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ヒーローやってたけど、悪の組織に寝返えってみたら天職でした!  作者: 9
宿敵は魔法少女!?~魔法戦争開演~
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第2話:ファーストコンタクト

 緊急排出されたカプセルが地面に着地した。


「きゃっ」


 衝撃に色んな所が揺れている美涼を抱きしめながら、カプセルを蹴り破って外にでる。


「あの、ヒロ君……恥ずかしい」

「捕まってろ」


 俺は美涼を抱き上げながら、ドームに背を向けて逃げ出した。ドームの中も気になるが、今最も優先すべきは美涼の安全である。他のことは後回しで良い。

 どれだけ悲鳴が聞こえようと、がむしゃらに走った。ただ、ふつふつと沸き上がる感情を抱きながら、戦場を去る。


 2キロほど離れただろう。ここまで来れば安全だ。こういう時のために非難するための地下シェルターのある場所だ。ドームのような大きな施設の近くには、こういうものが用意されている。


「美涼はシェルターの中に入れ」

「ヒロ君は、どうするの?」


 俺は美涼にはヒーローであることも、悪の組織の一員だと言うことも何も語っていない。だから、戦場に行くとは一言も言えない。


「俺は逃げてくる人たちの誘導をする」

「それなら私も……」

「駄目だ!お前は安全なところにいろ」


 そんな顔をするなよ。俺は美涼の表情を見ながら拳を握りしめた。

 あんまりじゃないか……理事長。


 俺はもう理事長でもなんでもないあの人のことを思い出していた。


 どうして、こんな戦場に連れて来たんだ?S席だから大丈夫だと思ったのか?

 否、違うな。あの人でもこんなことはしない。完全にイレギュラーな襲撃だったと考えるのが自然だ。


 怒り以外の感情が俺を冷静にした。美涼の表情が俺に冷静さを取り戻させた。

 状況を読まなければならない。1人でも多く救うにはどうすれば良い?


 こんな時でもベルトは巻いてきている。やるか?


 ヒーローとして戦うのも良いが、ここには戦闘スーツがない。そして何より、ヒーローはトップヒーローでもない限り、担当の地域以外では戦ってはいけないのだ。

 ゆえに、あの元理事長がここに俺を呼んだ理由は戦わせるためではなかったと推察される。きっと別の理由があの中にあるのだろう。


「美涼、安心しろよ。俺は必ず帰ってくるから」


 あのくそ親父と違う。

 俺は振り向かずにドームに向かった。本音を言えば怖かったのだ。どんな顔をしているのか見たくなかった。


 走りながら、フェイカーのおもちゃのお面をつける。顔を隠すためだ。


 ドームの出入り口は人が殺到していて、とても使える状態ではなかった。だからこそ、俺の入り口は空だ。

 スマホにパスコードを入力する。


「変身」


 ベルトから液体金属が溢れ、身体を覆っていく。ナノマシンによって戦闘スーツが出来上がる。


「マスターフォーム」


 ベルトがそう告げるとともに、俺は空を飛んだ。少しだけ飛べるのである。


「これは……」


 ドームの真上に出来た大穴から中を覗くと、どこから発生したか分からない巨大な蜘蛛が人々に群がっていた。悪の組織の一員である俺が、偉そうなことを言えた義理はないが、腐ってやがる。

 中にいる人たちを殺しても何の意味もないじゃないか。


「外道が」


 冷静に中の様子を観察するとともにスキルを発動させる。戦っているヒーローは6人いた。しかし、その6人がドラゴン1匹相手にまるで歯が立っていない。その間に、巨大な蜘蛛たちが動きまわっている。だが、特筆すべきもっとも危険な生き物は、ドラゴンの背にいる男だろう。

 シルクハットと タキシードにステッキ。極め付きはカラス鼻のマスクという舐めた格好のやつがこちらに気付いたのか、ぺこりと頭を下げた。喧嘩売ってやがるな。


 ドームの上から飛ぶ。タキシードは無視だ。まずは……

 少女に迫っていた怪物を押しつぶした。大きな蜘蛛の化け物が嫌な音ともに潰れる。

 少女は声にならない悲鳴を上げた。


 状態は取り返しがつかないほど混乱していると言っていいだろう。その中で俺の存在はどれだけの意味を持つか?


「フェイカーだ」


 誰かが俺の登場に対して、そんな声を上げた。


「フェイカーって?」

「ほら隣町の……」

「フェイカー」


 ヒーローも俺の登場に対して視線を向ける。援軍でないことにがっかりするもの、敵だと思って怒りの眼差しを向けるものと様々だ。


 そんな中、タキシードの男がステッキをで地面をたたいた。

 そうすると、ドラゴンは大きく息を吸い込み、火球となって口から吐き出される。

 

「ひっ、どうにかしなさいよ」


 俺を狙っての一撃だったが、近くにいる助けた少女も例外ではない。小さな悲鳴を上げたとともに、俺の足に縋るように抱き着いてきた。躱すこともできたがこれでは躱せない。

 仕方ないので、目の能力を発動させる。回数制限があるのでこんなに早く使いたくなかった。


『セカンド・アイ』


 ローリー博士がつけてくれたスキルの名前だ。単に2番目の能力だから『セカンド・アイ』らしい。様々な能力が1つのスキルに詰め込まれているので、それくらい単純な方が良いと言っていた。絶対他の名前を思いつかなかっただけである。


