第5話:人より風呂
「はーーー、馬鹿じゃありませんの。温泉で街おこしできると本当に思ってますの?」
「思ってる」
「何も分かってませんわね。私の考えた鳳凰院スタイルの方が100万倍ましですわ」
鳳凰院スタイルってなんだよ?
そんなものと俺の革新的な政策を一緒にしないでもらえるか?
「鳳凰院スタイルって何?」
ローリー博士が質問する。正直聞きたいような聞きたくないような複雑な心境だ。だって、どうせろくでもないものなんだもの。
「鳳凰院スタイルは、私が考えたヤングでナウい最新ファッションですわ」
……気づけ鳳凰院、ナウいとか言っている時点で時代に一歩も二歩も置いてかれているぞ。
「……そうか、アゲハちゃんは静かにしてようか?」
やんわりと、ローリー博士が『黙ってろ』と言って鳳凰院先輩を黙らせた。仮に素晴らしいファッションだったとしても、街おこしはできなからな、。仕方ないね。
お母さんに叱られた子供の用に潮らしくシュンとしている鳳凰院先輩を見ながらそんなことを思った。
「見えてないな。お前はリアルが何も見えてない」
「お前も何か考えてきたのか?」
明らかに、聞いてほしそうな顔をしている光。顔に出やすいやつである。聞き返してやった。
「聞きたいか?」
どや顔うぜえ。
「言わなくて良いぞ。時間の無駄だ」
「え?待って」
イラッと来たので、話を進めることにした。前の生徒会は鳳凰院先輩以外、馬鹿がいなかったのだがな。
他の奴らが残っていたら何て、間違っても思ったりしない。でも、恋しく思うことは俺の自由だろう。
「では、本題に入るが」
「ヤス君、話を聞いてあげなさい」
「姉御~」
「聞く価値があるとは……」
「聞いてもないのに勝手に判断するのは駄目だ」
「…………」
聞く価値があるとは思えないのだが、ローリー博士が言うなら仕方あるまい。
「自信があるなら言ってみろ」
「アニメだ」
「帰れ」
アニメで街おこし。確かにそんな話は聞いたことあるが、この街とコラボしてくれるようなアニメがないんだよ。仮に自主制作やスポンサーになってアニメを作ったとして、それが放送されるまでにどれだけの時間がかかる。俺たちはきっと卒業していなくなっているだろう。
それに、この街は安全なことが売りの何の産業もないベッドタウンだった。人がいなくなっていく現状を早く止めないと街がスラム街になって何をしても意味がなくなる。
「ヤス君、本題に入るんだ」
視線でごめんねと送ってきながら、ローリー博士がそう促した。別にローリー博士は悪くないので責めるつもりはない。
「数百年前、ここには首都があった。魔王の作った首都がな。土地はいついかなる時でも街を作るうえで重要になってくる。それなら魔王は何故、ここに首都を作ったのか?……ここは霊験あらたか土地だからだ。つもり、霊脈が重なっている土地なんだよ」
「それは知ってますわ。しかし、霊脈は魔王によって使われ、さらに英雄王によって魔王ごと更地にされましたわ」
「地上わな。それに数百年たっている。ここまで言えば分かるだろ」
「だから、地下を掘ってみると言うんですの?」
「その通りだ。地上は英雄王の馬鹿が吹っ飛ばしてしまったが、地下資源は問題ないはずだ」「馬鹿って、罰があたりますわよ」
鳳凰院先輩は、そう小さく呟いたが異存はないらしい。
「でも、温泉が出たからって人気出るのか?アニメのほうが……」
光がまだ何か言っていた。懲りないやつである。
「普通の温泉だったら意味ないさ。でもここは霊脈なんだ。霊脈からでる温泉は普通の温泉じゃない。傷や病気に効能があるんじゃなくて、実際に治療できるんだ。時代によっては聖水やポーションなんて言われ方もしている」
「それが本当なら、どうして話題になってないんだ?」
「理由は2つある。1つ目は霊脈が重なっている場所はこの星には2つしかないんだ。奇跡の土地なんだよ。そして2つ目、ヒーロー本部がもう1つを独占しているんだ」
「ああ」
光も察したような顔をした。この星の財はほとんどヒーロー本部が独占しているからな。やりたい本題と言っても良い。でも、この温泉だけはトップヒーローのために使われているので、ありがち間違っているわけではない。
一般にも広く使用を認めたのならば、その力は100年と持たないだろう。ただの温泉になってしまう。全体のことを考えるのなら、トップヒーローが使うべきだ。彼らは決してしんではいけないのだ。そういう使命の中で生きている。
「ここが霊脈なのは誰でも知っているし、地下資源があるということも昔から言われている。でも、それでも誰も開発しなかった理由をヤス君も知っているだろ」
「魔王の兵器が地下に眠っているからですか?」
「そうさ。古代兵器と言われているそれが前に掘り返されて、大暴れした事件を君も知っているだろう。それ以来、ヒーロー本部はここを掘ることを禁止した。君の権限があれば、掘れるかもしれないけど、古代兵器が出てきたら君はどうする?」
