第7話:招かれざる客?
校庭にでると学校の専用車が停まっているのが見えた。鳳凰院先輩が読んでくれたのだろう。
車に乗り込むと、広々として迎え合わせの席に3人が座っていた。最近の車はよほど古い車ではない限り、自動運転がデフォルト実装され、運転席が排除されている。ちょうど、電車の回転式の席のように、向かい合わせで座れるようになっているのだ。
「遅い。行きますわよ」
鳳凰院先輩の声とともに、車のドアが開かれ乗り込むことになった。
俺の前の席には少女が座り、隣には光が座っている。鳳凰院先輩は少女の隣だ。なので、少女がちらちらと俺のことを見てくるのが分かった。
「何だ?」
「何でもない」
そう聞くと、少女はそう言って顔を逸らして、鳳凰院先輩の方を向いた。
「きっと顔が怖いんですわよ。人間性が出てますからね。心配しなくても、お姉さんが付いてますわよ」
コイツ……怒ってはいけない。最近分かってきたが、この女は思ったことをそのまま言うのである。オブラートに包むと言う言葉を知らないのだ。直情的な人間で、その上プライドが高くて、謙虚さがかけらもない。
……それに怖いのは俺ではなく、エメラルドグリーン色のお茶を振る舞った、お前だろうが。
「なあ、ヤス」
「ああん、何だ?」
最近、ローリー博士の影響で『ヤス』と呼ばれるようになった。何かヤスと呼ばれると下っ端みたいで嫌なので、イラッとする。
「俺達、どこに向かっているんだ?」
そう言えば、こいつ気絶してったけ……何で気絶したかは忘れた。
「隣町の支部に行くんだ」
「何しに?」
「この女の面倒をみせにだ」
俺がそう言うと、少女がピクリと反応した。
「お前、面識とかあるのか?」
「ねえよ」
「相手が断って来たらどうするんだ?」
まあ、当然の疑問だろう。3人とも興味津々の顔で俺を見てきているのが分かる。でも、俺はローリー博士じゃないんだ。プラン何てあるわけないだろ。馬鹿にすんなよ。俺が得意なのは事務仕事で政治は勉強中なんだよ。
「もちろん抵抗するぜ。拳でな」
「……ノープランということですね」
「暴力では何も解決しないんだぞ」
お前、そのセリフ覚えてろよ。
「じゃあ、お前ら何かプランあるのか?」
「…………」
黙りやがった。こんな時、グリーンか桃ちゃんがいてくれたらと思う。きっとどうにかしてくれただろう。
少女は失望を隠せない顔をしていた。
「当たって砕けてみましょう」
それ駄目なやつだぞ。鳳凰院。
「閃いた」
光が何か言い出した。
「言ってみろ」
「人質とって脅そう」
ため息が出た。悪の組織かよ。まあ、俺は悪の組織の一員なんだがな。
「誰を人質に取りますか?」
嫌、乗っては駄目だろ。俺達ヒーローだよ。
「あの……あなたたち、本当にヒーローなの?」
言われちゃったじゃないか。誰かフォローして……そうだよな。お前ら無能だもんな。助けてよローリー博士。
ここはラブコメで良くあるあれをやるしかない。
「zzz」
寝・た・ふ・り。
「何、やってるんだ起きろ」
「は?何か言ったか?」
「えっと……」
完全にドン引きした顔しているんだけど、現実じゃ使えないな。
「あなたたち、もしかして……」
止めろ。言わないでくれ。
「ポンコツなんじゃ?」
「…………」
あのNOマンの2人も、何も言い返せずに下を向いていた。
「素数を数えましょう……1、2、3、4」
鳳凰院、何ポンコツ晒してるんだ。ばれるじゃないか……もう、ばれてるけど。
お通夜のような空気で、車は隣街のヒーロー支部に到着した。
普通、街には一つはヒーロー支部がある。支部は大きく分けて2つの種類があり、堂々と看板を掲げているものと、うちの街のように秘密裏に存在している。
今回行く方は、堂々と看板を掲げている方だ。普通、9割方が看板を掲げている。秘密裏に存在しているヒーロー支部は、余ほど安全で、重要施設のない地域にしかない。
「行きますわよ」
ポンコツと言われて、ダメージを受けている鳳凰院先輩の後ろに続きながら、4人で支部の中に入って行く。
儲かっているのか、立派な支部である。羨ましい。うちは校舎を修理したばかりで、あんまりお金ないので、分けてもらえないだろうか?
