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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
宿敵は魔法少女!?~魔法戦争開演~
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第11話:縮まる距離感

 俺は魔王の血を引く少女と契約した。1ヶ月間、何があっても守り抜くと、だから、当然一緒に家に帰ることになる。別に女の子の家に上がり込んで、あわよくば如何わしいことをしようなんて、毛ほども思っていない。

 今の俺はヒーローだからな。だから、そんな警戒されると傷つくのだ。


 蘭はチラチラとこちらを見るものの、一言もしゃべらない。数十分間くらい無言が続いている。どっか行きたいけど、付かず離れずついていくしかない。護衛とはそういう仕事だからだ。

 俺から話しかければ良いかもしれないが、困ったことに何を話をしたら良いか分からない。俺の周りには普通の人間がいないので、普通の話題が思いつかない。


 最近した会話と言えば。ローリー博士とガジェットの話で盛り上がったし、銀子さんとは美しい右ハイキックの打ち方を延々語り合った。鳳凰院先輩とはお茶の淹れ方とか、時事ネタなど、光とはゲスい話しかしてない。頼りの一般人枠の美涼はヒーローの話ばかりだ。そういえば、今日は女友達連れてくるから、一緒にご飯食べようと言ってたっけ……帰れないと言ったら、怒るだろうな。


「あの……」

「…………」

「呼んでるんだけど」

「え?」


 何て言い訳すれば、美涼が許してくれるか考えていると、喋りかけられていた。


「どうした?こんなところで立ち止まって」

「こんなところ……」


 何か傷ついた顔をしている。地雷を踏んだようである。俺、また何かやっちゃいました?


「ここあたしの家なんだけど」

「え?廃墟しかないが?」


 思ったことがポロっと出てしまった。

「…………」


 そんな顔するなよ、仕方ないじゃん。お化け屋敷みたいなアパートだぞ。俺は絶対住みたくないし、少なからず、アイドルやっている女の子が住んでいるとは思えない。


「……個性的な家だな」


 下手くそなフォローをいれる。


「良く言われるわ」


 無表情が逆に怖い。何か、どんどん嫌われていく気がする。第一印象は大事だと言うが、俺はそれが最悪だったし、好かれることは一つもしてないからな。どんどんマイナス評価が貯まっていく。

 別に強がりでもなんでもなく、好かれたいとは思ってないけれど、それでも1ヶ月一緒にいる相手なので、最低限、普通の仲を形成しておきたい。ただ、俺と言う人間は、お世辞を言ったり、ゴマを擦るのが得意ではないのだ。


 誰か助けてくれ。こんなギスギスしたところに居たくないんだ。家に帰りたいと思っていた時である。


「あらあら、蘭ちゃんじゃないの?」

「ママ!」


 ママ?その言葉の先には、買い物かごを持っている20代後半にしか見えないお姉さんが立っていた。とても中学生の娘がいるとは思えない。いくつの時に産んだんだ?

 その女性は、俺のことを値踏みするように見ていた。


「蘭ちゃんの彼氏?」

「かれ……ちが……○×△」


 何か、言葉にならない言葉を発している蘭。正直、面白い生物である。どうやら年相応の反応もするようである。いつも見た目に反して、大人なローリー博士が近くにいるので、感覚が毒されて麻痺していた。


