第28話:仮面なき強さ
「それが答えだ」
魔王は俺にそう言った。
「俺にこんな力が……」
信じられなかった。自分の起源がこんな意外なものだったなんて……
「余は、変革者だった。良くも悪くも余が育てた英雄王は、余から技をどんどん吸収して強く育って世の中を変えた。次は貴様の番だな。良いか、私が育てたんだから半端は許さない。その力に見合った男になれ」
修行が終わった時、魔王が俺にそう言った。
起源魔法は、その人間を映す鏡のようなもので、その人間の本質そのものだと。
それなら、俺の本質は……
「人を救いたいと貴様は言ったな。まさにそのための力だよ。正義ではなく、悪を名乗り、偽善だったとしても、人を救える人間になれば良い。それで良いんだ」
*
魔王の言葉を思い出しながら、俺は片桐は地下に戦闘訓練場に移動した。
かつて、七つの大罪に襲撃で壊れてしまった場所であるが、今は完全に修繕がなされ、むしろ過去よりも丈夫に作られている。有事の際に逃げ込めるように、地下シェルターの役割も担っているのだ。
「姐さん、あの馬鹿、実力の違いが分からないんだ。止めてくれないですか?姐さんの言うことなら聞くと思うんで」
「光るん、それは僕にも出来ないよ」
「何故です?」
そんな鳳凰院先輩の言葉に、ローリー博士は笑顔で答えた。
「相手が強いからって、立ち向かわない男じゃないからさ……そうだろ、ヤス君」
少し貯めてから、ローリー博士がそう問いかける。
「ええ」
「結構。実力を見えてもらうよ。今の君の実力をね」
そう言って、2人を連れてセコンドはリング外に出て行く。
それと同時に、地下の戦闘訓練場のリングには、ヒーロー本部に備え付けられている防御シールドと同じものが貼られていく。このシールドは核ミサイルにも耐えられるように作られているので、攻撃の余波で2人に怪我させてしまうことはないだろう。
リングの前で片桐と向き合った。
この前、フェイカーに変身してようやく勝てた相手に対して、ベルトを使わずに勝負する。果たして勝機はあるのか?そう思っている自分と、戦いたくて仕方ない自分がいる。矛盾しているのは分かっている。だけど、もう俺の力がどの位置にまで届いたかは、自分では測れないのだ。ある程度の強者を実験台にしないといけない。
「剣はどうした?」
片桐を見て、ある違和感に気付く。
剣を持っていなかったのだ。
「ハンデのつもりなのか?」
「ああ……水島にも言われたんだが、剣はフェイカーに取られたんだ」
「…………」
そう言えば、魔法少女にコイツの剣で切りかかり、返り討ちにあって、それ以来どこかに行ってしまったんだった。だから、決して取ったわけではない。
「でも、おかげで新しい世界が開けた」
「どういう……」
「意味は直ぐに分かるさ。始めようか?」
「そうだな」
俺は懐から仮面を取り出す。フェイカーのベルトは使えないがこちらは使わせてもらうとしよう。この勝負は絶対に負けられないからな。使えるものは全部使う。
「コンプリート」
そんな電子音が流れ、変身が完了する。顔が隠れたところで、『セカンド・アイ』を発動させた。
「準備は良いみたいだな」
「ああ」
「なら、行くぞ」
そんな片桐の声が響くと同時に俺は距離を詰めた。
一撃で終わらせる。その覚悟のもとで、距離を詰めたのだ。片桐が何かしようとしているのは見え見えだったためだ。それをさせないのも強さだ。そして、今の片桐には魔剣がない。この状態で殴れば身体的な強化がなされていない片桐にとっては必殺だ。
「!」
思い切り拳を振り上げたところで。背筋が凍り付いた。
やばいと本能的に察した時には、既に片桐の射程範囲内に入っていたのだ。
「馬鹿だね」
そんなローリー博士の声を聞いた気がした。
衝撃とともにスーツは吹き飛ばされ、おしゃかになる。仮面だけは残り、かろうじて、その瞳だけを隠してくれた。しかし、それだけだ。そのまま体ごと後ろに吹き飛んでいき、そのままシールドに激突する。身体に激痛が走った。
そんな涙目の中みたのは、光の剣を構える片桐の姿だった。
「初めてだったので、浅かったな」
そう言って、剣を振るうと固いはずのリングに亀裂が走った。このリングはシールドほどではないが、特殊な素材で作られていて、硬度はダイヤモンドと差して変わらない。
それほどの威力を発揮したと言うことは、剣術とスキルの融合か……片桐は自身のスキルで剣を作ることに成功したようだ。ビームソードとでもいったところか?信じられないことに、あれ一振りの威力が、前に撃ってきたビームよりも強い。
「はは、なるほどね」
浅かったか?