 俺は、目の力を解放する。火球はひと睨みすると石になり灰化して粉々に霧散する。消えた火球のさきでタキシードの男と目が合う。


「お前のペット行儀が悪いな」


 俺はタキシードの男を睨みつけた。


「くっくっく、コンクリートでも溶かすんですけどね」

「嘘つけ、あつあつのおでん位の威力しかなかったぞ」

「おでん……良いんですか?」

「何がだ?」

「囲まれてますけど?」


 見ると虫の大群に囲まれていた。先ほどの蜘蛛が徒党を組んで俺を囲っている。正直、好都合だ。俺の準備ももう終わっている。


「ちょっと、あなた」

「うん?」

「あなたのせいで囲まれちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。終わった。私の人生終わった」


 俺のせいではないと思うのだけど……

 黒いアイドル衣装に身を包んだ少女は、先ほどの綺麗なアイドルの少女とは、うって変わって、アイドルとは思えない形相で、慌てふためいていた。まあ、これが普通の反応だろう。


「落ち着け、綺麗な顔が台無しだぞ」


 俺は、まだ大事に着けていたフェイカーのお面を少女に被せた。俺からのファンサービス……否、女の子に見せるには少々刺激が強すぎる。


「囲んでくれてありがとう」


 指を打ち鳴らすとともに、ドームのトイレというトイレから水が噴き出した。波は俺を中心に円を作ると、氷の刃となって蜘蛛たちに突き刺さる。

 準備は上に居た時からすでにしていた。ドームの水道管をぶち破って、水をためておいたのだ。俺の3番目のスキルはエレメント系の中でも、水を操る『神通力』と呼ばれる力だ。・


「所詮、虫は虫だ。何匹いようと人間様には勝てないさ」

「悪の組織の一員のくせに、ヒーローごっこがお好きなようで、それでは人間同士やりましょうか?」

「ごっこはお前もだろう?」


 俺はヒーローごっこと罵ったタキシードに対して、本当の悪とはどういうものか思い知らせてやろうと身構えた。

 ヒーローショー何てやってる2流の雑魚ヒーローなど無視して、視線がぶつかり合う。


「……助けて」

「!」


 しかし、小さく響いたその声が俺を止めた。


 ……何やってるんだ俺は、戦ってどうする。あいつに勝ったところで得られるのは優越感くらいだろう。そんな糞の役にも立たないものいらんわ。

 冷静になって、もう一度状況を見る。この状況でもっとも相手が嫌がることはなんだろう?

そう考えて、指を打ち鳴らす。コントロールされた水が波になって再び押し寄せた。ドーム内に残った人たちを押し流すように外へと誘導していく。タキシードと戦うために貯めていた水も全部使って外へと排出する。


「やってくれましたね。私の選別タイムを」


 そう言って、タキシードが俺を睨んでいる。


「おい、逃げるぞ」


 俺は横に残った少女を抱きかかえた。近くにいすぎたのと氷に邪魔されて、少女を流すことが出来なかったのだ。

 しかし、今日は、女の子を良く抱きかかえる日である。これがもう少しロマンチックな状態だったら、お持ち帰りも考えるんだけど、そんなこと考えていられる場合ではない。


「ふえ?」


 そんな間抜けな声をだす少女に、俺はかっこよく言葉をかけた。


「さらっと行くっていたんだよ。お嬢様」


 逃げるように空に再び逃れる。


「その子だけでも、置いて行ってくれませんかね」


 タキシードはドラゴンに乗って、追いかけて来たようだ。ドラゴンにも虫ども同様に氷の刃を突き立てたのだが、ぴんぴんしている。


「お断りだ。ストーカー野郎」

「違う。私は紳士。うら若き少女の顔を絶望で歪ませる職人です」

「お前、そういうキャラ何だな」


 うちの大事な美涼の半径5メートルに入っただけで通報したくなるぜ。全国のお父さんに謝って死ね。


「なるべくふんわり行くぞ」

「え?何言ってるの?」


 俺は腕の中の少女を上に向かって放り投げた。これで思いっ切りやれる。

 向かってくるドラゴンを睨み、空中で縦に回転しながら落ちていく。踵がドラゴンの鼻にたたきつけた。かかと落としである。


「落ちろ。這いつくばってるのお似合いだ。トカゲ野郎」


 決まったな。これで、後は上から落ちてくる少女を受け止めたら完成だ。俺を上を見上げた。何か縞々が見えたと思うと、顔面に非常に強い衝撃を受けた。

 そのまま下へ重力に引かれて落ちていく。


「ぐえ」


 変な声が出た。首が寝違えたように痛い。何が起きたのか分からない。誰だ、俺を足蹴にしやがったやつは、折角、少女の永遠のトラウマにならないように、格好つけてたのに、俺のアフターサービスを台無しにしやがった。どこの馬の骨だ、ぶっ殺してやる。


「私、参上」

「!」


 この場に似つかわしくない間抜けな声が頭上から響いた。

 顔の上に居たのはピンクと白のヒラヒラの紛うことなき魔法少女だった。手に魔法の杖みたいなのも持っているし、間違いないよな。

 折角逃がすために上に放り投げた少女を抱えて参上しやがった。


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