第13話:魔法少女と魔法使い
「警戒しているね」
「…………」
少女の言葉に無言で返す。
時間がなかった。『セカンド・アイ』の有効時間が切れる。このまま無理に発動させ続けることも出来るが、秒刻みで体調が悪化していく。この能力は神通力と違って、燃費が良い訳ではないのだ。
「警戒したところで、君に切れるカードはあるのかい?」
余裕という訳か?だが、その通りだ。戦力の差は歴然だ。
そのため、一か八かあれをやることにした。
俺は石化能力を発動させる。
この能力は必殺だ。効かない訳がない。
少女の前に飛んでいた八咫烏が巻き込まれるように、石化して地面に落下していく。
それを見て、少女は……
「へー」
確かにそう一言だけ、呟いた。
……そして、エネルギーがぶつかり合うようなバチバチという独特の衝撃音が響く。
「良いカードを持っているんだね」
少女は何事もないように笑うのだった。綺麗な笑みなのだろうと頭で理解できても、心の方はそうでもない。薄気味悪くて仕方なかった。
そして、目に激痛が走り『セカンド・アイ』が解除される。解除された瞬間、脳が茹で上がるような高熱にさらされる。まともに立っていられずに、地面に手を付けた。解除された瞬間から急速に身体は熱を排出するように、煙がでている。そういう風になるように、俺の身体は作り替わっているのだ。
「もう限界なのかな?体力ないな」
そう言って、少女は嘲るように笑った。
それを見て、少女の隣のフードが口を開く。
「ボス、私がやってこようか?」
その言葉に、少女の雰囲気ががらりと変わった。
「今、私と三ツ星君が話しているんだ。どうして、お前が話に入ってくる?」
早かった。フードは信じられない土下座のスピードで頭を下げた。
「申し訳ございません」
「ごめんね。三ツ星君」
少女はその土下座を一瞥することすらなく、何故か俺に謝った。
俺とお前の会話なんて、一度も成立していないだろと突っ込んでやりたいが、今は止した方が良いだろう。今は、少しでも体調が回復する時間が欲しかった。
仮に俺が全快で、1対1でも勝てない相手だろうと、一度守ると誓ったのだから、何があっても立ち向かっていかないといけない。
「お前の目的は何だ?」
一番会話が長くなりそうな言葉を選んで、会話をふる。
「魔王の血を引くもの、そして、今は君もかな」
「俺も?」
どういうことか、分からなかった。俺もターゲットだと彼女は言う。
「君は、この世界に魔法を使うものが大きく分けて3種類いるのを知っているかい?」
「3種類?」
知らない。
「知らないみたいだね。1つは魔術師、2つめに魔法使い、3つ目に魔法少女だ。魔術師は、杖や呪文などで、魔法を操るもの。彼らは魔力をもっていないんだよ。その反対が魔法使い、彼らはそんな道具を使わずに、生まれつき魔力を持っていて、魔法を使えるものだ」
ここまでは、俺でも知っている。だが、少女は3種類にわけられると言った。それなら魔法少女は何なんだろうか?俺はコスプレした魔法使いくらいの認識しかなかったぞ。
「そして、3つ目の魔法少女は、悪魔と契約して魔力を得たものだ」
「悪魔?」
悪魔と聞いて、サタンを思い出したが、あいつらは自称悪魔で元は人間だ。悪魔とは想像上の生き物でこの世には存在しない。
「知らないようだね。ヒーロー本部は、情報を極端に統制しすぎている」
「なら、この世に悪魔が存在しているとでも言うのか?」
「この世にはいない。だが、この世の外に悪魔たちが生きる世界が存在している」
「……ありえないことだ」
「ありえないだって、数百年前の人たちに今の時代の話をしたら、きっとそう言うだろうね。スキルだって、今は誰でも当たり前になったけど、数百年前ではありえないことだった。時代は常に移り変わる。そして、今が時代の分岐点なんだよ」
そうかもしれないという、説得力があった。今でこそ当たり前のスキルだって、昔は使える人間の方が少なく、想像上の力だとされていた。だが、今では研究され、その仕組みが解き明かされつつある。
「悪魔と契約した人間は、魔力を得て魔法少女になる。しかし、魔法少女とは儚く散る花弁のような存在だ。その身体は悪魔の器として書き換えられるが、超越者でない人間にそんなもの耐えられるわけがない。寿命は極端に短くなり、成人まで生きることが叶わない。ゆえに魔法少女」
あの子もそうなのだろうか?