「やっぱり、あいつが勝てる相手じゃなかったんだ」
「ローリーさん、止めましょう」
2人がリング外で慌ててるのが分かった。
シールドは攻撃を通さないが、音を遮断している訳ではない。良く聞こえる。
「何で?」
「何でって死んでしまいますわよ。実力が違い過ぎる」
「……僕は彼を信じてる。だから、君たちも信じてあげな。何とかするさ、あの程度は……そうだろヤス君」
ローリー博士の声がしっかりと聞こえた。
やばいな。期待を裏切るわけにはいけないのだ。そして、もう1人、期待を裏切っては行けない人がいる。負けたと聞いたら怒るだろうな。
「ふん、片桐の勝ちだ。実力が違い過ぎる」
リング外で、水島がそんなことを言っている。
「その程度か」
片桐ですら、そんな残念そうな目を向けてくる始末。
相当舐められている様だ。
「1つだけ教えてよう……私の剣は、剣と光と両方の性質を併せ持つ。この意味が分かるか?」
「眩しい?」
「受けることは不可能であり、そして間合いは意味を持たない」
光の剣は姿を変え、巨大な本当に巨大な剣として振り下ろされる。
迫る剣。
受けることが出来ないか……それは実際に存在するもの限定の話であり、魔法はそんな次元に無い。見せてやるよ片桐、これが剣と魔法の融合だ。
「抜刀」
純粋な光ではなく、雷のスパークで輝く刀身。それが形作られていく。
光の剣と魔法の剣が真正面からぶつかり合った。
金属なら、打ち合うなんてことはできなかっただろう。だが、その剣は正確に光の剣だけを捉え、その軌道を変える。
光と魔法の激突は空間に歪みを生み、歪みは音となり独特な共鳴音が響いた。
「何だ、それは?」
「魔法剣」
魔王と必死に練習した精剣魔法が、今ここに成功した。俺はこの魔法はあまり得意ではないので、成功確率は低いのだが、上手く言ったな。これで対等に戦えそうだ。
「魔法だと?聞いていないぞ」
リングの外で、水島が何か叫んでいる。
「姐さん」
「ローリーさん」
「うん、目覚めたみたいだね」
「目覚めたって、そんなこと……」
「前線で戦ってきたのは、何もフェイスだけじゃないよ。ヤス君だって」
そんなとってつけた言い訳をするローリー博士。
後天的に、魔法が目覚めると言うケースは3年に1度くらいの頻度で起きる。絶対にありえないことではなく、そのほとんどのケースが死ぬ直前まで追いつけられた戦場の中だと言う。もっとも、俺が魔法を使える理由は物にあるが……『セカンド・アイ』だ。
「一撃止めただけだろ」
その目には、笑っている片桐が見えた。
非常に嬉しそうにしている。その気持ちは少しわかる気がした。だって、俺も武者震いが止まらないもの。
「なら、剣士の切り合いをしようぜ」
「良いだろう、行くぞ」
片桐が動いた。
その動きは非常に遅いように見えた。何も強化されていないからだ。ただ、剣を振る速度だけは常人の限界を超えている。その一撃を魔法剣で受けとめたが、。2撃、3撃ととまらない連撃。ここまで速いとは、恐ろしいな。だからこそ……
「片桐、お前はどうしてそんなに強いのに、蘭を助けなかったんだ?」
「それが正しいからだ」
「違うな。本当は間違っていたと分かっていたんだろう。剣が軽いぞ」
魔法の剣は光の剣は砕けて霧散する。
「なっ」
「何を驚いている?」
魔王と修行して、俺の剣はもう一段上の領域に進んでいる。
「あいつ、本当は弱いんじゃ?」
「馬鹿おっしゃい、フェイスの片桐さんですわよ。泰裕さんが強くなったんでしょ?」
「うん、ここまでとは僕も思わなかったよ……でも、それだけじゃないみたいだね」
「何をやっているんだ。片桐」
片桐は俺と距離を取った。
「剣が軽いだと?」
「軽いな。受けてみて良く分かったよ。強いやつの剣には、魂が宿るんだ、お前の剣にはそれがない」
勝ち負けではなく、俺にはやらないといけないことがある。
「停滞しているな」
その言葉に、片桐が表情を変えた。
「あいつと同じようなことを……」
否、そいつは俺だぞ。
「お前にとってヒーローって何なんだ?1人を犠牲にしてまでやらないといけないことなのか?」
「……私は誰かを自分の剣で守りたかった。だが、どんな戦いでも犠牲はでるものだ」
「でも、その犠牲になる誰かを、俺達ヒーローが選んじゃダメなんだ」
悲痛な表情。どれだけ強くなってもあの日と同じなのだろう。
かつての俺を見ている様だった。
強いと思っていたヒーローは、弱く脆かった。ならば、ただ力で勝ってもこの戦いに意味はない。俺は、一緒に戦う仲間が欲しいのだ。半端なやつはいらないし、たぶん、誰かが救ってやらないといけないのだろう。2度の戦いでそれが分かったから、この哀れなヒーローに祝福を。
「なら、どうすれば良い」
「俺たちはヒーロー本部の犬じゃない。迷ったなら自分の心に従えよ。お前はどんなやつだ。何をして、何をしてもらったら嬉しい」