「すいません、総督に会いたいんですけど?」
基本的に、その街のトップは総督と呼ばれている。俺はスターズの一員なので、そんなカッコイイ役職ではない。
「……はい?」
受付のお姉さんから、こいつら何言ってるんだという顔をされた。まあ、普通そうだ。
「大丈夫なの?本当にあっってもらえるの?」
少女は俺たちのことを舐めきっている様で、会ってもらえないのではないかという顔をしている。そこまで権限低くないからな。
「スターズの青田です。総督に会わせてください」
俺はIDカードを提示する。
「え?」
受付のお姉さんはカードをまじまじと見ていた。偽札かチェックしているのかのように透かしまでしてカードをチェックしている。否、透けないからな。
「た……大変失礼しました。スターズの青田様ですね。今すぐ、総督に取り次ぎますね」
受付のお姉さんの態度がガラッと変わった。お仕事見学に来た学生かと思ったら、社長の息子だったくらいの変わりようだ。
「青田様、大変申し訳ないのですが、総督は予定がありまして」
「空けるように言ってください」
「しかし……アポもなく」
「俺がわざわざ出向いてきてるんですよ。帰れとでも?」
お姉さんには悪いけど、ここで帰るわけにはいかない。俺の名誉を挽回し、汚名を返上しないといけないのだ。それに、そのくらいの権限が俺には本当にあるのだ。
ここで職権を使わないでどうする。
「確認しますね」
そう言って、受話器に向かってお姉さんが何かもごもごと言っている。全てが聞き取れるわけではないが、俺は耳は非常に良いのだ。ヒロインが告白して来たら絶対に聞き逃さないぜ。
まあ、追い返せという言葉が聞こえてきていた。
「変わってください」
そう言って、お姉さんから無理やり受話器を奪い取った。
「スターズです。青田です」
「総督の秘書をやっている……」
「そうですか……あなたでは話にならないので、総督をだしてください」
秘書と聞いた時点で、話に割って入った。秘書と話している暇はない。
「失礼ではないですか、アポもなくやってきて」
ムッとした声で、秘書の女性がそう答えた。全く持ってその通りだ。でも、俺たちは子供だ。1度でも下手にでたら足元を見られる。人の善意を信じない訳ではないが、信じて行動するほど馬鹿でもない。コイツ、ヤバいくらい思わせておく必要がある。
元理事長も良く言っていた。舐められるな、舐められたら負けだと。お利口さんにしてても何も良いことないのだ。
「失礼?それはあなたの判断ですか?」
「どういう意味です?」
「俺の階級は総督相当官です。失礼ですが、俺に意見して良いのはここでは総督だけでしょ?だから、総督を出せと言っているんですよ。もう一度言いますね。あなたでは話にならないんですよ」
「……私にも上層部にコネが」
ヒーローがコネだ?そんなもん糞の役にも立たないんだよ。
「それがどうかしたんですか?言ってみろ!」
「失礼しました。総督に取り次ぎます」
俺の剣幕にビビったのか、秘書のお姉さんも態度を変えた。
それにしても、やはりな。総督に話もしていなかったか……お役所はどこもそうだ。急に来ても会ってくれない。総督にコネもないし、こうするしかなかったのだ。
たらい回しにされるなんて良くある話だ。
「総督がお会いするそうです。最上階にどうぞ」
5分ほど待たされて、秘書から遂にその返答を勝ち取った。
「会ってくれるってさ」
「でかした!」
「誠意が伝わったようですわね」
「あんたたち、本当にヒーローなの?」
「ヒーローさ、他に何だと言うんだ?」
少女の言葉にそう返す。
「ヤクザよ」
俺は失笑した。
「ふっ、街を守る良いヤクザがいるか?いないだろ。つまり、そういうことだ」
「どういうことよ?」
「正義の味方ってことですわ」
「街を守っているんだ、当然だね」
そう言って、珍しくYESマンになった2人が続いた。ポンコツと言われたのが相当ショックだったようである。心を入れ替えたか?
「こういう時は、本当に頼りになるな」
「これで、私たちの名誉挽回できましたわ」
「本当に、そうか?」
結局、少女の俺達への好感度は下がったように見える。良く考えて欲しい。俺たちがやったことと言えば、劇物のお茶飲まして、他人を恫喝したくらいだ。見直す要素なんてないぞ。
少女との心の壁を感じるのは俺だけだろうか?
