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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
宿敵は魔法少女!?~魔法戦争開演~
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第12話:月下の銀影

 外に出ると、夜風が頬を撫でた。

 風が飛ばしてくるこの匂いは……血だ。血の匂いがする。


「……行儀が悪いやつがいるな」


 心のざわつきを抑えるために、そう呟きながら仮面をだして、それを顔にもっていった。


「コンプリート」


 そう電子音が鳴り響き、ヒーロー三ツ星が完成する。仮面は血の匂いを抑えてくれた。正直助かる。血の匂いは好きじゃない。いつも悲しい匂いがするからだ。

 耳をつんざく悲鳴の音が遠くから聞こえてくる。本当に行儀が悪い、ここで助けにいくのはナンセンスかもしれない。ここにいた方が確実に対処できる。相手は俺を誘っているのかもしれない。作戦かもしれない。でも、こんな状況で行かないのなら、ヒーローではないだろう。例え、偽物であったとしても。

 

 俺は悲鳴がするほうに駆けだした。

 ……そこにあったのは、気色の悪い血だまりだ。そこに申し訳ない程度に人間の形をした肉塊が転がっている。人間の気配はもうどこにも感じられなかった。そう人間は……そのさらに先には人間ではない3メートルほどの毛むくじゃらがいる。

 一瞬で理解できた。こいつがやったのだ。


 躊躇いはなかった。言葉を聞くきもなかった。二丁拳銃をぬいてそいつの心臓と頭をめがけて発砲する。

 雷音が轟いた。雷の弾丸がそれにめがけて飛んでいく。当たった、そう確信があった。しかし……


「なっ」


文字通り消えたのだ。速い。フェイカーのトップスピード並みに速いかもしれない。


「何だ?……てめぇ」


 そいつは睨んでいた。狼。それも人型のでかいやつ。

 文献の資料で読んだことがある。狼男だ。コレクターズにはこんなやつもいるのか。これは怪我するなと言うのは無理な話である。狼男なら、満月の日に一番力を発揮する。そして、今日は満月だ。


 体毛がキラキラと月の光を浴びて銀色に輝いている。この状態になった狼男は、凶暴性が増して腹がへり血に飢える。そして、運動性能が2倍以上に跳ね上がるのだ。笑えるだろう。そんなやつが5匹いるんだぜ。

 一体どうやって、作っているのだろうか?ドラゴンと言い、過去の魔法実験で作られた生物が、本から飛び出してきたかのように揃っている。ドラゴンは分かるが、狼男はとっくに駆除されたはずだ。


 もしかしたら、フルセットがいつか見れるかもしれない。


 俺は気配を感じて、2丁拳銃をぶっぱなすが、そこには既に影しかなく、マンホールが代わりにぶっ飛んだ。

 俺を見下ろすように、狼男が5体。人の家の屋根の上に集まっている。屋根が乗られた衝撃で少し壊れている。嫌な奴らである。


「人間風情が何のようだ?」


 これはどうやら、俺に話しかけているようだ。


「獣風情が、人間のような口を聞くんだな?」

「何?」


 ドスの効いた声が響き、安い挑発に抑えきれなかったであろう、一体が飛び出した。夜の暗闇とスピードのせいでまるで動きが見えない。かろうじて分かるのは独特な歩行術で、徐々に徐々に気配を殺しながら、近づいてきていることだけだ。

 狼男たちがにやにやと笑っている。それを睨みつけながら、一体の狼男だけが腕を組みながら、俺のことを値踏みするように見ているのが分かった。

 そいつだけは、銀ではなく白い体毛が月の光を受けて金色に発光している。こいつが群れのボスだろうと確信めいたものがあった。


 そんなことを考えていると、狼男がすぐそこまで迫っていた。いい加減うざいな。

 大きく足を上へと蹴り上げる。何も難しいことではない。あちらから来るのなら、カウンターの要領で、蹴りつけてやるだけだ。

 見えないなんて大した問題ではない。大事なのはタイミングだ。タイミングくらいなら、相手の気配さえ読めれば、掴めるのは必然だ。


 何もない空を蹴ったのに、びっくりすることに足には確かな感触があった。狼男は、蹴り飛ばされて、誰の家かもわからない塀に激突する。

 

「…………」


 3回に1回できれば良い芸当がここで起きたのだ。銀子さんの言ったとおりである、やってみるものである。実戦でしかつかめない感覚というものが確かにあった。

 何度も何度も戦闘シミュレーションをやったが、あの時よりも間違いなく今がピークだ。


「よくも……」


 空気ががらりと変わった。俺を侮る雰囲気が毛ほどもなくなり、狼男が今にも襲い掛かろうと、動作に入っている。怒るのは良いけど、でもな……俺も怒っているんだよ。


「馬鹿め、止めろ」


 金狼が吠えた。

 やはり、やつがリーダーの用で残りの3体が動きを止める。


「コンビネーションだ。連携すれば相手は1人だ。苦戦する相手ではない」

「……ジェネラル」


 金狼はジェネラルと言われている様だ、犬畜生には大それた名前だな。

 だが、嫌なやつであるのは間違いない。こちらがやられたら一番嫌なことをしてくる。今着ているスーツはフェイカーのスーツではない。耐久性に難がある。そのための飛び道具であるが、こいつらレベルで速いと、簡単に当たるものではない。


