第3話:その少女、何者?
「私が来たからもう安心よ」
キリッという擬音が聞こえそうな声音で、魔法少女が呟いた。
その言葉に反論してやりたいが、残念ながら顔を踏みつけられて、パンツガン見の状態で何を言っても説得力がないだろう。ただ、俺の名誉のために言っておくと見たくてみている訳じゃないぞ。パンツ何て透視能力を使えばいくらでも見れるからな。ただ、見たくない訳ではないぞ。
「あの……」
「何かしら?」
「踏んでますよ」
「……?」
魔法少女は助けた少女の言葉を聞いて、?マークとともに下を向いた。
助けてくれ、こんな時どんな顔をすれば良いか分からない。
「きいやああああああああああ」
うるさい女だ。そんな叫んだら俺が悪いみたいな空気になるじゃないか。そして、仮面を蹴るのを止めて欲しい。痛くないけど、痛くないんだけど、止めろ。
俺は、タイミングを見計らって、股下からの脱出を試みた。
「信じられない、信じられない、信じられない」
脱出に成功すると、魔法少女は今だに興奮が収まらないようで、俺のことを涙目で睨んでいた。こう言っては申し訳ないが、全く怖くない。
それよりも、助けた女の子が放り出され、お尻から地面に落ちてたけど、大丈夫だろうか?
「あなた、ヒーローショーを潰しただけじゃなく、私の……パ……下着を覗き見るなんて、屑にもほどがあるわ」
「え?」
「え?」
助けた女の子とともに綺麗にはもってしまった。何言ってるんだ、こいつは?
「ちょっとネットでもてはやされて、勘違いしちゃったみたいだけど、年貢の納め時ね、フェイカー。この極悪人」
「帰って良い?」
「い……いい訳ないでしょ。乙女を辱めといて」
今にも少女は爆発しそうだった。別に煽っているつもりはないのだが、ただ関わり合いになりたくなかった。こういうタイプは苦手なのだ。仲良くなるつもりもないけど、一生仲良くできないだろう。
俺は深いため息を漏らした。そうすると肩にそっと手を置かれる。
「謝った方が良いと思うよ」
「は?」
なんでお前が言うんだよ。変態タキシード野郎。
「可憐な乙女を辱めたのです。人の風上にも置けない行為だと私は思います。恥をしりなさい、恥を」
コイツ、『うら若き少女の顔を絶望で歪ませる職人』とか名乗っておいて、何言ってんだ?
初めて明確な殺意を覚えた。
「それで、何色だったんですか?録画はしましたか?」
コイツ……先ほど言ったことをもう忘れたのか?
「録画?」
要らない所に、魔法少女が引っ掛かる。もうお家帰りたい。美涼の手料理が食べて。家で映画でも観ながら2人でゴロゴロして癒されたい。ヒーローショー何て来るんじゃなかった。
元理事長の顔面に一発ぶち込んでやりたい。
「許さない。あんただけは許さない」
魔法少女は文字通り火が付いたようで、髪の毛が逆立ち紅蓮の炎をともしている。この感じは覚えがある。サタンだ。やつと同等かそれ以上の強い炎を感じる。
本当に碌なことがない。この魔法少女強いぞ。
ここは俺が大人になって、平和的な解決をしようじゃないか?
俺は別に戦いに来たわけではないのだ。目的は果たしたし、もう家に帰りたいだけなのだ。こんな女と関わっても何のメリットもない。文字通り火傷したら大変だ。
「魔法少女よ。落ち着いて話を聞いてほしい」
俺は意を決して口を開いた。
「今さら、何よ?焼き加減の相談なら聞かないから。あなた死ぬのよ」
魔法のステッキは飾りなのか、右の手のひらから紅蓮の炎を出していた。俺、死ぬほど悪いことしたかな?段々腹立ってきたぞ。
「さあ、何してるんです。早く謝るんですよ」
コイツに至っては、どういう立ち位置でものを言っているのか分からない。そもそもこいつが諸悪の根源じゃないか。やっぱり、俺が謝ると言うのはどう考えてもおかしい気がするんだ?