まあ、ここのヒーロー支部に預けて終わりにする予定なので、少女からの好感度何てどうでも良いのだが……ただでさえ、俺はトラブルメーカー2人を抱えているのだ。3人目は勘弁して欲しい。
「良いか、何を言われても黙ってろよ。怒ったら負けだぞ」
「何の話ですの?」
「総督何て、肩書ばかりで碌な奴がいないってことさ」
俺はそう言って、口を開かないように釘を刺しておいた。本当はここに置いていきたいのだが、ここに置いていったら、そいれはそれで何をするか分からない。じゃあ、何で連れて来たと言う話である。
「お待ちしておりました」
エレベーターが開くと、一人の女性が待っていた。声の感じから、先ほどの秘書のお姉さんだろう。
とても好意的でない視線を感じる。しかし、ここはプロだ。総督の部屋まで嫌味の一つも言わずにつれて行ってくれた。
「失礼します」
そう言って、秘書のお姉さんが総督の部屋に通してくれた。
「何かようかね。儂は忙しい」
そう言って、その男はゴルフのパターの練習をしていた。そう総督と名乗る小太りのおっさんはパターの練習をしていたのだ。
「あなた……」
「鳳凰院、黙れ」
俺は、そう言って鳳凰院先輩を黙らせた。言いたいことは分かる。こいつに比べたら、鳳凰院先輩の方が役立たずでも立派なヒーローだ。
「部下が失礼しました、総督。初めましてなりますね。スターズの青田泰裕と申します」
「青田?もしかして、父親はトップヒーローの……」
「はい、父はトップヒーローをやってます」
間髪入れずに、そう返した。親父のヒーローネームがダサすぎるので、出来れば聞きたくないのだ。俺の心にダイレクトアタックされるからな。
「……そうか、よく来たね」
ここでも、親父の名前は絶対らしい。
ようやくこちらを振り向いた男は、握手を求めて来た。俺はその手を取る。にっこり笑って握手した。
「総督の渋川征基だ。かけなさい」
そう言って、総督は俺たちをソファーにかけるように誘導する。
ふかふかソファーで、何百万もするものなのはかけた瞬間分かった。
「粗茶ですが」
そう言って、秘書のお姉さんがお茶を用意してくれた。当然のようにエメラルドグリーン色じゃないし、凄く美味しい。どこかのポンコツとは違う。トレードしてくれないだろうか?こっちは鳳凰院先輩と光をセットで出すぞ。さっき嫌われたので、駄目だろうか?
「お茶菓子も食べなさい」
見透かされたようで、茶菓子まで進められる。
何これ?凄く美味しいんだけど。羊羹かと思って食べたけど、蜂蜜レモンのようなさっぱりした甘さと酸っぱさが口の中に広がり、生チョコレートのような滑らかさまである。
「食べている場合ですか?」
あの鳳凰院先輩から、まともなツッコミが入った。
「確かに……でもお代わりもらえますか?それとお土産用に包んでもらえますか?」
「狡いぞ。俺もお代わりだ」
「聞いてましたの?恥ずかしいことしないでください……後、私にもお代わりください」
おい、鳳凰院、お前も頼むのか?総督は青筋立ててたが、秘書が小ばかにしたようにお菓子とお茶のお代わりを持ってきてくれた。良い人だ。毎日お菓子とお茶のために通おうかな?
「うちの名物は美味しいだろう。おたくには何もないからね」
うちの街のことを言っているのだろうか?
