第15話:ここはミステイク、悪の組織
ローリー博士の指示で下水道から出て、アジトである高層マンションの中に入った。そう我が組織は金があるので、アジトは高層マンションにあるのだ。それもマンションの一室何てちゃちなものではない。
このマンション全てが偽装で、このマンションそのものがアジトとなっている。
給料もしっかり出るし、ボーナスまである。おかげで、我が家の食卓におかずが1品増えた。
しょぼいと思ったかもしれないけど、ケチな俺がおかずを一品増やしたんだよ。これは凄いことである。後、部下である光や鳳凰院先輩に奢ってやれる余裕まである始末だ。
そんなことを思いながら、少女を背中に担ぎ。マンションのエントランスを進む。エレベーターに乗って、上の階まで進むことにした。ローリー博士の研究室はエレベーターで直通ではいけないので、30階で止まる。
30階は主に団欒の空間。個人の部屋はなく、大浴場などの共有スペースがあったりする階だ。偶に入りに来るが、俺以外に使う男はベルくらいなので、男湯は貸し切り状態でなかなか良い。夜景を見ながら入る風呂は露天風呂とは別の満足感を生み出している。
そのほか、ゲームセンターやフィットネス、洗濯機、大型の乾燥機、マッサージチェアが備え付けられている。
「ああああああああああああ」
そして、マッサージチェアに誰か座って間抜けな声を出しているのが見えた。あれは……銀子さんである。ホットパンツにタンクトップというエロいいでたちをしているが、近づかないようにしようと思う。あれは機嫌が悪い状態である。
マッサージチェアに座っているときは、いつも機嫌が悪い時だ。絡まれたら、非常に面倒臭い。
昔……といっても、そんな前ではないが、3Fのプールに魚を逃がして、魚釣り大会をしたことがある。俺は水を操れるので、結構簡単に催せた。なかなか楽しい会で、割と釣れたのだが、銀子さんだけは一匹も連れず、不機嫌だったのを覚えている。
ローリー博士が居なかったら、プールを吹き飛ばしていただろう。見た目はクールビューティーに見えるけど、仲良くなってくるとクールに装っているだけで、全くクールではないことが分かってくる人だ。外面が良いのである。
「なあ、ヤス」
スルーして、横を通り過ぎようとしたら呼び止められた。俺、荷物おんぶしてるし、下水に居て臭いから、早く彼女をローリー博士のところに届けて、風呂入りたいのだが……
「何ですか?」
面倒くさいが無視することも出来ないので、返事した。
「彼女に家にお呼ばれしたんだがな」
何、カミングアウトしているんだ?別に慣れたので驚きはしないけどさ。
「終始不機嫌で、まあ怒った顔も可愛かったんだがな」
じゃあ良いじゃないか?それとこれは恋愛相談なのだろうか?女同士の恋愛なんて、俺には分からないぞ。この前教えてあげた、クッキーの作り方みたいなノリで聞かないで欲しいのだが……
「どうも弟が家にいなかったのが原因らしくてな。約束をすっぽかしたらしんだ。私はその弟を殺してやりたいんだが、どうしたら良いと思う」
「え?どうもしたら駄目でしょ」
馬鹿なの?
「何故だ?私はこんなに怒りを覚えたのは始めてだ」
「弟なんてそんなもんですよ。姉の言うことなんて聞きません。年ごろだったらなおのことです。そいつが兄貴だったら万死に値しますが、弟なら仕方ない」
「ぐぬぬ……確かに私は不殺を掲げているからな。でも、半殺しくらいならセーフだよな?」
話聞いてたのかな?
「その弟が傷つけば、姉が悲しむんじゃないんですか?兄弟なんてそんなもんです。悲しい顔が見たいなら、半殺しでもなんでもすればいいんじゃないで……」
そんな盲点だったみたいな顔されてもな。
「これがハリネズミのジレンマというやつか」
……違うと思うけど、黙っていよう。
「しかし、私は上手くいっていないのに、お前は女の子をお持ち帰りしてきたのか?」
「言い方!」
確かに、腹パンして持って帰ってきたけど……事実をエロい方に捻じ曲げないで欲しい。事実も碌でもないのだけど。
「全く、うらやまけしからんやつだな……ああ、何かイライラしてきた。ちょっとつまみ食いさせてくれないか?」
「…………」
そんな決め顔で言われても……あんた、女なら誰でも良いのかよ?