だって……
「たかがパンツみただけだろ。布きれ1枚に大げさなんだよ」
「ちょっと、あなたそれは私は無類の魔法少女好きと知っての狼藉ですか?分かって言ってるんですか?」
「お前の性癖何て知るか。汚い手を離せ」
俺は、タキシードの手を凍り付かせるとともに払いのけた。外に排出した水も戻って来たし、水道からも水の供給が出来た。時間稼ぎのために大人しくしてたが、これだけ水のあるフィールドで俺が負けるわけ合ない。
「たかがパンツですって……嫁入り前の女の子のパンツ見といて、何て言い草なの……お嫁に行けなかったらどうするのよ」
「俺は悪くない、ゆえに謝らないし、むしろこの俺を足蹴にしたことを謝ってくれ」
「……宜しい。ならば戦争だ」
何故、俺と魔法少女の問題にこいつが入って来たのか分からないが、3つどもえ睨み合っていた。
タキシードは黒いオーラーに包まれる。魔法少女の炎はドームの3分の1を覆い尽くすほどに膨れ上がる。臨戦態勢というわけか、面白い。銀子さんとの修行で生み出した俺の新必殺技をお見舞いしてやる。
「やめろーーーー」
「なっ」
それは少女の叫びだった。その叫びによって黒いオーラーは霧散し、炎も火の粉になって掻き消えた。それだけではない。大量に貯蓄していた水も消えてなくなったのだ。能力を無効化したとしても、水は能力でコントロールしていただけで、生み出したわけではない。消えるのはおかしい。
「素晴らしい、素晴らしいですね?」
「俺に同意を求めてくるな」
「どうなってるの?説明しなさい」
「お前もか、俺に聞くな」
「とんでもないことが起きていると言わざる負えない」
何でお前が答えるんだ。それにそんなの誰でも分かるわ。どや顔するな。今度は全身氷漬けにするぞ。
「フェイカー、とんでもないこととは何?答えなさい、何を企んでいるの?」
何も企んでねえよ。いい加減俺を犯人扱いするの止めろ。
「隣の奴に聞け。こいつが元凶だ」
「嫌よ」
「何でだ?」
「何故です?」
俺の「隣の奴に聞け」発言で、嬉しそうにしていたタキシードも慌てて質問する。
「あなたの仲間、生理的に無理なの。視界にも入れたくない」
タキシードは地面に手をついてうなだれた。「これだからババア」はとか言っている。だが、そんなことはどうでも良い。
「ふざけるな。お前は言ってはならないことを言った」
「何よ?」
「こいつは俺の仲間じゃない。一緒にするな。同じカテゴリーで括るな。同族扱いするな。分かったな馬鹿女」
「誰が馬鹿よ。私にそんな風に言っていいのは……後ろ」
「後ろ?」
さっきの助けた女の子が大変なことになっていた。
金色の光オーラ。ほとばしるこの力は魔力?
「魔王の血だ」
タキシードはそう囁いた。
王の血を引く人間。王様何て過去にいくらでもいたし、それ自体は珍しくもなんともない。何なら俺だって王の血を引いているし、俺の知り合いにも何人もいる。だが、王としての格の問題があるだ。
魔王の威厳も過去の王達と一緒で風化してしまったが、その血には今だに強い力を残していると聞く。魔法と言う力は、スキルと違って一部の限られた人間にしか使えない。魔力の強い人間はそれだけで貴重なのだ。時に売り買いされるほどに……
「貴様ら……」
魔王の血族が口を開いた。凛とした声だった。髪の毛が異質に変形して王冠のようなものを作り出している。噂通り自己顕示欲の強い一族らしい。
「余を置いてけぼりにして話を進めるな。余も混ぜろ。余は中々表に出てこれないのだ」
表に出てこれない?
