第17話:魔王様は語りたい(後編)
「魔王にそっくりだってさ。歴史上の人物とそっくりなんて凄いことだ。良かったね、ヤス君」
良かったと思うなら、笑いながら言うのを止めてもらえませんかね。
てか、何が良かったことか、そんな汚名を着せられたら、この世界で生きていけない。数百年たった今でも語り継がれる悪名だぞ。
「どの辺が似ているんだい?」
「……矛盾した2面性だよ」
ローリー博士の質問に、魔王がそう返す。
「悪を名乗っているのに、お前は人を助けるな泰裕、そういうところだぞ……父も人を助けたかった。願いはただそれだけだったんだ。だが、世界の半分を父は間引いた。何故か、お前には分かるか?」
俺に魔王の考えなど分かるはずがない。あったこともないのだ。どうやって考えを読めと言うのだ。だから、俺ならどうしてそんなことをするか考えて口を開いた。
「それが正しいと信じたからか?」
「……そうだ」
魔王は悲しそうに、そう呟いた。
「あの時代は六王時代と言われる王たちの時代だった。スキルという力が一部の人間の中で発現し、戦争は血みどろの狂気と熱を高め、生き物のように狂っていた」
「だが、魔王が現れたのは時代の終わりも終わりだろう?それと何の関係がある?」
「……別の側面から見れば、スキルを持つ人間が兵器だった時代でもある。能力のある人間とない人間の溝はもはや埋められるようなものではなくなっていた。あの時代には能力者への差別しかなかった」
「……それは嘘だよ」
俺はそう呟いていた。
「六王は1人を除いて、時代を代表する能力者たちだ。能力者が王だった時代だ。能力者を一体どうやって差別する。そんなことはありえない」
「数の暴力だよ。あの時代は戦争で多くの能力者が死んでいった。元々少なかったその数は、さらに少なくなり、産んでは死に、死んでは産みだった。差別されていなかったのは、王族などの限られたものたちだけだ」
「そんなこと……」
「ありえないと思うか?ありえるんだ。人は自分とは違う存在を恐れる。それは何故か?生き物の根底にある本能によるものだ。より高みに、より上に、人は進化せずには生きていない。進化に取り残された種は、滅ぼされるのが運命であり自然の摂理だからだ。そして、能力者とは人間の進化形だった。ここまで言えば分かるだろう」
「だから、能力者以外は滅ぼされたって言うのか……」
「そうだ。誰かがやらないといけなかった。貧乏くじであったとしてもな」
「…………」
何も言えなかった。何も言う言葉が見つからない。
「だから、六王の血は全てを滅ぼされることなく、残っているんだね」
「そうだ。滅ぼす必要がなかったからな」
「だけど、何人かは死んでるよ。それも戦争以外でね」
ローリー博士がそう言い返していた。
「……戦争とは悲惨なものだ。父は狂気に憑りつかれたんだ。父は王たちを許せなかった。許すことが出来なかった。いつしか、自分を偽るために被っていた仮面は、本物になり、意味のない殺戮を繰り返し、そして……英雄王に撃たれた。それが……」
「まだだ、まだ終わっていないだろ?超越者とは何なんだい?」
そう言って、ローリー博士は身を乗り出して尋ねた。
その顔は必至な形相で、魔王に詰め寄っている。いつもの彼女らしさがない。
「スキルの中には、変身能力とは別に保有者を別の存在へと昇華させるものが存在する。そのスキルは、たった1つで複数の能力をもち、魔力や闘気といった別の力すら与える。それは、一言で言えば、次の進化への挑戦とも言えた」
俺の『セカンド・アイ』と同じ力だ。
「父は、何も全ての無能力者を滅ぼすつもりはなかったんだ。人為的な進化の研究もしていた。その結果生まれたのが、超越者と魔法少女という存在だ。そして、それはどちらも失敗したが、ある一定の成功をした。魔法少女は戦争で大活躍したし、英雄王という新たなる王を生み出した」
「なら、成功のように思えるけど?」
「無能力者を能力者にすることは出来なかったんだ。出来たのは、能力者により強い力を与えることだけだった。そして、その力で世界の半分以上を間引いたんだ」
「1つ教えて欲しい、魔王はどうやって超越者を作ったんだい?そんなことが可能なのかい?」
引き続き、ローリー博士が質問する。
「……魔法少女は、チャームリンクを使えば生み出すことが出来る。これは我が一族に伝わっていたことで、父が生み出したわけではなかった。父が凄いのは、魔法少女を魔女にしたことだ。そして、その研究の際に偶発的に生まれたのが、超越者だ」