「駄目です」
「良いじゃないか、別に減るもんじゃなし」
俺の身体に密着してくる。チラチラ胸元が見えている。ヤバいって……決して大きくはないのだが、形の良い銀子さんの胸が見える。何でブラつけてないんだ?
「黙って、私にセクハラさせろ」
久しぶりに登場したと思ったら、そんなキャラ崩壊で良いのか?
「ヤス君……後、銀子ちゃん」
「アルル」
そこにやってきたのは、アルルだった。
「……私にセクハラしようなんて、君は本当にエッチだな……キリ」
「は?」
いや、お前が言ったんだろうが?
今さらキャラを作っても遅いと思うんだが、後、自分で「キリ」って言ったよな。
「言ってない」
心を読むな。無駄に達人芸を発揮しないで欲しい。銀子さん曰く、武術の達人は相手の心の8割方が分かるらしい。
そんなことを考えていると、銀子さんに耳を掴まれて、小声でささやかれる。
「師匠命令だ。私のキャラを守ってくれ」
……もうバレていると思うのだが、銀子さんはローリー博士以外の女の子には良い顔をしようとするからな。
ため息を吐きながら、俺は背負っていた少女をアルルに渡した。
「持っててくれ」
「どうするの?」
俺は銀子さんに近づいていく。
そうすると銀子さんは後ずさるが、遂に壁まで追いやられる。
「ヤス?」
そんな不思議そうにしている銀子さんの後ろの壁に思い切り手のひらを叩きつけた。所謂、壁ドンというやつである。
「俺の女になれ」
「え?え?」
何で、恥ずかしがってるんだ。やった俺の方が恥ずかしいんですけど……
「俺がせっかくセクハラしてるんですから、演技してください」
俺は小声で呟くと、いつの間にか身体が宙に浮いて床にたたきつけられた。と言っても、かなり手加減してくれているのが分かる。組み手の時より、かなり優しい衝撃だ。大して痛くもない。
「……という訳で、こいつは女と見ると見境がないから、アルルも気を付けるんだぞ。私を口説こうなんて後3年早い」
微妙な数字だ。3年後は口説いて良いのか?
「ああ……うん」
銀子さんはアルルから引かれていた。身から出た錆なんだけど、こんなんでも師匠なのは変わりないし、ちょっと可哀想である。
「ヤス君、私はローリーちゃんに、茶番は放っておいて、この子を早く連れてくるように言われてるから、先行ってるね」
「ああ、ありがとう」
俺の言葉とともに、アルルは少女を連れて行ってくれた。
「ふー……何とか誤魔化せたな」
茶番って言われてたじゃん。たぶん、ローリー博士が監視カメラで見ていて、アルルを寄越したのだろう。基本的にプライベートスペース以外には監視カメラが設置されている。
「……良かったですね」
「ああ、ありがとう」
俺が気のない返事をすると、満面の笑顔で返してきた。その笑顔はズルいと思うのだけど……3年後に期待して良いのか?
「これは、貸しにしておくよ。何かあったら私を頼ると良い」
「……別に良いですよ。俺は銀子さんの部下ですから」
「……じゃあ、またフォローを頼む」
「またやる気ですか?」
本当、残念美人だな。黙っていれば、どこかの国の御姫様に見えるのに、口を開くとポンコツである。まあ……亡国の貞淑な淑女よりも、銀子さんみたいな人の方が俺は好きだけど……
銀子さんと一緒に、31Fにあるローリー博士の部屋兼ラボに向かう。
30Fには隠しドアがあり、それを開くと上に行く階段が現れる。それを登っていくとローリー博士のラボに着くわけだ。
「おかえり、青田泰裕」
「蘭?」
ローリー博士のラボに着くと蘭がいた。
否、明らかに少女の雰囲気が今までのものとは違っていた。重苦しい魔力を感じる。これは……
「お尻がキュートで、私好みだ」
銀子さんが小声で呟いた。
少しは心の声を口から出すのを抑えて欲しい銀子さんのことは、今は放っておこう。
「蘭……否、余は魔王である」
ああ、やっぱりあのドームで感じたものと一緒だった。あの時と違って光オーラは発していないが、魔王が表に出てきているようだ。