「探しておりました、姫」
そう言って、タキシードは少女の前に膝を付いた。探してたとか言ってるけど、何か嘘臭いな。
「貴様はこの会場を襲った外道だろ、話しかけるな。余は貴様のことは嫌いだ。余がお話ししたいのは貴様ではない」
哀れなタキシード、お姫様にも振られていた。お姫様はてくてくとこちらに歩いてくる。
「余を救ってくれたのは貴様だな。この肉に代わり礼を言うぞ」
自分の体を肉と称し、少女は頭を下げた。人から感謝されるのは久しぶりなので、不思議な感覚だ。悪くない気分だ。
「フェイカーが救った?何を言っているの?」
魔法少女が?マークを浮かべながら質問する。
「貴様の勘違いだ」
「勘違い?」
「でも、そいつは」
「黙れ、魔女にもなれない尻の青い小娘が、余は貴様と違って間違えたりしない」
すっかり雰囲気の変わってしまった少女は、俺に向かって再度振り向いた。
「余はあまり長いこと顕現していられない。ゆえに余の器はお前が守れ」
「は?」
また、変なことが起き始めたぞ。俺は帰って美涼と過ごしたいんだ。こんな変人3人に絡まれたいわけじゃない。今日は休暇なんだぞ。
「私が24時間、不眠不休で守って差し上げますぞ」
「黙れ」
鮮やかなオレンジの炎で、タキシードは燃やされた。水をかけてやろうかと思ったが助けてやる理由がないことに気付いて止めた。
「これは契約だ。例えお前が拒んでも運命レベルで私たちはひかれあう」
「それは契約ではなく、呪いだと思うのだけど……」
「面白いな。貴様は……また、会おう」
「おい、まるで意味がわからないなけど」
少女の体から力が抜け、再び俺の腕の中に帰って来た。
魔王の血筋の女の子。俺に手に負える代物ではない。フェイカーは悪の組織の人間なのだ。人を守ったりするのは、俺の仕事ではない。俺の目の前で起きたちょっとした事件を、気まぐれで助けるくらいの立ち位置で良いのだ。
「おい、魔法少女」
「何よ?」
「こいつ要らないからお前にやるな」
俺は少女を投げてよこした。運命レベルでひかれあうらしいが、俺は運命など信じていない。それに、俺の表の顔なんて知らないだろ。この少女と出会うことは一生ないだろう。
そして俺は忙しい。明日から何連勤しないといけないか分かったものではないのだ。
「私に下さい」
「黙ってようか?」
俺は懲りないタキシードを全身氷漬けにする。ついでに俺の一撃で気絶しているドラゴンも氷漬けにした。これで一件落着だろう。
悪の組織の人間はクールに去るぜ。
「フェイカー、私は隣街の魔法少女、今回はこの子に免じて見逃してあげるけど私の街で見かけたらただじゃ済まないから。貴方の存在が、どれだけ街に迷惑をかけているか分かってないでしょうけど、パンツを見られた以上に私はそれが許せない」
炎を使う魔法少女、最近俺の街で目撃される謎の美少女か……そんな話を報告として聞いてはいたが、会うのが始めてなので気づかなかった。このまま何も言わずに帰ろうかと思ったが、俺の街の人間なら話は別だ。
「悪の組織の人間に何か期待しているのか?」
「何を?」
「甘いって言ってるんだよ。俺ならそんな捨て台詞残さずに有無を言わせずに殺りにいく」
「……それは私の正義じゃない。私のことあなたごときが決めないで」
頭が痛い。少女の目は曇りがない真っ直ぐだ。俺も美涼のいるあの街から出て行くつもりはないし、ヒーローとしてあそこは俺の縄張りでもある。何より、ローリー博士たちのいる組織のアジトもあそこにある、出て行けない理由の方が多いのだ。
必然、いつかぶつかるしかないのだろう。
後に、大きな抗争に発展する戦いの中心人物たちが、そこには集まっていた。それが運命なのか、誰かの作為なのかは分からない。それでも引かれ合うかのようにそこに集まったのだけは事実だ。
「あれがフェイカーか、魔法少女も見られたし、魔王の血も覚醒した。首尾は上場かな、21」
「そうですね。なかなか面白いショーになりそうです」
「それにしても、君の分身、フェイカー相手に一撃だったね」
21と言われた男は、先ほどのタキシードだった。
「10分の1ほどの力しかないですから」
「それでもフェイカーの方が強いね。……フェイカー、君は私のステージでどれだけの役者になるのかな」
「随分お気に入りのようで」
「君はワクワクしないのかい?私を含め魔法少女の役者は揃った、全ての願いが叶う時だ」
少女は邪悪に笑った。その少女こそ、泰裕の見た最後まで歌っていた少女だった。
21も微笑む。
「ええ」
自身が問題の当事者に既になっていることを泰裕はまだ知らない。




