第4話:新生徒会
この世界の最強戦力はトップヒーロー達だ。この科学が発達した時代においても、たった1人の人間があらゆる近代兵器を凌駕する。泣く子も黙るヒーローとはよく言われたもので、強者のみが纏う風格をもっている。
極悪非道の悪の組織であっても、このトップヒーローに会った際は子供と同じだ。良く回る舌は乾ききり、修羅場をくぐってきたはずの猛者も尻尾をまいて逃げだす。トップヒーローはそういう存在だ。
しかし、だから平和なのかと言えば実は違う。トップヒーローは育てようとしても育たないのだ。生まれながらの天才を手塩にかけて育てても、トップヒーローと言う人智をこえた人間を作ることは、ヒーロー本部にも不可能だった。
彼らは実戦の中で才能を開花させたものたちばかりなのだ。生死をかけた戦いを1度・2度突破したものにしかたどり着けない極致に居る。世界中から才能のある子どもを集め、何億・何兆つぎ込んだ施設を用意しても、天才たちはその極致にたどり着けなかった。
ゆえに、ヒーロー本部は偶発的に生まれるトップヒーローの損失を恐れている。ヒーローは負けることを許されない。その最たるものが、トップヒーローであり、彼らこそ、ヒーロー本部の権威の象徴そのものだからだ。
その結果生まれたのがランク制である。Aランク・Bランクのような悪の組織のランクはヒーローがヒーローを守るために作られたのだ。
その中でもSランクは大きな意味を持つ。Sランクはヒーロー本部がトップヒーローが負けることもあり得ると判断した際に与えられるランクなのだ。ゆえに、トップヒーローを1人で戦わせることは絶対にしない。1人で戦わせて負けてしまいましたでは、失う損失が計り知れないからだ。
Sランクの悪の組織があらわれることなど滅多にないことであるが、それでも何かの間違いで現れるその組織に対して、ヒーロー本部が静観を決め込むのはいつものことである。
そう戦わないのである。入念に準備して確実に勝てる状態を作るまでヒーロー本部は動かない。そうやってヒーローの不敗伝説を作るのだ。
それは組織として非常に合理的で正しい。だが……
「……ヒーローに見捨てられた街か」
もう街には昔のような活気はない。人口が激減したためだ。
これも全部悪の組織『ミステイク』のせいである。
そう考えると自虐的な笑みが漏れた。俺はヴィランとして所属している組織こそミステイクなのだ。なのに、俺はヒーローでもある。
「遅いですわ」
生徒会室に入ると、開口一番その少女は口を開いた。朝からデカイ声で騒がないで欲しい。ヒーローショーが途中で中止になったことにご立腹だった美涼の愚痴を、ずっと聞いていて寝不足なのだ。
「文句あるのか?」
少し学切れ気味に返事を返す。これで普通の女なら黙るだろう。
「あるに決まっているでしょう」
しかし、その人は怯むことなく。大きく綺麗な瞳を見開いてこちらに向かって来た。引くことを知らない女である。指差しながら彼女は宣言した。
「あなたが私から奪い取った生徒会長でしょ。なら、誰よりもしっかりしなさい。例え13秒の遅刻だって許しませんわ」
相変わらず人に厳しく細かい嫌な女である。
鳳凰院アゲハは俺の先輩である。俺が2年で、あちらは3年生であるが、俺に負けて生徒会長の座を奪われたので、俺の部下である。とやかく言われる筋合いはない。
「13秒ごときでガタガタいうな。皺が増えるぞ」
「うまあ、誰のせいだと思ってますの?それにあなた何ですかそのだらしない格好は?ネクタイが曲がってますわ」
そう言って、鳳凰院先輩は人のネクタイを勝手に直しだした。かと思うと……
