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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
宿敵は魔法少女!?~魔法戦争開演~
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第8話:それでもヒーロー?

 総督が悔しそうに唇を噛んだ。


「……疫病神め」


 そう吐き捨てる。その言葉に魔王の血を引く少女である蘭はピクリと反応する。その顔は何とも言えない絶望で歪んでいた。自責の念に交渉の材料とされた怒り、そして誰も助けてくれない悲しさ。

 その顔をしっかりと目に焼き付ける。もう目を逸らしてはいけない。この少女にこんな顔をさせたのは俺なのだ。腹を括った、覚悟を決めた。勝負するのはここだ。

 俺のような凡才が何かを得るには、リスクを負うしかない。俺はローリー博士ではないのだ。スマートに切り抜けることは俺には出来ない。


「ノースマンとナックルを出動させろ」

「果たして、勝てますかね?」

「黙っていろ。我が街には優秀なヒーローが揃っている」


 それは違う。こんな辺境にそこまでのヒーローはいない。いたとしても特区かヒーロー本部の方に転属になる。ヒーローは実力社会だ。強ければ出世する。ヒーローの地位は本来、その強さと比例して然るべきなのだ。

 だから、地方都市で一番強いのそこのトップになり、街の平和はトップに一任される。だが、どこの世界にも実力も実績もないのに出世するやつは出てくるもので、ヒーロー界でも例外ではない。目の前の総督や俺みたいなやつだ。

 ある男は金とコネにより、ある男は全ての責任を押し付けられた。


「ヤスさん」

「ヤス」


 鳳凰院先輩と光が俺を見ていた。俺の決断を待っているのだろう。トップとして言わなければならない。


「待機だ。俺が良いと言うまで絶対に戦うな」

「それで良いのですか?」


 鳳凰院先輩が問いかける。それは容易に俺の覚悟を揺らがせた。

 良いか悪いかなんて俺には分からない。無駄に血を流して、無駄に少女を傷つけて、無駄に信頼を失う結果になるかもしれない。でも、何かしないと何も変わらないんだ。


 偽物のヒーローは、偽物らしくしようじゃないか。


「命令だ。絶対に手をだすな。全ての責任は俺がとる」

「……分かりました。でも、あなただけ背負う必要はないですわ。私も背負います」


 鳳凰院先輩はそう言って、顔を染めてそっぽを向いて黙った。こういう時だけ素直なのはズルいと思う。


「俺は責任取らないからな」

「期待してないよ」


 こいつは何も変わらない。いつも通りだ。光が俺の肩に手を置きながらそう囁いたので、ため息を漏らした。こいつの使いどころはここではない。


 その後、3分もかからなかっただろう。歓声は悲鳴に変わり、振動がどんどん近いものになっていく。ドラゴンの鳴く声が聞こえるところを見ると、予想通りあの組織が来ているのだろう。


「総督、我が軍はほぼ壊滅です」


 傷ついたヒーローが一人部屋に入って来た。


「馬鹿な、3分しかたっていないんだぞ」


 信じられないという表情だが、地方にそんな強い戦力がいてたまるかという話である。普通地方都市は総督一強体制なのだ。

 そして、それは正しい。普通、Aランクの悪の組織が地方で暴れることなんて滅多にないのだ。


「増援を……」

「間に合いません。敵は目と鼻の先です」


 総督は部下にそう言われて、俺の方を向いたが、直ぐに悔しそうに唇を噛んで少女の方に向き直った。


「この少女を差し出せば。やつらも満足して帰るわ」


 そう言って、総督が蘭のもとに歩いていくが、俺はその手を取った。


「守るべき住人を、守りもせずにわが身大事で差し出すんですか?」

「黙れ、お前が言うな」


 全くもってその通りだ。俺も同じ穴の貉だよ。でも、狸は狸らしくしないとな。


「俺を頼って来た少女です。ヒーローとして何があっても守らないといけない」

「二枚舌が……その少女を狙って敵が来たぞ。それならヒーローとして戦ったらどうだ?」

「よその街ですので、越権行為になりますから」

「なら儂が許す。戦え」

「あなたは俺に命令できるほど偉くないでしょ?」


 総督はゆでたタコのように真っ赤になった。秘書の女性がそれを心配そうに見つめた後、軽蔑しきった目で俺を睨んだ。


「10億、命の値段として払ってください」

「それでもヒーローですか?」


 ついに耐えられなくなったのか、秘書の女性が俺に吐き捨てた。残念ながら、俺は偽物なんでね。俺は俺の正しいと思ったことをする。相手を選んで助けるんだ。それは正義ではない、悪だ。