うちの街にだって、百合饅頭という訳の分からないお菓子があるぞ。馬鹿にすんなよ。女性しか買えないから、食ったことないけど美味しいらしいぞ。
「ふー」
お茶菓子も食べたし、お土産までもらったので本題に入ることにしよう。
「ご馳走になってから、こういうこと言うのも申し訳ないのだけど、この子、おたくの街の住民らしいので、保護してくれませんかね?」
「うちの街の住民か?チェックするので名前を教えてもらえますかな」
「ええと……」
そう言えば、名前なんて知らなかった。
「百瀬蘭です」
「ほう……ふむふむ。なるほどね。魔王の血を引く娘か」
汚物でも見るような目で、総督は蘭のことを見ていた。
「そうなんですよ。魔王の血を引いているんです。その上、悪の組織にも狙われている」
「知ってるよ、うちのドームで暴れたコレクターズだろ」
「コレクターズ?」
Aランクの悪の組織だ。珍しい血の人間を集めているとか何とか……絶対に相手にしたくない。
「まあ、そういう訳なんでこの子のことお願いしますよ、総督」
お菓子も食べたし、逃げるように帰ろう。
「何故だい?」
「何故?おたくの街の住民でしょ」
しかし、雲行きが怪しい。
「若いな」
総督は深いため息を吐いた。その後の総督の言葉は無機質なもので、とても同じヒーローの言葉とは思えなかった。
「その子がいると、うちの街に大きな犠牲が出る。うちの住民が危険な目に合うんだ。そのことは分かるね。だから、儂の出来ることは彼女の幸せを影ながら祈ることだけじゃ。出来れば、人気のないところで幸せになって欲しいね。儂は総督として、全体幸福を守る必要があり、個人的な1人の幸福を守ることが出来ない。それがヒーローと言う存在だ。ヒーローはたった1人の幸せを祈れないんだよ。非常に残念だ」
「!」
鳳凰院先輩が机を叩いて立ち上がったので、服を引っ張って無理やり座らせた。
「何故ですの?」
「怒ったら負けだと言ったろ。光も止めろ。俺はここにビジネスをしに来てるんだ。喧嘩しに来たんじゃない」
片手には、反射的につかんだ光の裾も握っていた。血の気の多いやつらである。
蘭の方を見ると何とも言えない表情をしていた。悔しいのか、悲しいのか、それとも絶望しているのか分からない。
「流石、総督です」
「正気ですの……」
俺の隣で、鳳凰院先輩が吐き捨てるように言った。
「きっと総督は、娘さんがピンチでも全体幸福というやつを重んじるのでしょうね。俺にはできません」
俺なら、街を捨ててでも美涼を助けるだろう。1番大切なものを守らないなんて俺には出来ない。でも、きっとこの総督はそんな覚悟のあるヒーローではないのだろう。でも、娘を人質にとって脅すなんてことは俺にはできないし……
「分かりました。彼女は俺が守ります」
でも、俺のターンはここからなんだぜ。全て計画通りと言える。後は俺の運しだいだ。
「は?君がかい、それは有り難い」
可愛い女の子につられた馬鹿なヒーローでも見る目だな。
「でも、おたくの街の少女を守るんです。代金を請求させてください」
「代金だと?何故、うちの街が負担しないといけない」
「おたくの街の少女を守るんだ。当たり前だろうが」
そう言って、俺は総督を睨みつけた。
「ヒーローは見返りを求めてはいけない。君も知っているだろ」
「そうですわ。馬鹿なことを言うのをおやめなさい」
「違うな、間違っているぞ。個人的な見返りを求めてはいけないだけで、うちの街に寄付してくださるなら、それは別問題です。全体幸福ってやつですよ。うちの街は儲かる。少女は助かる。貴方の街は危険から遠ざかる。ウィンウィンでしょ?」
「……いくらだ?」
しぶしぶと言う感じで、総督がそう聞き返す。勝ったな。
「10億」
「馬鹿か貴様。小娘1人に10億出せと言うのか?」
人に値段をつけるつもりはない。でも、土地を買い温泉を掘り、施設を作るにはそれくらいかかるのだ。
「お前はヒーローの恥だ。少女を金儲けの道具くらいにしか思ってないんだろ」
どの口が言うのか、そう吐き捨てられた。
でも、痛いところを突かれている。 確かに、今どういう顔をしているか、俺は少女の顔を見ることが出来ない。ヒーローの癖に、悪の組織のスパイの癖に、怖くて出来ないのだ。
「結果的に、皆幸せになる。ウィンウィンだ」
一歩も引かずに、そう吐き捨てた。後は運に天に全てを任せようと思う。悪の組織に願うなんてヒーローのやることではないがな。
でも、その時警報が鳴り響いたのはきっと偶然ではないだろう。トラブルメーカーが3人、必然だ!
「何だ?」
「総督、悪の組織です」
「何だと……」
さあ、総督、ここにAランクの悪の組織と戦える戦力があるかな?
我慢比べといこうじゃないか?招かれざる客は、望まれるように来たぞ。




