第26話:一番簡単な魔法の授業・初級編
「お前が英雄王を育てた?何百年前の人間だと思ってる」
どや顔で言っているけど……話を聞いていたのだろうか?
その辺も説明してましたけど……
「馬鹿につける薬はこの時代にもないんだろ?」
「やめてあげてください」
この人、人の話を聞かないんだよな。でも、決して頭が悪い訳ではないんだ。大事なことは聞き逃して、いつも遅れてやってくるんだけなんだ。
「ご飯だよ」
そんなことを話していると、そんな美涼の声が響いた。
銀子さんは、ダッシュで出て行ってしまう。
大事なことを聞き逃すと言ったが、興味ないだけなのかもしれない。だが、邪魔者がいなくなったのは良いことだ。
「魔王陛下、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
俺は深々と頭を下げた。
「うむ……私のことは魔王と呼ぶと良い」
そう言って、握手を交わす。
ここに奇妙な師弟関係が成立した。
これは凄く幸運なことだった。何故なら、俺は初めて魔法という力を知ることになったからだ。見たことがあることと知ることは天と地の差があった。
「さあ、飯にしよう」
「はい」
そう言って食卓に向かうと、銀子さんが美涼に怒られていた。
心なしか、涙目に見える。
「どうしたんだ?つまみ食いでもしたのか?」
前に、おかず一品を勝手に1人で食い切ったので、ローリー博士に絞められていた前科がある。
美鈴が首を縦に振ったので、正解らしい。
「これには訳があるんだ」
「訳?」
誰も聞いてないのに、銀子さんが語りだしたので、無視して3人で食卓に着いた。
「聞きなさいよ」
「……馬鹿は放っておいて、食事にしよう。余は腹が減った」
どうやら魔王は無視を決め込むようだ。だが、食卓に不穏な空気が漂ってそうはいかない。この2人はかなり仲が悪いようだ。基本的に女の子には優しい銀子さんなのだが……
ここでドンパチだけは勘弁して欲しいんだが……
「馬鹿だと……」
やべえよ。怒ってるよ。
ローリー博士がいないところでこうなると面倒臭い。力づくで止める人間がいないからだ。
「馬鹿でしょ」
冷ややかな声が響いた。
「はい」
借りてきた猫のように、銀子さんが大人しくなって食卓に着いた。
あんな態度はローリー博士にもしないのだが、完全に力関係が決定している様で、美涼の前だと大人しい。
食卓では、いつものように俺と美涼が向かい合っており、俺の隣には魔王がいて、美涼の隣には銀子さんが座っている。
「なかなか、良い雰囲気だな」
魔王が小声で呟いた。どこが良い雰囲気なのだろうか、俺は重苦しくて喋る気にもならない。胃が痛いよ。
「ところで……」
この重苦しい雰囲気に、美涼が口を開いた。
「2人はどこでうちのヒロ君と知り合ったの?」
「!」
先ほどの続きを開始した。俺だったら、魔法少女だとばれるリスクをしょってまでやらないのだが……そういうところは気にしないらしい。
「私は泰裕のの先生をやっている」
「先生?」
美涼は心底分からないと言う顔をしている。まあ、年下の女の子に先生と言われてもわかんないだろうな。
そういうプレイみたいな顔するの止めてくれない。傷つくから。
「私はこいつの師匠だぞ」
「師匠?」
「毎日、手取り足取り教えている」
無駄に張り合って来たよ。話がややこしくなるから止めて。
「先生の方が師匠より偉いな」
退却のネジが飛んでいるのだろうか、魔王が銀子さんを煽る。
そのせいで、俺、箸が進まないのだけど……こんな修羅場もあるのね。あまりにも、辛すぎるんだけど……
「碌に育てたこともない癖に……偉そうにするのだけは一人前だな」
「吠えてろ」
その言葉に、銀子さんが立ち上がった。
「座りなさい」
その冷ややかな声に、黙って食卓に戻るのだった。
「2人とも、先生で師匠なのは分かったけど何を教えてるの?」
「…………」
それはそうだよな。そこ重要だよな。