答えは決まっている。だから、これはローリー博士が俺を試しているのだ。その覚悟が君にあるのかと……覚悟はあるさ。俺はヒーローである前にフェイカーだ。俺のせいで今守ったはずの街が死のうとしている。それなら、それを救うのがヒーローとしての俺の役目なのだ。
何より、これは俺自身が心の底から望んで、やりたいことなのだ。
「……決まってます。古代兵器を掘り起こしたのなら俺が破壊します。リスクを恐れて進まないのは俺たちのやり方じゃないでしょ」
ローリー博士がにやりと笑った。
「そうだね。でも完全破壊したら駄目だよ。私が解析できなくなるからさ」
「……決まったようですわね」
「仕方ないな。手伝ってやるか」
何でお前ら、ローリー博士に便乗して一仕事終えたような顔しているんだよ。お前らいつも通り何もしてないだろ。
もっと、俺の役に立てとは言わないけど、もうちょっと大人しくしてろ。良い所に出てくるな。変に存在感だすな。
「グッドモーニング」
そんなタイミング最悪なやつから通信が来た。元理事長だ。
「通信を切ってもらえますか?」
「良いの?」
「あのババアの面は見たくないんです」
「ちょっと待ちなさいよ」
理事長が慌てたような声をだした。
「なんだ?糞ババア」
「最近、私への態度が日に日に酷くなってない?」
「誰かさんに招待されたヒーローショーで酷い目に合いましたからね」
「でも、あなた別に戦ってないでしょ」
表向きとしてはそうだけど、フェイカーとして参戦しましたよ。それに何より、うちの美涼を危険な目に合わせたことが許せない。
「前に私がチケットを渡したヒーローショーだけど、あんな事件がなければあなたに合って欲しい子がいたの?」
「勝手に本題を話し出すな」
「どうしてヤス君、あんなたに怒っているの?」
「家族と一緒に行ったヒーローショーに悪の組織が現れて、最後まで楽しめなかったって切れてましたから」
「それで八つ当たり、情けないですわ」
勝手に、後ろで会話は始まった。八つ当たりじゃないし……違うからな。そんなシスコンを見る目で俺を見るんじゃない。家族愛が重いだけだ。
「その子は可哀想な子で、魔王の血を引いているから血筋を隠してずっと生活してきたの……でも、あのヒーローショーの事件に巻き込まれて、その血筋が悪の組織にばれてしまった」
まさか……
「その子のお母さんとは知り合いで、私が極秘に守っていたのだけど、私はもうこの街の担当じゃないから、あなたに引き継ごうと思ったのだけど、私の時より悪い状況になっていて、私も非常に心苦しいのだけど、仕方ないわよね。そう言う星のもとに生まれたあなたが悪いのよ」
ふざけんじゃないぞ。
「シスコンのあなたなら手を出す心配もないし……」
今なんて言った?戦争しても良いんだぞ。
「凄くかわいい子よ。アイドルやっているのだから当然よね。もうすぐ隣街からそっちに行くと思うから……」
おい、ふざけんな。言いたいことだけ言って切るつもりだぞ。俺は親会社に無理難題押し付けられる子会社の社員じゃないんだよ。拒否権があるんだ。
「だが、断る」
「……それじゃ宜しくね」
聞こえていたのに、切りやがった。面倒ことを押し付けてくるんじゃないよ。俺は温泉を掘るのに忙しいんだ。本当に子守なんてやっている暇ないんだよ。
その時、生徒会のドアをノックする音が響いた。どうやら神は考える時間すら俺にはくれないらしい。本当、ヒーローって孤独で不幸だと思う。
「どうぞ」
鳳凰院の馬鹿が勝手にそんなことを言った。『どうぞ』じゃないんだよ。話聞いてたか、俺たちは今からこの街のために温泉を掘るんだ。守りたくもない、女の子のために頑張る何て、俺の今の仕事じゃないぞ。
ヒーローが仕事を天秤にかけるのかと言われるかもしれないが、はっきり言ってやる。ヒーローだって人間だ。やれることとやれないことがあるんだ。
制服姿の女の子が入ってきた。中学生の時にその制服の学校に何度か言ったことがあったので、隣街の制服だと言うのは一目見ればわかったし、その少女があの女の子だと言うのも一瞬でわかった。
アイドルね。確かに中学生と思えないほど大人びて整った顔をしている。あの時は気づかなかったが、艶のある珍しい黒い髪をしている。確かに守ってあげたくなる綺麗な子だ。
しかし、そんなの関係ない。俺はこの街のヒーローで隣街の少女を助けてやる義務はないのだ。
「帰れ」
俺は少女を生徒会室から、押し出した。ツンデレじゃないぞ。本当に追い出したのだ。俺の温泉計画の邪魔になる奴は許さない。
だって、俺は……温泉王になる男だからな。人よりも風呂、これが権力ってやつだ。
しかし、運命は複雑に交錯し既に逃げらない状況になっていることを泰裕は知らなかった。役者は既に揃い歯車は1人の少女によって回されていたのだ。
本人が望まないとしても、敵は泰裕の前に現れる。元理事長の言うようにそういう星のもとに生まれたとしか言いようがないのだ。だがそれこそが、トップヒーローになる人間の資質とも言えた。