「それは、分かったよ。でも、大事なのはどうやって超越者にするかだ」
「さあ、分からない。父はその方法だけは明かさなかった。知っているのは英雄王だけだ」
「ふふ……そんなに上手くはいかないか……」
それは見たことのない悲痛な顔だった。
ローリー博士は、人間の進化について研究していると言っていた。彼女にとっては重大なことだったのだろう。
ただ、それは置いておいて、俺にとって重要なのはこれからだ。超越者なんて俺にはどうでも良い話だ。
「魔法少女は、どうやって魔女にするんだ?」
「泰裕……それは、魔法少女を救いたくて聞いているのか?それとも魔女にしないためか?」
「さあ、分からない。俺は救う価値のないと思ったやつまで助けてやろうとは思わない。でも、いざ助けたいと思った時に、何も出来ないのは嫌だから、知りたいんだ」
「魔法使いを3人以上生贄に捧げれば、魔法少女は低確率で魔女に変化する」
「……3人」
「成功した魔女は5人だけだ……この方法ではな」
「え?」
魔王は意地悪く口を開いた。
「他にもっと安全で、誰も傷つけない方法が1つだけ存在する」
「その方法は?」
「……知りたいか?なら、嘘偽りなく1つだけ答えてくれ」
そう言って、魔王は俺の方に近づいてきてじっと俺の顔を見つめた。
「余が赤の他人であるお前たちに、ここまで情報を話しているのは、余の子孫を守ってくれたこともあるが、お前が余りにも父に似ているからだ。そのせいで少しだけ情が芽生えている……」
少し、迷ったように間を置いて魔王は俺に尋ねた。
「なあ、フェイカー、悪の仮面を被ってまで人を助けるのは何故だ?何故、そんな矛盾したことをする。お前はヒーローだったんだろ。なら、なおさら矛盾している。悪の組織に寝返ってまで、やっていることは人助けだ。理解できない。余が最後まで父を理解してやることは出来なかったように、あいつだけが分かっていたように……それだけが、心残りなのだ。お前たちは、その仮面の裏で何を見ているんだ?」
何を聞いているのだろうか?
「ヤス君は、ご先祖のお父さんじゃないよ。聞いても無意味だ」
ようやく調子を取り戻したのか、冷静になったローリー博士が助け舟を出してくれた。そう、俺が答えても意味のない問いだ。
だが、魔王はそうは思っていないらしく、ローリー博士を睨みつけながら口を開いた。
「魔法少女の助け方を知りたいんだろ?なら、答えてくれ、死人に口はない、だから、お前の答えで良いんだ」
迷いながら、俺は口を開いた。自分の答えを彼女に話すことにした。誰にも話すつもりはなかったが、きっとそうしなければ、彼女は救われないのだろう。
「俺が見ているのは、世界何てそんな大きなものじゃないんだ。ただ1つ、助けを求めている手だけを見ている……俺は魔王のように世界を救おうなんて思ったことは一度もなくて、その逆、世界から見放された人たちを救いたいと思っているだけだ」
「どういうことだ?」
「アンラッキー……だから仕方ない……また頑張れ。世の中はそう言うけど、当事者たちはどうだ。一度躓いたら、這い上がる機会なんて、よっぽど運が良くないとないんだよ」
俺はたまたまその機会が与えられた。皮肉なことに悪の組織で……
「ヒーローなら、そういう人たちを刑務所にぶち込むことしか出来ない。彼らを裁くのはヒーローではなくて、社会のルールという名の法律だからだ。もっと言えば、ヒーローが守っているのは、都合の良い善良な市民だけだからだ。社会というルールに縛られない悪でなければ、救えない人たちもいると知った。矛盾しているけれど、それが分かったから、俺は悪の組織で人助けをしている」
「それは……貧乏くじだぞ」
「そんなことないぞ。給料良いしな」
俺はそう言って笑った。自分が貧乏くじを引いたとは思っていないからだ。
「…………」
魔王は思うところがあったのか、考え込んでいるようで、聞こえないくらいの声量で何か呟いている。気に入ってくれると良いんだが……
「泰裕、生命の起源は何だ?」
「え?海だろ?」
それすら違っていたら、俺の中の常識は何も当てにならなくなる。
「そう、生命の起源は海だ。そして海とは水だ。その中でも特に特別な聖水を触媒にすれば、100%の確率で、魔法少女は魔女へと変わる」
「聖水……それって、つもり……」
「そう、温泉だ。温泉は世界を救うと思わないか?」
まさか、この魔王……