「良いですか、あなたは人々の規範となるべきヒーローなんです。人の手本になる人になりなさい」
説教しだすのだから、良く分からない女である。女心は分からないというが、この人が何を考えているのか、俺には分からない。
「はいはい、分かったよ」
「『はい』は一回です」
面倒くさい。首にしてやりたい。
「朝から災難ですね」
そこには、すっかり鳳凰院色に染められた七瀬光がいた。不良みたいな厳つい格好はすっかり劇的ビフォーアフターを済ませ、七三訳の前髪が綺麗にセットされている。
「変な頭」
俺はそう言い捨てて微笑んだ。光の笑顔は明らかに歪んでいるが、顔に張り付いているようでそれでも笑顔を保っていた。
「世の中は全てが7:3。完全なる黄金比」
「馬鹿じゃないの?」
大きな音を立てて、光が立ち上がった。しかし、鳳凰院先輩の咳払いが聞こえると、調教されているのか席に座る。
「そんなに部下をいびるのが楽しいですか?」
いびる?それは生徒会長時代のお前が俺にしてたことだろうが……
「はあ、碌なやつがいない」
俺は本音をぽろっと漏らした。
「うるせえ、お前のために生徒会に入ってやったのにその言いぐさはなんだ。俺はこんな糞ダサい七三で頑張っているんだぞ」
ついに光がきれて立ち上がる。
「嫌なら髪型変えればいいだろう。散髪代くらい経費で落としてやるぞ」
「うう……変えていいのですか?」
光は泣き出した。どんだけ嫌だったんだよ七三。
「甘やかしてはいけません」
「え?」
光の希望を鳳凰院先輩が叩き折る。
「いや、甘やかすとかそんな問題じゃないだろ」
「七三」
ついに友人が七三で会話しだしたぞ。そこまで来たらもうアイデンティティじゃないのか?キャラたってきた気がするぞ。
「七三の黄金比が健全な心を作るのです」
「七三への熱い信頼感は何処から来るんだ?」
「七三」
ついに光が鳴き声のように『七三』とか言い出したぞ。頭、大丈夫か?
七三だったわ(笑)
今の生徒会はかつての生徒会とは違う。俺を含めて碌でもない人間だけが残っている。精神だけが立派で役に立たない鳳凰院先輩、ビビりで役立たずの癖に友達のために無理してヒーローをやっている光。そして、悪の組織のスパイで論外の俺である。
ここまで最悪な生徒会もないものである。これも全部、生徒たちが逃げるように転校して行ったからである。カスみたいなやつしか残らなかったので、生徒会長の俺に選択権があっても、選択肢はなかったのだ。
そんな生徒会三人にまとまり何て期待できるわけもなく、言い争っているのは日常だ。
でも、昔はもっと酷かったんだぞ。言い争えるのは体力に余裕があるからである。
「グッドモーニング」
これも全部この人のおかげである。
「ローリーさん、ごきげんよう」
俺とはうって変わって、鳳凰院先輩が満面の笑顔であいさつした。少女漫画だったら、バックでお花が咲いてそうだ。
「おはようございます」
「七三」
その人の登場に雰囲気ががらりと変わる。小柄な中学生のような少女。しかし、飛び切りの頭脳と整った容姿をもっている。熟女好きでもない限り、彼女を見かけたら可愛いというだろう。今日も白い白衣に身を包み、ローリー博士が出勤した。
「光るん、誰が73だよ。僕はもうちょっと大きいよ」
そう言って、ローリー博士が光に詰め寄った。バストの話だろうか?絶対に嘘である。
「光るん、そのダサい七三は何を意識しているんだい?似合ってないからやめたら」
ローリー博士が光を見て、そう言い捨てる。嫌味なくさらっと言えるのは流石だ。
「そうですわ。直ぐに止めなさい」
「え?」
鳳凰院先輩がいきなり手のひらを返した。あんたさっきまで何て言ってたよ。あんぽんたんだから忘れちゃったのかな?
