第21話:折れた剣
「ヤス君、ソードフォームは未完成だ。欠陥フォームと言って良い。僕ならそのフォームに変身して戦ったりしない」
俺はそんなローリー博士の言葉を思い出していた。
その言葉は正しい。ソードフォームはスーツの装甲を剣に回す関係上防御力がだいぶ下がってしまう。その代わり、身の丈ほどのバスターソードがその手におさまっていた。
古来の侍の戦いと言うのは、当たり前だが切られた当然負けだったと言う。切りあいなんて元々そんなものなのだが、現代においては防御力が何よりも重視される。切られたら終わりという考え方をしない。何故なら、人的資源が何よりも重視されるためだ。
だから、このソードフォームは欠陥なのだ。防御と運動性のアップのために使われていた液体金属は、大部分がバスターソードへと変わり、運動性能を維持するためのギミックを残すために、装甲は薄氷のようである。
マスターフォームの機能性を重視した洗練されたデザインはそこにはない。異様な大剣を携えた。青い剣士が足りない装甲を氷で覆い、周囲に水が渦巻いていた。
自分の水の能力を活かすためにどうすれば良いか考えた。単体で利用しても強力な能力だと思う、だけどそれだけだ。その先に行くために、俺はスキルを剣技として消化することにした、それを教えてくれたのは、皮肉なことに目の前の男だ。
剣に水を纏う。その答えが正しいかは分からない。ただ、今の俺の全てをぶつけないと勝てない相手だということは確かだ。
こういう相手のことを何て言うんだったか……好敵手と書いてライバル?違うな、冗談じゃない。ライバル何て要らない。
俺はバトルマニアじゃない。こいつは俺の敵だ。一切の容赦をしない。ただ叩き潰せば良いんだ。
「何をするかと思ったら、私の真似ごとか?水を剣に纏ったところで、私のようには出来んぞ。よほど偽物が板についていると見える」
「偽物?違うな。悪いが今回は俺が本物だ。本物と偽物の違いを見せてやるよ」
「フェイカー、お前は本物にはなれない。何故ならお前はヒーローではないからだ。役者が違うんだよ」
「ヒーローらしくないセリフだな。努力したら何にでもなれるって言えよ」
「この悪役が」
片桐の剣に光が集まっていく。これ以上の会話は意味がないと判断したんだろう。否、今まで付き合ってくれたことの方が奇跡か?
片桐の剣から閃光が放たれた。
だから、剣士がビームに頼るんじゃないよ。
俺は大きく円を描くように剣を振るった。水は何物にも捕らわれず、ただ流れていく。なら俺の剣もそうであればよい、何者であろうと受け止めることをせず、受け流す。
ビームは大きく外れ後ろに流れていった。
「水で光を屈折されたのか?いや、そんなこと出来るわけが……」
何か言っている。そういう難しい話はローリー博士とやって欲しいね。俺にそんな難しい話分かるわけないだろ。
でも、馬鹿にされるのも嫌なので、それっぽいことを言っておこう。
「的が外れてやがる」
「何?」
「お前には一生わかんないよ」
そう言って目を閉じた。
イメージする。ここは水の中だ。水と1つになる。これが明鏡止水か?掴んだぞ。
「うおおおお」
「あぶな」
直前で片桐の剣を躱した。どうやらビームをぶっぱなすのではなく、切りかかってきたようだ。危うく切られるところだった。
馬鹿なことやっている場合じゃない。
実戦の中で、己の剣術を完成させようとしているのだ。
糞親父のコピーではなく。誰のコピーでもない俺の剣を……偽物ではなく本物の自分を表す剣を。目なんて閉じてイメージしている場合じゃなかった。俺は自分探しのために、特に意味なく海外にいく意識高い系か?
深呼吸をして、俺は剣を強く握ってスイッチを入れる。
そうすると刀身が回転を始め、白い雲とも霧とも言えるものをまき散らしていく。周りの温度が下がった感じがした。
「何だ、何をしている?」
教えるわけないだろ。俺と片桐には決して埋められない差があった。それは情報量の違いだ。フェイスの中でも片桐はあまりにも有名過ぎるのだ。
その手の内を俺は良く分かっていた。それに対して、片桐は俺のことなど聞きかじったくらいだろう。そして、この新フォームは今回初お披露目だ。分かるはずがない。また、片桐は俺に必殺のビームを流されて動揺している。
勝てる所があったら、そこを執拗につけ。そうですよね銀子さん。
「お前も剣士を名乗るなら、切り合いをしようぜ」
「何?」
「来いよ。クロスレンジで」
「お前は馬鹿か、私の剣は光を纏うことでありとあらゆるものを切り裂く」
「知らないのか?本物の剣士の剣は決して折れない」
「…………」
「…………」
僅かな沈黙があった。その間も俺の剣は白い霧を空へと巻き上げていく。
「!」
片桐からの切り込み。その剣はやつの言う通り必殺なのだろう。
普通の剣士が奴と打ち合ったら、剣を折られ胴を切断して終わりだ。だからこそ、奴の剣を受けた瞬間が勝負。力の流れを変える。まともに打ち合わない。
「なっ」
何故、剣がはじかれたのか片桐はまるで理解していない様子だった。
片桐の剣は切り下ろされたのに……逆に奴の頭上高く切り上げられている。
それならばと横に剣が払われる。それもまた力の流れを変えて上へとはじき飛ばした。
「…………」
片桐もようやく気付いたようだ。攻撃を見切っているということを。その顔に絶望の色が見える。
「何なんだお前は、誰なんだお前は?」
「フェイカー。偽物だよ」
片桐の剣は実直だ。変化がない正道の剣と言える。ゆえに、恐ろしく速く恐ろしいほどの威力を持つ。それがスキルによってさらなる威力を発揮し、本来剣士が苦手な遠距離攻撃への回答も得た。
だけど、世の中と一緒だ。正しい方が勝つわけではない。
……ただ、この勝負は片桐の勝ちだけどな。
腕が痺れているし、剣が悲鳴を上げていることが分かった。僅かだが刀身切られているのだ、そのためのでかいバスターソードでもあるが、いつ壊れてもおかしくない。ただ、回っているので刃こぼれしているも分かりづらいだろう?