 4体がばらばらに別れた。

 動きは相変わらず見えない。「落ち着け」と心の中で呟く。冷静な思考ができないと戦いには勝てない。戦闘で一番大事なのは思考力だ。


 相手は4体で、俺は1人。目的達成のために蘭のところに一体でも向かわれたら、ここでの勝敗に関係なく負けであったが、向かってきているのだ。

 そうこれは最悪な状態ではない。むしろ俺に分があると読む。目を閉じる。敵の気が変わらないように一瞬で終わらせる。生徒会の2人が居なくてよかった。何も気にせずに心置きなく暴れられる。 


『セカンド・アイ』


 能力を発動させる。今なお進化するこの力。最初は透視の力しかなかったが、今は発動とともに、俺を人間ではない存在へと引き上げる。全身の血が沸騰するようだ。否、実際は人間の体温を越えているのだから、その表現は間違っていない。

 闇夜でもはっきりと見えた。これも進化した力の一端であるが、一番はそこではない。力が噴き出す。本来持っていない魔力や闘気などの力が俺に宿る。


「ようやく見えたな」


 爆発的に基礎スペックが上がった。しかし、それにもデメリットがある。身体がもたないのだ。頭痛と強烈な目眩が後で襲ってくるだろう。目も使えなくなる。それを無視して使い続けると、俺は人間に戻れなくなると、ローリー博士が言っていた。

 人ではないものに完全に変わってしまっては、戻りようがないのだ。目の前の狼男は変異の能力でああなっているので、能力を解除すれば元に戻るだろう。だが、俺の能力は変異能力ではない。


「待て」


 俺の変化に、ジェネラルが仲間を静止させるが、既に俺の傍まで詰めていた、奴の仲間は止まることなく襲って来た。


 前から、並んで2人。上から1人が落ちてくる。前の奴を処理したら上のやつが俺を仕留め、上のやつを処理したら、前のやつが俺を襲ってくるだろう。横や後ろに躱しても、後ろのやつが詰めてくるだろう。三位一体といったところか?


 俺は目の前に迫る狼男の爪を躱して、飛び膝蹴りで狼男を上へと蹴り上げた。上からくる爪が蹴り上げた狼男の背中に深々と刺さる。


「死ね」


 後ろに控えていた狼男が、全く意に介すことなく爪を振るう。馬鹿め。

 この距離でどうやって俺の銃弾を躱すんだ?


 爪の生えた恐ろしい腕を掴んで止めて、ゼロ距離で雷の弾丸を撃ち込む。


 雷音が再び轟いた。

 狼男の身体に大きな風穴があいた。

 

「お前?」


 上からきていた狼男が距離をとる。しかし、逃がさないぞ。スピードはお前らの専売特許ではもうない。その動きに着いていった。否、凌駕した。

 銃口を向ける。


「終わりだ」


 雷音が轟いた。それは敵の断末魔をかき消す。


「化け物め」


 ジェネラルと言われた狼男は、俺を見てそう称した。俺なんて可愛いものである。銀子さんにローリー博士は俺の比ではない。銀子さんには良く稽古をつけてもらうが、いつもボコボコにされるし、ローリー博士のサタン戦でみせた圧倒的な力には、全く追いつける気が今もしていない。

 だからこそ、実感できなかったが、強くはなっているらしい。


「逃げないんだな?」


 俺は最後の狼男に向かっていた。既に戦意を喪失している。


「食うか、食われるかそれが世の掟だ」

「あっ、そう」


 容赦する理由がない。銀子さん直伝のハイキックで止めを刺すべく足を上へと蹴りあげた。


「諦めたら、そこで人生終了ですよ」

「!」


 ……変態タキシード野郎。

 俺のこの状態でのハイキックがやすやすと止められる。糞、どこから現れた?警戒していたはずなのに、突如として現れたのだ。魔法の力だろうか?


「21」


 ジェネラルがタキシードのことを21と呼んだ。


「あは、君ってスペシャルなのかな?」


 さらに、もう1人……否、囲まれているな。

 その数は30と言ったところか?雑魚がぞろぞろとと言いたいところだが、いる……別格の魔力をもっているやつが1人。この状態になると魔力が読める。


 数十匹の怪鳥八咫烏が飛び回り、天空にはドラゴンが3匹。21とジェネラルが傅きながら、それは複数人のフードの集団を引き連れて現れた。フードの集団からも魔力を感じる。だが、中心にいる人物は別格だ。俺の2倍、否3倍の魔力量を内蔵している。

 銀色の髪に、銀の瞳。銀子さんと比べても遜色ないだろう。月下美人を思わせるあでやかな美少女が、銀子さんとは別の色香を放ちながら、現れたのだ。


 それは、あのヒーローショーの会場でみた最後まで歌っていたアイドルの少女だった。


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