下手なことを言うと、俺の正体がばれてしまう。
「私は武……」
俺は銀子さんの口を塞いだ。
「箸より重いものを持てない設定でしょ」
小声でそう呟く。
「ぶ?」
美涼が不思議そうにこちを見て来た。
「舞踊の先生で、踊りを習ってるんだ」
そう言うと、銀子さんがこくこくと頷いた。
この人、本当に踊れるから嘘ではないぞ。
流石は俺だ。フォローが上手い。
「銀子ちゃん、踊りが上手だからね……蘭ちゃんは何の先生なの?」
「決まっているだろ。魔……」
魔王の口も塞いだ。
「ま?」
「舞の先生なんだよ。流派が違うから仲が悪いんだ」
美涼は蘭のことなんて知らないので、後でいくらでもごまかしがきく。
「……いつから、そんな踊りばかりならうようになったの?」
「今度、文化祭で歌って踊るんだよ」
苦しいか……そう思いながらも嘘に嘘を重ねた。
何、後で本当にすればいいのさ。
「いつ?カメラ持って応援に行くね」
思った以上に食いついてきた。美涼は写真を撮るのが好きなようで、俺のアルバムだけでも、いくつあるのか分からない。
たまに、アルバムを眺めつつニヤニヤしている。
どうやら無事誤魔かせたようである。
このまま、蘭のことを聞いて魔法少女であることをばらしても良いのだが、俺はこれ以上の詮索をするのを止めた。俺が強くなって、この子を守るのだ。そういう決心がついたので、何も言わないことにした。
そう俺は、強くならないといけない。
*
「さあ、魔法の授業を始めようか」
皆が寝静まった深夜。魔王がそう言って連れ出された。ここはどこだろうか?
一瞬で空間が闇に覆われて、見たことのない場所にいる。
「不思議そうな顔だな。ここは余の魔法で作った仮想空間だ。闇魔法の一種だな」
「闇魔法?」
「そうだ。魔法には属性魔法というのが存在する。闇はその1つだ。ただ、属性魔法は生まれつきのもので、もっていないというケースがほとんだ。だから、属性魔法を持っている魔法使いは少ないし、教えられる人間はほとんどいない。そもそも魔法自体が希少なものだからな」
狭い部屋にありえない広さの空間が広がっている。少しだけ動き回ってみるが、どこまでも空間が広がっているようで、先は目視しているように見えない。黒い靄がかかっている不思議な空間で、でもはっきりと魔王の顔は見えている。
「簡単に説明すると、魔法には3種類存在する。1つは属性魔法・2つ目に起源魔法・最後にユニーク魔法だ」
「起源魔法に、ユニーク魔法?」
「そうだ、そして貴様が覚えることになるのは起源魔法だ。ユニーク魔法は文字通りの魔法で、後発的に自分の好きな魔法を覚えるんだ。だが、それにはセンスと相性が必要になる。こんな風に、いつか出来るようになれ」
そう言って、魔王の手に黒い靄が集まっていく。そうすると剣を形作った。
「英雄王がもっとも得意とした精剣魔法だ。これを覚えるのに相性が良いやつでも3カ月はかかるし、相性の悪いやつは、どれだけ魔法のセンスがあっても、一生かけて取得出来るかだ。ユニーク魔法にはその人間との相性が必要になってくるんだ。そして、その相性はその人間との起源に由来する。だから、魔法使いは自分の起源をしることがもっとも重要で、その魔法が自身の奥義にもなる」
「どうやったら、俺の起源が分かりますか?」
そう俺が質問すると、魔王は不敵に笑った。
そして、その指2本に黒い靄が集まり、その2本の指が俺の両眼へと迫っていく。
「起源魔法は、その人間の本質であり、属性魔法とは違って必ず1つだけ持っている、魔法使いの奥義だ。私の起源は『変革』だ」
瞼を閉じたせいで何も見えないが、2本の指が瞼の上に乗っているのが分かった。
「枷を外してやる。その目で見て確かめろ。自分の『起源』が何なのか?」
両目に激痛が走る。『セカンド・アイ』が俺の意思とは関係なく強制的に発動したのが分かった。身体が熱い。その場に崩れ落ちる。
その様を魔王は笑いながら見ていた。