俺はこの前ドームであった、魔法少女のことを、何故か思い出していた。あの子も寿命が短いのだろうか?
「そして、悪魔の器には少女しかなれない。何故なら、悪魔に女の子しかいないから。ああ、何と素晴らしい悪魔かな」
タキシードが突然興奮気味にそんなことを呟いた。全く空気を読めないやつである。
こいつも叱責をうけるのかと思ったが……
「……悪魔の器には少女しかなれない。無理に男がその器になろうとすると、その姿は醜悪な化け物に変わる。7つの大罪のサタンのようにね」
タキシードは華麗にスルーされていた。しかし、そんなことよりも、その話が本当なら、サタンは魔法少女カテゴリーになるじゃないか、あいつおっさんの癖に、魔法少女だったのか?衝撃の真実である。
「サタンもこういうリングを嵌めていただろう?」
「…………」
そう言って、彼女は左手の薬指にはめられたリングを見せた。
正直、サタンのことなんて、あんまり覚えていない。嵌めていたと言えば、嵌めていた気がするし、嵌めていなかったと言われれば、嵌めていなかった気がする。
「これは『チャームリンク』というものだ。悪魔との契約の証さ」
「つまり……」
「そう、私も魔法少女だ。成人まで生きられない」
「…………」
何と言って良いのか分からなかった。
もしも、彼女が死の運命に抗おうとしているのならば、俺はそれを踏みにじらないといけないかもしれない。
「魔法少女の運命は決まっている。悪魔に器として身体を取られるか、悪魔を食い殺し魔女となるかの2択だ」
「魔女になるのが、お前の目的か?」
「違うな。それは手段でしかない。魔女になって私はこの世界を創り変える。魔法少女ですら、神のような力があるんだ」
そう言って、彼女は手のひらを天に翳す。そうすると、その手の平に良く分からないアメーバ―状の生き物が現れた。その生き物は細胞分裂を繰り返し、あたかも母親の子宮の中で、何万年もの進化をとげる胎児のように、その姿を変え、1つの新たな生命として産声をあげた。
「魔女になったら、どれほどの力が手に入るか、世界すら支配できると思わないかい?」
彼女の手から産まれた八咫烏が天を舞った。
命を作ったのだ。それは彼女の言う通り、神のような力かもしれない。でも……
「ふっ」
鼻で笑う。世界征服だと?
「魔女になったところで、トップヒーロー達に勝てるとは思えないぞ」
魔女だろうが、人外の化け物中の化け物であるトップヒーローに敵う姿が想像できなかった。それほど、この世界のトップは絶対的な存在であり強い。
「……君の言う通りだ、。魔女になったところでトップヒーローには勝てない。現にトップヒーローの中に魔女がいるからね」
「なっ、だったら……」
「だからこそ、君や魔王の血を引くものが必要なんだ。この全てのリングに眠る悪魔を食い殺し、私は魔女になりたい」
そう言って、彼女は右手だけしていた手袋を取って見せた。その指全てにリングが嵌められている。左手と合わせると計6個のリングだと。
「……そのためには魔法使いの力が必要なんだ。魔法使いとは、悪魔を狩る一族の末裔だからね。その最たるものが魔王だった。魔王は何人もの魔女を生み出し、従えていたと言う」
「……だけど、魔王は英雄王に負けたぞ」
「でも、この時代に英雄王に代わるヒーローはいないだろう」
確かに、数百年たっても、英雄王を超えるヒーローは現れていないとされている。英雄王はヒーロー本部を作った張本人であり、俺達ヒーローの始まりの始祖であり、今でも最強と言われている存在だ。
生涯無敗だったと言う。
「あんな存在は、二度と生まれて来ないさ。ゆえに、私が天に立つ。そのために、君や彼女のような魔力を持った存在が必要だ。君、私の仲間になれ」
そう言って、少女は絶対的な力を背景にして俺に手を差し伸べた。
その姿はかつての銀子さんの姿に被って見えたが、あの時と今の俺では違う。今の俺にはたしかな信念がある。どんな力にも屈しない、自分を持っている。
「世界征服何て興味ないんだよ。バーカ」
十分な時間は稼げた。2回戦と行こうじゃないか。今の俺はあの時の俺と違って仲間がいることの大切さを良く理解している。