「……私出て行きます」

「おお、行ってくれるか」


 『行ってくれるか』じゃないんだよ。俺はそんな資格はないが総督を睨みつけた。勝ち誇った面をしている。


「待て」


 今度は俺は少女の手を取った。もうひと押しなんだよ。


「やめろ、余計なことをするな」


 総督は少女を守る気は全くないらしく罵声を飛ばす。


「そこの総督が10億払えば、お前は助かるんだ。お前は黙ってここに居ろ」

「金さえもらえれば、あんたが助けてくれるって訳?嫌よ。あたしはあんたが大嫌いだもの。腐ったヒーロー、その穢れきった手を離しなさいよ。訴えるわよ」


 そうすれば良い?迷ったが、最後に出るのは人間性だろう。俺にはあの元理事長の教えが深く根を張っている。舐められたら負けだ。


「……そうだ、お前は俺の金づるだ。絶対に死にには行かせない」


 少女は俺の手を振りほどこうと暴れたが、その手をもう離すつもりはない。


「お前は屑だ。それでもヒーローか?」


 人から恨まれて、俺はこういう乱暴なやり方しか知らない。きっともっと良いやり方があるんだろう。皆、笑顔になるようなそんな選択肢がきっとあったのだろう。でも……


「10億。払え」


 このセリフとともに、大きな悲鳴が響いた。敵が近くまで来ているのが分かる。それは効果的だった。皆、余裕がない、パニックだ。


「お前の部下も死ぬぞ」

「あら、死ぬ覚悟くらいありますわ。これでもヒーローですわよ」


 光の口を押えながら鳳凰院先輩がそう言い放つ。結果的にそれがとどめとなった。


「くっ……分かった。払う」

「総督?」

「じゃあ、この書類にサインして小切手を切れ」

「なっ……そんなことしている場合か、こうしている間に犠牲は広がるんだぞ」


 知ってるよ。でも、契約で手を抜くような間抜けなことはしない。


「なら、さっさとやれ」


 そう急かされて、総督は嫌々サインをしだした。観念したのだろう……否!


「拇印を忘れるなよ」

「くっ」

「……最低、それでもヒーローなの……人の心はないの?あんたなんて死ねばいいのよ」


 隣で少女がそう呟いた。

 これから命がけで悪と戦いに行くのに、これでは悪役である。だが、俺に相応しいと言えば相応しい罵声だ。

 でも、俺は胸をはって言える。俺は俺の正しいと思うことをしたのだ。

 後ろ指をさされて行こうじゃないか……どっちみち俺は、誰かから感謝されたくてヒーローになった訳じゃない。結果的に救われる人がいるのなら、汚れ役で構わない。


「鳳凰院先輩、ここにいる人たちは任せました。守ってやってください」


 少女を無視して鳳凰院先輩にそう告げる。


「……分かりましたわ」

「光は、鳳凰院先輩を助けてやってくれ、後、くれぐれも死ぬなよ」

「任せろ」


 それだけ言うと、先ほど部屋に現れたヒーローをまたいで、外に向かう。急がないといけない。すると、足を掴まれた。


「止めろ。戦っても勝てない」

「それでも……」


 きっと戦って実力を正しく把握しているのだろう。Aランクは本来それだけの相手だ。

 俺はそのヒーローの手を優しく取って、足から離す。彼のようなヒーローは好きだ。


「それでも、戦うのがヒーローでしょ!」


 俺は懐ろから仮面を取り出して準備する。仮面を顔に装着した。


「コンプリート」


 そんな電子音とともに光学迷彩が解除され変形していく。スーツはとうの昔に着てきていたのだ。制服に擬態させていただけだ。相変わらず、ローリー博士の技術は凄い。


 フェイカーとは正反対の白銀の装甲。そして二挺拳銃。全く用途はないけれど、備え付けられているマント。やはりヒーローにはマントだ。予算がヒーロー本部からおりたので、自分専用にカスタマイズして用意した。

 シールド・ブルーだったときとは違う。あらゆる制限が解除され、トップヒーローのスーツと遜色がない。


 ただ、唯一不安なことを言えば、俺はこのスーツを着て実戦で戦ったことがないのだ。データだけ見れば、十分Aランクの悪の組織と戦えるはずだが、それでもフェイカーのスーツと比べて、性能が劣るし、スキルの制限もある。

 フェイカーと同じスキルを使っては、俺がフェイカーだとばれてしまうためだ。だから、勝てる可能性はあっても、確実な勝利など保証されていないのである。命がけだ。だけど、どうしてだろう?足は自然と前へと進んでいく。


「俺ならやれる」


 そう思ったことを呟いた。気分が高揚している。戦闘には無用なものなので、余り良い兆候とは言えないが、だが、怯えているよりは良いだろう。

 何度か命のやり取りをしてきた。それは良い思い出ではない。でも、俺の財産になっている。俺は強くなった。その実力がヒーローとしてどれほどのものか見てみようじゃないか。フェイカーとしてではなく、これはヒーローとしての再出発だ。かつての俺とは違うぞ。


「行くぜ」


 マントに3つの星が輝いた。それはスターズの証である星のエンブレムであり、3つ付いているのは、ヒーロー本部がそのヒーローにこう名前を付けたためである。

 

『三ツ星』


 後に、名前の通りの名声をえて、ヒーロー界の超新星と呼ばれることになる若きヒーローの名前である。しかし、その花々しい未来とは裏腹に、その初陣と言えば、後ろ指をさされて始まるという最悪なものだったと言う。

 後ろ指さされる等、とても不名誉でヒーローらしい初陣とはいえないが、逆境をものともしなかった、三ツ星とういうヒーローにとっては。実に彼らしい初陣であり、ヒーローとしての彼のキャリアはここから始まったのだ。


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