間なんて切るもんじゃない。世の中には、肉を切るのが大好きな変態もいるそうだが、俺は、あの手に残るなんとも言えない、感覚が好きではない。
「はぁ」
俺はため息を漏らして、魔法剣で自分を首を切りつけた。
「……何を?」
「俺の剣は人を切るための剣じゃない」
首からは血の一滴も落ちることは無い。
「誰かを救うための剣だ」
そう言って、剣を床に刺すと壊れた施設が修復されて元に戻っていく。切られなかったとは言え、吹き飛ばされて傷ついた片桐の身体もだ。
魔法剣は最後の力を使うと魔力が切れ霧散して消えていく。
これは俺の起源魔法よるものだ。
魔王曰く俺の起源魔法は『救済』らしい。壊すのは苦手だが、直すのは得意だ。
魔王が言うには珍しいが外れを引いたらしい。
だけど、俺は自分にこんな力があったことが嬉しかった。誰かを傷つけて守るんじゃなく、傷ついた仲間を助けられると分かったから、
「甘いな、敵を切らないとでも言うのか?」
「時には切るさ。でも、お前は俺の仲間で敵じゃないだろ」
手を払われたのなら、無理やりでも手をとって立ち上がらせれば良い。
「片桐。俺の仲間になれ」
「駄目だ、駄目だ、駄目だ、片桐はお前には渡さんぞ」
俺が決めていると、そう言って、水島花音が割り込んできた。
ちゃっかり、俺から片桐を奪い取って抱きしめている。巨乳ちゃんに抱きしめられるのは少し羨ましいぞ、片桐。
「……水島花音、俺はお前も欲しい」
「え?」
「言ったろ、この6人でやる。お前たちも力を貸してもらうぞ」
そう言って、光と鳳凰院先輩の方を向く。
「本当にやるんですの?」
「無謀にもほどがあるぞ」
2人はいつしか近くまで来ていた。
2人の顔を見ると張り詰めていたものが切れて、笑ってしまう。この面子で戦争をやろうというのだ。悲劇ではなく、これはもう喜劇だな。
かつての仲間たちなら、俺のことを止めたのだろうか?
それとも、黙ってついてきてくれたのだろうか?
その答えは決して分からない。
分からないから怖いのだ。
分からなくなってしまったから怖いのだ。
もう1度失ってしまったら、きっと耐えられないから……俺は仲間の死を恐れた。
臆病になって打算で行動した。
だけど、そのせいで俺は大事なものを失った。
「無茶で無謀な戦い、確かにそうかもしれない」
「ヤス君?」
何を言うつもりだと、ローリー博士が心配そうな顔で見ている。
「だけど、そこに希望を見出してこそ……ヒーロー。俺はこの街の希望になる。そのために、俺を信じて力を貸して欲しい」
そう言って、俺は頭を下げた。
かつて俺を信じた仲間は灰になって消えた。なのに、この口は、どの口が言うのか、また信じてくれなんて嘘を吐いた。
「お前が頭下げるなんてな」
「明日は槍でも降るんじゃないんですの?」
「最初から仲間だろ」
「そうですわ。私から奪い取った生徒会長でしょ。しゃんとしなさい」
光と鳳凰院先輩はそんなことを言う。馬鹿としか言いようがないな。まんまと騙されやがって……ありがとう。
「誰がお前なんかの……」
問題はこの2人だ。水島は怒っている。しかし……
「水島、黙れ」
片桐が水島を睨みつけて黙らせた。
「お前の勝ちだ。私で良ければ力になろう」
「な?正気か?」
「勝負はこいつの勝ちだった。なら、筋を通すのがヒーローだ」
「ぐぬぬ……こいつはフェイカーとの黒いつながりがあると噂されているやつだぞ。現に、魔王の子孫はフェイカーに連れてかれたんだろ?こいつは捜索願いすら出してない。完全な黙認だ」
「それはですね」
「だったら、フェイカーから魔王の子孫を取り戻したら、ヤス君の部下になるかい?」
鳳凰院先輩を制して、ローリー博士がそんなことを言う、悪い顔してるな。さすが、悪の組織の幹部だ。
「ああ、それならなってやっても良い」
絶対に出来ないと言う顔で、水島はあざ笑うように笑った。約束したのに、ヒーローの風上にもおけないやつである。
「ヤス君、仮面を付けな」
そんな時、そう言って、ローリー博士が耳打ちする。俺は何のことか分からなかったが、急いで落ちた仮面をつけた。そうすると……
「ここに居ましたよ」
「本当だね」
そう言って、やってきた少女が2人。
蘭と美鈴だ。もっとも、美涼は魔法少女の姿に変身しているが……
「え?え?どういうことだ!説明しろ」
それを見て地下の訓練施設に、口をぽかんと開けた水島の声が木霊した。なるほど、仮面をつけろとはそういう事か、俺の正体は美涼には内緒だからな。
*
「という訳なんだよ」
「じゃあ何か、こいつがフェイカーと片桐が共倒れになるのを読んで、フェイカーを誘導し、片桐とぶつけ、魔王の子孫を奪い取ったと……信じられん、そんなしたたかな男か?そいつが!」
水島は俺に指さす。
「俺もそう思う」
「おい!」
勝手に賛同する光にツッコミをいれる。
ただ、事実なんも考えてなかったし、そうなったのも偶々だ。
フェイカーと片桐が共倒れになったところを、俺が助けにいこうと思っていたと、蘭や光、鳳凰院先輩には話している。
しかし、まさかの魔法少女の参戦があり、それは叶わなくなったが、こんどは逆にその魔法少女をスカウトして仲間に引き入れ、蘭も取り返したということになっている。
誰だよ?その有能な男。
全部行き当たりばったりだぞ。
美鈴はヒーロー好きだし、泰裕としてではなく、三ツ星として会いに行けば、心配になるくらいチョロかったが、他の魔法少女だったら、こうなっていたか分からないし……
俺の正体は隠してあいに行ったので、ヒーローの時は常に三ツ星でいないと行けなくなった……面倒くさい。
3人とローリー博士には俺の正体を黙っていてくれるよに頼んである。後で2人にも頼まないといけないな。
「うちのリーダーは恐ろしく頭のきれる男だよ」
ローリー博士がフォローしてくれる。それで、ゴリ押せということだろう。
「ヒーローたるもの頭も切れないといけないからね」
「そうですよ。」
美鈴と蘭もそれに続いてくれた。本当ごめん。
「成長しましたね」
何故か、鳳凰院先輩がうん、うん頷いているが無視しよう。
「ヒーローは腕っぷしだけ強くて駄目なんだよ、ここも強くなければな」
何言ってるんだ俺……頭を指でトントンと叩いているけど、お前は何も考えてないだろ。
俺は戦術を組み立てるのは得意だけど、集団を指揮するような戦いの駆け引きは得意じゃない。
「馬鹿のふりをしていたと言う訳か?食えん奴だ」
俺、ヒーロー本部で馬鹿だと思われてたの?初耳なんだが?
色んな人間から尊敬の目で見られている。それは悪くはないのだが、過大評価が含まれているので、居心地はよくない。
仮面の下はそうとう焦っているぞ。でも、リーダーとして、仮にその資格がなくても言わなければならない。それは、自分が強くなるよりもずっとしんどくて重い。
ローリー博士の方を見る。
敵を作るのなら、その分味方を作れか……簡単に言ってくれたものだ。
「勝つぞ。この戦い。俺に着いて来い」
役者は揃った。力も手に入った。後はこの戦いに勝って、温泉を掘り当てるだけだ。そして、俺はこの街を救う。
前話を修正しています(2020/09/06)。