「この人は、叔母様がいっていたヒーロー」

「ああ、楓ちゃんの言ってた」


 楓は、確か元理事長の名前である。


「てっきり、蘭ちゃんの好きなタイプに見えたから、彼氏かと思っちゃった」

「はー、あたしはアイドルよ。恋愛はご法度なの」


 素晴らしいプロ意識である。俺も、彼女を見習ってプロのヒーローとして振る舞おう。決して、面倒くさい訳ではないぞ。


「ヒーローの三ツ星です。娘さんを護衛することになりました」


 そう言って、頭を下げた。


「三ツ星?青田君じゃなくて?」

「ああ、本名は青田泰裕です」


 三ツ星は最近つけられたヒーローネームなので、元理事長から聞いてなかったのだろう。俺は本名を名乗った。


「三ツ星君って、呼んだ方が良いかしら?」

「ええ、出来ればそちらの方でお願いします」

「分かった、うちの娘を宜しくね三ツ星君。何なら末永く宜しくやっても良いわよ」

「ママ!」


 蘭が凄い剣幕で怒っている。俺はそれを微笑ましく見ていた。このママさんが、出て行った母親に少し似ていたからだ。懐かしい、そう感じてしまう遠い日の記憶。今もどこかで元気にしているだろうか?


「あなたも、笑ってないで何か言いなさいよ」


 蘭が俺にそう詰め寄ってくる。


「貰ってやろうか?」

「○#%&!」


 また、声にならない言葉を発する蘭。ママさんの気持ちが少し分かる。からかうと面白い子だ。


「もうしらない」


 そう言って、蘭はアパートの階段を上っていった。


「百瀬恵よ……あなたのことは友達の楓ちゃんからよく聞いてるわ。宜しくね」


 そう言って、恵さんは握手を求めて来た。俺はその手を素直に取る。良い人そうである。とてもあの元理事長の友達とは思えない。そもそも友達何ていたことが驚きだ。それがすごく気になった。


「よろしくお願いします。元理事長とはどういう関係なんですか?」

「同級生なの」

「え?」


 元理事長は、40近いか、超えていたと思う。ということはこの人も同い年と言うことになる。


「……私の顔に何かついてる」


 マジマジと顔を見過ぎた。しかし、皺1つないよこの人。化け物か?


「……お若いなと思いまして」

「まあ、お上手ね。娘とじゃなくて、叔母さんと付き合う?」


 ああ、やっぱりこの人元理事長の友達だわ。でも、まあ、元理事長の友達なら対応の仕方は分かる。


「恵さんが、後、10歳若ければ考えました」

「なかなか言うのね。流石、楓ちゃんの一番弟子かしら」


 学ぶことは多い人だったが、一番弟子とか不名誉過ぎて御免被る。

 

「娘1人、母1人でも狭い家だけど、自分の家だと思ってあがっていって」

「俺は、護衛なので外でも良いですよ」


 スーツを着ているので、外でも温かいし凍死する心配もない。家まで着いてきたけど、上がり込むつもりはなかった。


「何言っているの。上がりなさい。うちは貧乏だけどおもてなしくらいするわよ」


 しかし、恵さんに一蹴されてしまった。その瞳からは強い意思を感じる。断ることはできないだろう。まあ、上がるくらい問題ないので、上がることにしよう。

 決して、こういうお母さんタイプの人が苦手だからではないぞ。ただ、強く出れずに調子が狂うだけなのだ。昔のトラウマのせいだろう。


「荷物持ちますよ」


 俺は、買い物かごを恵さんから受け取る。


「私、身体が弱いから助かるわ。ほら、美人薄命っていうじゃない」

「そうですね」


 40近い人が何言ってるんだとツッコミをいれたいが、止めておいた。昔、元理事長が同じことを言ってたので、「1つも当てはまってませんね」と煽ったら、酷い目にあったのだ。

 俺は、あの日から大人の女性を煽ると碌な目に合わないから止めておこうと学んだ。


「ただいま」


 そう言って、恵さんがアパートの扉を開ける。中は案外綺麗かなと思ったが、まあ、外とそんなに変わらない。まあ、外観の割には綺麗くらいである。


「じゃあ、腕によりをかけてご飯作るからね」


 そう言って、恵さんが台所にむかって駆けていくが……


「あぶな」


 ひょろひょろと倒れてしまう。何とか体を割り込ませて、地面との激突を避けたが、下敷きにされる。


「ママ、どうしたの?」


 俺と恵さんは……抱き合った格好をしていた。決して、狙ってやったとかではない。俺にはそんなラッキースケベ能力はないし、もしそんな能力があるなら、銀子さんみたいな美人と起きて欲しい。


「何……してるのよ!」


 理不尽な暴力が俺を襲う!