俺は文字通り受け流しているだけなのだ。そして、あたかも勝っているように演出してるだけだ。
余裕があるなら、切りにいく。余裕がないから、切りにいけない。単純だろ。
一瞬でも切られると思ったら駄目だ。
一瞬でも死の恐怖に呑まれたら、剣が鈍ったら俺の負けだ。まさに綱渡りの所で受け流している。達人は一瞬の攻防を完璧に行えるというか本当だろうか?もし、本当なら常人の神経ではない。
「うおおおおおおお」
そう言って、片桐は切りかかって来た。
冷静にしたら負ける。
距離をとられたら負ける。
ビームを撃たれたら負ける。
負ける条件は無数に存在するからこそ、勝てる状況へと誘導しないといけない自分を大きく見せろ。その影がいつか相手を食らいつくして、俺はその先へとつれていく。
絶対に……絶対に守ると誓ったんだ。引くのではなく前へ。
ただ、想いとは違い長くは続かなかった。
金属と金属がぶつかり合う音、それは断末魔か、はたや不幸を知らせ凶兆のように響いたのだ。それは今までの音とは明らかに質が違った。流石と言うべきだろう。片桐の剣は、打ち合えば打ち合うほど鋭さをました。やはり剣の天才なのだろう。
ついに、剣が折れて吹っ飛んで行ったのだ。
片桐が荒い息を吐いた。その顔は笑っていた。剣を覚えたばかりの子供の用に……
「フェイカー、お前は本物だよ。私にここまで剣を振らせたのはお前が始めてだ。敵なのに、尊敬にも似た気持ちを感じる」
何を満足している?
「……お前、最後の方分かっていただろう。俺がただ防いでいるだけだって」
「分かっていた。だが、それでも私は……剣士として君の剣を受けていたかった」
それは相手への賛辞なのだろう。
爽やかなスポーツマンのような顔をしているのが良い証拠だ。
「良く極めた。私では到達できない領域に」
「で?気持ちの良い勝負でも出来たか?」
お前の言っているのは常に狩る側の理論だ。狩られる側はそんなこと思ってもいないぞ。
常に死の恐怖におびえ、生への執念で逃げ惑う。
それを道化と笑うのが常に狩る側だ。
「お前はやっぱり温室育ちのお坊ちゃんだな。甘いんだよ」
だから、狩られる側の気持ちが分からない。
ただ、世の中のためと見捨てられる人間の気持ちが分からない。その犠牲が正しいと信じているからだ。それで良いのかヒーロー?
剣の才能があったが、スキルが目覚めなくて絶望したって、確かコイツのファンブックに書いてあった。剣の才能のない人間も世の中にはいっぱいいて、それでも絶望せずに生きている。
光の当たる舞台に居る人間はそれが分からない。日陰者の気持ちなんて分からない。
曇りなき空は光を失い、影を作った。
曇天の空が出来上がり、当然雨が降る。
ソードフォームとは名ばかりだ。あのバスターソードは雲を作る装置でもある。
「勝ったつもりか、お前は負けるぞ」
「何?」
変な話。俺は水の中の方が早く動けるし、強いくらいだ。
「折れた剣で何が出来る?」
俺は折れた剣で、居合抜きのような姿勢をとった。
この状況を作るために糞つまらない話をした、挑発しのせて一瞬の時間を稼いだ。達人同士の切り合いでは決して出来ない間を作ったのだ。全ては勝つために。
「必殺」
雨が降っている時か水の中だけしか使えない。まさにこのフォームと同じ欠陥技。
それでも、俺の道を切り開いてくれるはずだ。必殺技とはそのためにあるのだから……
片桐は構えた。
必殺のビームでも撃とうと言うのだろう。それだけ、今の俺と片桐には距離がある。流石と言うべきか、不意の反撃を警戒して剣の届かない安全距離をいつの間にか取っていた。だけどもう遅い。
水を使って加速する。
閃光よりも早く、雷のように。
『一閃・建御雷神』
相手が剣を振るよりも早く。
相手の認識すり抜けて、折れた剣が片桐の腹部に直撃した。魔剣の加護があろうと関係ない。俺の信念と覚悟と魂をのせた一撃。たった一振りとその状況を作るために死線を越えてきたのだ。
気落ち良い勝利は要らない。
後味のよい勝負をしなくてよい。
試合に負けて勝負に勝てばそれで良いのだ。
俺のような悪が、正しいを貫くには勝利しかないのだから。
折れた剣は、それでも変わらず威力を発揮した。
折れた剣は本来なら威力を失うものである。それでも、威力を失わないというのなら……剣術の完成を意味した。偽物は本物の剣士になったのだ。流水のように相手の攻撃を受け流し、時に激流のように相手を襲う。正に変幻自在の剣が完成した瞬間であった。