「……一度や二度、攻撃を防いだらもう天狗か?」
「片桐……」
「私はフェイカーに負けて良く分かった。強くなければ、何もえることは出来ないとな。君にはそれほどの力がるのか?」
その通りだ。結局力がなければ何も守ることは出来ないだろう。
だから、今こそ仲間が欲しいのだ。
「剣士の誇りを捨て、ヒーローとして問う。お前は本当に勝てると思っているのか?その肩には、その背中には多くの人の命がかかっている、それでも戦争までしてたった1人を救うのか?」
「戦いたくなんてないさ。でも救いを求めている人がいるのなら、俺はその人のために戦う。ヒーローってそういうものじゃないのか?」
「だが、ヒーローは負けてはいけないんだ」
「そうだな」
ヒーローは負けてはいけない。表だって言われないが、ヒーロー本部の鉄の掟だ。ヒーローが負けることは、世界の秩序の崩壊だから。勝算の高い戦いしかしない。
「でも、それは戦わない理由にならない。勝てるから戦うんじゃない。助けを求めている人がいるから戦うんだ」
蘭の顔が浮かんだ。
そして、死んでいったヒーロー仲間たち。
「じゃあ、これくらいの攻撃は受けて見ろ」
「!」
光の剣が空間に並んでいく、その数は1本や2本じゃない。数十本にも及ぶ、光の参列。あれ1発、1発が、前に受けたビームよりもはるかに威力があるとしたら俺は……木っ端みじんになるぞ。
「剣士としての誇りを捨て、ただ相手を殺すためだけの技だ。これくらい受けれないようじゃ、勝ち目何てないぞ」
試されている。それが分かっっているから、今度は武者震いじゃない、身体の震えを必死で止めるように努めた。そして、自分を騙してでも自信満々に言い放つ。
「受けて立つ」
これが普通の戦いなら、俺には別の選択肢もあった。
何も覚えた魔法は1つではないのだ。
でも、それは出来ない。してはいけないことは分かっている。きっとここで剣以外で勝負しても、俺に着いてこないだろう。
如何せん、人望がないと仲間を集めるのも大変だ。でも、これくらいの壁は超えて見せる。
静寂の中。眩く放たれる、光の線。
その線の中を抜けるように、突っ込んでいく。
数十をこえる剣の中をたった1本の剣で進んでいくのだ。一つの失敗は死に直結する。それでも心を静かに、歩みだけは強く前に。あの人のように……
「英雄王も使った私の技だ。お前に使いこなせるかな?」挑発的な、魔王の声が脳裏に再生される。行くぞ。
『明鏡止水・蛟』
その技は……魔法剣は……複数の剣を同時に受け流していく。それは有無を言わせない大きな大河の流れのように全ての攻撃を洗い流し、そして……
「抜けただと……」
気付いた時には誰かの声が響いていた。極限の集中のせいで誰かは分からないし、それに、残念ながら、それは勝利を意味しなかった。
53本の剣の中を抜け出し、たどり着いた先には、片桐が2本の光の剣を構えていたのだ。そう言えば、片桐は2刀流だって聞いたことがあったっけ。今さら気づいた。
「クロス・セイバー」
魔剣なんて何本も作れるものではない。なるほど、これが片桐の本来の剣なのだろう。技名まで叫んでいる。だけど、ここまで来れば俺の剣の届く範囲でもある。勝負だ。
「必殺」
魔法剣に再び魔力を込める。
魔力は雷に代わり、魔法剣は青白くスパークする。ただ、威力を求めた……否、俺の魂の一撃。
『ソウル・セイバー』
剣と剣がかち合う。2本の剣は酷く重い。片桐は迷いのない顔をしていた。全身全霊で向かってきていることが分かる。
だが、俺は迷う……これが正しいのかは分からない。でも、片桐は全力で戦って負けたかがっていることが分かったから……でないと最初の一撃で負けている。最初からおかしなやつだった。こんなに強いのに、剣に迷いがあって、変に含みのある言葉を使う。きっと誰かに止めて欲しかったのだろう。この男は根っからのヒーローだから。
この哀れなヒーローに救済を……正しいかどうかは分からない。
だから、俺のやりたいように信じた道を行く。
「うおおおおおおおおおおおおおお」
咆哮とともに、『セカンド・アイ』をもっと上の段階へと解放する。やり過ぎると俺の身体が持たないが、一瞬ならば、どうにかなるだろう。
体内に血液とともに力が滾り、剣を持つ手に力がこもった。
「いっけー」
時代が変わった瞬間……それは、誰が見ても明らかだった。次世代を期待された若きヒーローは、彼よりも遥かに若いヒーローに敗れたのだ。
片桐の身体が、吹き飛んでいく。その顔は何故か晴やかで苦痛もない。
それを、泰裕は荒い息の中見ていた。怪しく光っていた目の光は再び失われ、勝敗が付いた瞬間、タイミングを見計らったように、つけていた仮面が外れ、地に落ちる。
仮面をつけることでしか、戦う力を持たなかった少年はもはやどこにもいない。ベルトがなくとも、自分を偽らずとも、彼は戦う力を身に着けたのだ。