ヒーローだけど、下敷きにされていたので素人の蹴りすら躱せなかった。


     *


「ああ、蹴られた頬が痛い」

「……さっきから謝っているでしょ」


 台所で、ふて腐れながら蘭がそんなことを言う。危なっかしい手つきで、野菜を切っている。俺はそれを後ろから眺めていた。


「ママが襲われていると思ったのよ」

 

 それが言い分らしい。俺、どんだけ女に飢えていると思われてるんだ。


「年中そんなことばかり、考えてるから、そういう穿ったものの見方しかできないんじゃないのか?」

「ッ!今度は刺すわよ」


 包丁を構えられながらだと冗談に思えない。そう言えば、理事長を煽ったときはナイフ投げられたっけ。

 しかし……


「お前、包丁の使い方が素人だな。お手伝いもしてこなかったのか?」


 煽るのを止めない。相手は理事長じゃないからな。やられた分はやり返すよ。護衛対象だから、手は上げられないからな。


「うちは貧乏で、ママが身体が弱いから、あたしが子供の頃から子役で稼いでるの。だから、こういう仕事は昔からママの役割で、あたしはやってこなかった」

「…………」


 突然、素直になられると困る。


「包丁の握り方はこうだ」


 だからという訳ではないが、俺も歩み寄ることにした。いつまでも大人げないことは出来ないからな。


「何を……」

「お前のやり方だと、手を切るし時間がかかる」

「温室育ちのボンボンみたいな顔して、料理何か出来るの?」

「当たり前だ。うちは両親居ないからな」

「え?」


 まあ、いないと言ってもどこかで生きてると思うから、死んでしまった訳ではないけれど、いないのは本当である。


「俺は温室育ちのボンボンなんかじゃないぞ。家は親のだけど、水道代も電気代もガス代も全部自分で稼いでる。食べ物も、着ている服もそうだ。ヒーローになったのも、自分でお金を稼げるのが理由の1つだしな」


 親父から、相当な額が毎月振り込まれている。でも、俺はヒーローになってから、その金に手を付けたことは一度もない。俺は、あの親父から施しを受けるつもりはないのだ。

 何故かって、嫌いだからだ。


「あんたも苦労してるのね?」

「苦労?お前は辛いのか?俺は辛いと思ったことはないぞ」


 俺にはたった1人の家族がいるので、辛いと思ったことは幸いにして一度もなかった。だから、苦労したと思ったことはない。


「ううん、あたしもないよ。ママのためなら頑張れるんだ。たった1人の家族だから」

「……じゃあ、料理の一つでも覚えたらいいぞ。ママさん喜ぶと思う」

 

 意外なところで共通点があるもので、助けてあげたいと少しだけ思った。それは、ヒーローにとって不要な感情だ。そう元理事長は良く言っていた。

俺もそう思う。ヒーローは感情に支配されてはいけないのだ。常に冷静でいないといけない。ヒーローが判断をミスってはいけないのだ。苦い記憶が蘇る。


 その後、2人で料理をした。といってもほとんど俺1人で作ったので、2人で料理したとはいえないかもしれない。だけど、蘭は普通に楽しそうに笑っていた。当たり前からしれないが、普通の女の子にしかみえない。とても、魔王の血を引いていると思えなかった。

 否、引いていたとしても普通の女の子には変わりないのだ。だから、血統主義者は嫌いだ。俺もトップヒーローの息子だから、ずっとそういう目で見られてきた。親父の才能の1割でも継いでいたら、俺はもっと強かっただろう。


「さあ、ご飯にしましょう」


 すっかり元気になった恵さんがそう言って、狭い家の1ルームに集まる。

 