これには光も納得いかないという顔をしている。
「ははん、アゲハちゃんがやらせてた訳ね」
ローリー博士が、全てを見透かしたように言い放つ。二人ともヒーローの癖に顔に出やすいからな。ヒーローたるものしたたかでないといけない。
鳳凰院先輩の何故ばれたと言う顔が正解であることを物語っている。
「後輩を虐めたら駄目だよ」
「虐めては……はい、ごめんなさい」
「姉御~」
力関係が完全に出来上がっていた。鳳凰院先輩はローリー博士が遅れてきても何も言わない。社長が重役出勤してもなにも言われないのと同じだ。当たり前くらいに思っている。
光は、最初こそ年下にしか見えないローリー博士にため口を聞いていたけど、今では『姉御』としたっている。
ローリー博士は満足げに頷くと生徒会長の椅子に座る。一応、俺の席なんだけどな?
俺とローリー博士は、ここでは俺が雇っている外部の人ということになっているけど、悪の組織では上司と部下だ。力関係なんて言うまでもない。
「ヤス君、ブラックコーヒー砂糖マシマシで」
それはもはやブラックコーヒーではないのだが……そもそも、何で俺がそんなことをしないといけないんだ。
表面上、ここで一番偉いのは俺だぞ。学校だけではない、この街の責任者である。それに、俺は人に使われるのが嫌なのだ。
「あの……俺、一応ここのトップ何ですけど」
「ヤス君が淹れたコーヒーが一番美味しいからさ、駄目?」
「直ぐに淹れてまいります」
どこぞのチェーン店よりも美味しいコーヒーを淹れてやるぜ。
ちなみに、生徒会長権限で素材も器具も全て経費で落としている。俺に抜かりはないのだ。
「コーヒー淹れました」
「ご苦労様。うん美味しい」
そう言いながら、ローリー博士は生徒会長の机の上でPCを操作している。ローリー博士はプログラムを組んで、人口AIをアップグレードしてくれている。
今は何でもAIがやる時代ではないのだが……超技術によって、本来俺達三人が寝ずに働いても出来ない作業を、AIがものの数分で片付けてくれている。無能ばかりの生徒会であったが、このおかげで機能していた。
しかし、その代償は大きい。ヒーロー本部のネットワークにアクセスされているので、少しずつ情報が盗られているのである。まあ、ヒーローとしては見過ごせないが、俺は悪の組織の人間でもあるから大いに結構である。
そもそも、俺はスパイでそれが俺の仕事だ。ヒーローとして得られた情報を、所属している悪の組織に流す。それで俺は給与をもらえるし、悪の組織も儲かる、ウィンウィンの関係である。さらに、崩壊してもおかしくない生徒会も機能しているのだから、一石三鳥である。
何はともあれ、平和である。ミステイクのせいで、人口は激減したが悪の組織もミステイクの縄張りにやってくることなんて今では滅多にない。フェイカーが頑張って粛清しているためだ。だから、今は別のことに集中できる。
「ヤス君、終わったよ」
そう言われて、俺は咳ばらいをするとともにホワイトボードとスクリーンを用意した。
「これより、第三回目の街おこし会議を行います」
俺たちの街は安全なことだけが売りのベッドタウンだった。しかし、Sランクの悪の組織の登場によって、その認識は崩れ去った。
ミステイクは表立って暴れることは滅多にないし、不殺を理念にしている悪の組織であるが、そんなことは世間の皆様には関係ない。出て行く人は出て行くし、人口は減っていく一方なのである。
出て行ける人は良い。でも出て行けない人たちはどうなる?
この街にしか仕事がなく、この街が好きで、この街にしか居場所がない人はどうなる?
ヒーローとして、例え無理やり押し付けられたとはいえこの街の最高責任者として、そういう人たちを救うのが俺の仕事だ。俺は街おこしをして人口を取り戻さないといけない。雇用を創出しないといけない。
そのためのプランがこれだ。
「温泉を掘ります」
「え?」
「は?」
俺の案に二人は怪訝な顔をしていたが、可笑しそうに、でも嬉しそうに、ローリー博士だけが頷いていた。