「娘とは少しは仲良くなれた?」


 俺がおかずなどを運ぶとそう耳打ちされる。もしかしたら、全部演技だったのかもしれない。やはり、元理事長の友達だ。腹の中が見えない。

 でも、元理事長よりは黒くはなさそうだ。


「何話してるの?早く食べよう」


 蘭に呼ばれて、食卓に着く。何とも懐かしい3人の食卓。

 2度とこんな日は来ないと思っていた。

 俺のような悪党が言うのもおかしな話なのだが、これをぶち壊そうとしている悪の組織があることが許せなかった。


 食事が終わると、外に出てすっかり忘れていた電話をかけた。

 戻ると蘭はお風呂に行ったようでいなかった。狭い家なのでシャワーの音がかすかに聞こえる、恵さんは皿洗いをしていたので、手持無沙汰だったので手伝うことにした。


「あなたは良い子ね」


 皿洗いを手伝っていると不意に恵さんからそう言われる。


「流石、楓ちゃんが選んだ子だわ」

「俺はそんな大したものではないです」

「……三ツ星君は、魔王の血のこととか、あの子の父親のこととか何も聞かないじゃない。奇異な目を向けもしない」

「……普通です」

「その普通の人が、私たちの周りにはいなかった」


 皿洗いが終わり、恵さんは蛇口を閉めた。真剣な目を向けられる。


「たぶん、私は長くは生きれない。だから、あなただけはあの子の味方でいてあげて」

「…………」


 ヒーローに頼むことではない。ヒーロー何ていつ死ぬか分からない。そして、よりによって俺はスターズだ。今まで一年生き残った前例のない立場の人間だ。

 俺は誰かを幸せにすることなんて、出来ないだろう。悪党だ……だから……


「俺は、ヒーローです。いつ死ぬか分かりませんよ」

「あなたは、死なないわ。その手は、多くの人を救う手だって、楓ちゃんが言ってたもの。そして、私もそう思う」

「…………」


 手を取られて何も言い返せなくなっていた。

 俺は誰かを救いたかった。でも、俺の街は俺のせいで今死のうとしている。フェイカーやミステイクのせいで、人々が街から逃げて経済が死んだのだ。そんな俺の薄汚れた手が、多くの人を救う手だと言う。ほめ過ぎだ、買い被りも良い所だ。


「もう一度言いますが、俺はそんな大した人間ではないです」


 逃げるように、その手を振り払った。本当に調子が狂う。


「!」


 その時である。確かな悪寒が全身に走った。敵が来たことはそれだけで分かった。下品なほど殺気が込められている。隠す気もないようだ。


「どうしたの?怖い顔して」

「敵です。外に出て応戦してきます」

「……大丈夫なの?」


 心配そうに、恵さんは俺を見ていた。

 

「大丈夫です。ここにいてください。指一本触れさせませんから」

「違うわ。あなたは大丈夫なの?怪我しない?」


 ヒーロー相手に何言ってるんだこの人は……勝てるか勝てないかの心配をして欲しい。俺の体がどうなるかなんて関係のない問題だ。生きて戻ってこれれば、それで上等である。


「どうかしたの?」


 風呂上がりの蘭が現れる。俺の表情を見て親子そろってよく似た心配そうな顔を向ける。


「敵だ。ママさんと一緒に隠れてろ。俺が応戦してくる」


 そう言って、背中を向けて玄関に向かって駆けだそうとした。しかし……


「待って」


 そう言って、蘭に呼び止められる。


「何だ?俺は急いでいるんだ」

「初出撃の時はごめんなさい。私のために戦ってくれたのに……どうか、今度も怪我しないで」

「…………」


 何も言わずに無言で立ち去る。

 親子揃って、無茶な注文をつける。怪我するななんて無理だ。相手が格下なら前回同様に、どうにかなるかもしれないが、相手は格上だったら、それこそ玉砕覚悟で挑まないといけない。


 だから、敵と戦う時はいつも最悪な気分だ。いつも相手が格下であることを祈っている。楽に勝てるほど良いことはないからな。

 でも、そんな俺だけれど……今日は悪くない気分だった。


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